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罫線ラバーズ

作者: ミカミスミ

堀内マコトは他人に只の一度も笑った顔を見せたことはなかった。

いつも漆黒のスーツにつばのあるハットをかぶり、眉間には峡谷のような深い皺を刻んでいる。彼と関わりのある人物は、これを怒りと捉えるらしいが、別に堀内は特別怒っているわけではない。

単に、生まれつきなのである。


堀内は優秀な暗殺者(アサシン)だ。その腕は東洋どころか西の果てにまで噂が届く、凄絶なものだ。詳しくは前章の「狂乱の血宴会(ブラッディ・パーティ)」に記載済みなので割愛する。とにもかくにも、彼は最凶で最狂なのだ。

しかし、そんな堀内にも過去に一度だけ失敗したことがあった。

それも優雅な午後のひとときに、珈琲片手で思い出すにはとても苦いものである。


2年前に遡ろう。

それは、手足も凍えるような寒い朝に、1人の女スパイが訪ねてきたところから始まった。




「影の追跡者(シャドウチェイサー)さん」


蠱惑的な唇を三日月型に歪め、鈴木原里穂は堀内マコトの首に腕を絡めてきた。鎖骨にかかる生暖かい吐息に顔をしかめながら、堀内は深いため息をついた。


「何故その名を知っている」


堀内にとってその名は忌々しいものに他ならなかった。他人がつけた二つ名などには興味はないが、それでもその名の由来になった3年前の依頼(ミッション)を思い出してしまうからである。


「あのこと、聞いたの」

「…………」


すっと目が細まった。

自然と右手がベルトの愛銃へと伸びた。


「あなた、すごいのね。ノウマンに認められたことは聞いていたけど、あの年で依頼(ミッション)を遂行するなんて。普通じゃできないわ。だいたい自分の親を撃ち殺すなんて、今時殺し屋だってやらないもの」


耳元でカチャ、という音を聞いたときはもう遅かった。鈴木原のこめかみには、黒々とした銃が突き付けられていた。


「んーsorry。降参よ、ちょっと茶化しすぎちゃったかしら?」


けろっと何でもないように笑うと、鈴木原は堀内の胸元から離れた。その高級そうなスリットドレスにはしわ1つついていない。

堀内は呆れたように銃をしまった。


「で、オレに何の用だ。まさかそんな昔話をするために来たのではあるまい」

「勿論よ。あなたに依頼があって来たの」


鈴木原は手近にあった、古い木の椅子を引き寄せる。うっすらとほこりが舞いたち、小さな窓から差し込むかすかな陽光に照らされて白くきらめいていた。


「……言ってみろ」


この言葉が後々の後悔を招くなど、今は思いも




「―――……っ!」

僕は書く手を止め、急いでノートを閉じた。

6時間目の国語の時間。退屈で眠っている人も多いなかで、それは突然このノートに感じたものだった。

誰かの視線。

僕はこの国語のノートに文法だとか羅生門だとかの板書はしていない。小説を書いている。僕である堀内マコトが主人公で、クラスの女子(主に可愛い子)がヒロインの涙ありポロリありのヒューマンラブドラマなのだが、これが存外におもしろかったりする。

授業などの暇潰しに最適で、一番後ろのはしっこだから横か前に注意をはらっておけば見られることもないのだ。


しかし、今感じたこの視線は……?

この物語も第8章に到達したが、未だ誰にも見られていない。見られたとしたら僕は終わりだ。全部実名だし。

けれど前は寝ているし、横は真剣に授業を受けているんだ。誰にも見られるはずがない。

僕はそう思い直すと、再びノートを開いて続きを書こうとした。

そのとき。


「ねぇ」


横からひそめられた声がした。

凄まじく嫌な予感が僕を襲う。

今すぐにでも死んでしまいたいような衝動を無理矢理抑え、ぎちぎちとロボットのように首を向けた。

そこには、授業に集中していると思い込んでいた鈴木原里穂が、頬杖をついてこちらを見ていた。彼女の麗しい瞳が僕を射抜く。


「ねぇ、続きは?」


僕は生まれて初めて死にたくなった。

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