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3.池の秘密?

 まずは、魚、じゃなくて、坂名ではなく修斗と呼ばせることにした。俺のことを、「サカナ」と呼ぶ時のあの目は、どう見ても、狩る者の目だった。


「えぇー、いいじゃないですか」


 文句を言うな。

 まったく、名前も教えあったし、ここまできたら、もう関わるしかないようだ。それに、この状況なら殺されたりすることはないだろう。


「なぁユエ」

「はい?」

「なんであんたは」

「ちょっと!」


 ん?どうしたんだろうか?


「せっかくの名前なんですからぜひ呼んでください。できれば可愛い感じに・・・・・・えへへ♪」


 一瞬名前を付けたのを後悔した。

 でもせっかくの名前があるのに「あんた」呼ばわりはないか。しかたない。


「なんでユエは喋れるんだ?」


 割と気になっていたことを聞いてみた。


「ふふん。これでもユエは『ネコマタ』ですから!」

「へぇー。でも尾が割れてないけど?というかないけど」


 そうなのだ。ユエには、尻尾がなかったのだ。尻尾がないうえにしゃべっているから、まるで人みたいなのだ。七三模様に尻尾なし、さらには二足歩行でしゃべるなんて、メスじゃなければまるでおっさ


「ん?何か不愉快なこと考えてませんか?」

「いや、そんなことないよ?」


 平然と嘘をついた。つもり。


「んー。まぁ、いいでしょう。尻尾がないのは単に隠しているだけです。ネコマタになると尻尾が隠せるようになるのです。バレるとうるさいので」


 大丈夫だったみたいだ。


「そうなのか・・・・・・ん?」

「ネコマタになると、尻尾を消すことや、言葉をしゃべること、二本足で歩くことができるようになるのです。まぁ、言葉は理解できてないと意味不明ですが。

 ですので尻尾が1本だからといって普通の猫と思わないことです。ネコマタは意外にいるものなのです」

「っと。そういうことは、1本だけ消すこともできるのか?」

「もちろんです!」

「じゃあなんでユエは1本もないんだ?」

「ふっ、自分、不器用なので」


 どこかで聞いたことのあるセリフを使いつつ言っているが、目が泳いでいる。

 つまりユエは1本だけ隠すということができないのだろう。そう考えていると、ユエが次第にうつむき始めた。

 よし、この話はもう終わっておこう。さっきみたいに泣かれても困る。




「じゃあ、次の質問だけど、あんた」

「ユエ」

「うっ、ユエがここまで俺を運んだのか?ネコマタならできるのか?」


 特に気になっていたことだったのだが、なんだか聞くのが怖かったのだ。

 俺たちが今いる、いつもの釣り場は、高さ約40cm、水深約30cmの高さがある。人間でも少し手間取る高さだ。

 しかしユエは、少し大きいが立っても、だいたい30cmより少し大きいくらいしかない。

 落ちた俺を助けようとしても、池から這い上がれそうにもないし、ましてや俺を抱えて這い上がるなんて無理だろう。

 もしかしたら、ほかに誰かいたのかもしれない。

 と思っていたので聞きづらかったのだ。しかし、ユエはネコマタらしいし、意外にいけるのかもしれないと思い、聞いてみたのだ。

 ところが、ユエの口から出てくる言葉は、予想の範囲外だった。


「いえ、さすがにネコマタの私でもサカナ様を池から引き揚げるのは無理なので、池の主様にお手伝いいただき、ここまで引き上げてもらいました」

「池の主?」


 今、何て言った?池の主?というかサカナと呼ぶな。


「サカナじゃなくて修斗な」

「あっ、すみません。

 池の主様とは、この池に住んでいる、とてもカッコよく、強く、やさしく、美しく、可愛い方なのです!このあたりでも1,2を争う美貌の持ち主です!」

「カッコいいのに美しくて可愛いのか?矛盾してないかそれ?」

「ムジュンというのはわかりませんが、カッコよくて可愛いのは、主様がいろんな姿に自分の姿を変えられるからなのです」


 へ~、そんなすごいやつがこの池にいたのか。

 そういえば昔、この池で変な生き物を見たって騒ぎがあったな。

 そいつが言うには


『この池にもネッシーがいた!』


と、わめいたそうだが、この池はそれほど広くないし、しかも結構細長いのだ。そのうえ釣り人が、ほぼ毎日来ているので、


『そんな生き物がいるわけない。いたとしても、もっと大勢に見られているだろう』


と言われ、騒動はすぐ治まったそうだ。

 あらためてみると諦め早いな、ここの住人達。


「いろんな姿になれるということは、首長竜にもなれるのか?」

「くびながりゅう?」

「あー、首の長いトカゲみたいなやつのことだ」

「その姿ならなれます。というかサカナ様を助けた時の姿がその姿です」


 そうだったのか。

 以前見つけた名も知らぬ人よ、首長竜は本当にいたようだ。

 そして俺は見逃したようだ。

 そして、俺をサカナと呼ぶな!


「その騒ぎは誰にも見られなかったのか?」

「もちろんです!そもそも、誰かいると主様は頼んでも来てくれないことの方が多いのです。池や、周辺の生き物たちに危険なことがない限り、出てはこないのです」

「そうか、ならよかった」


 俺のせいで、この池が騒ぎになったりして人が集まるのは俺としても困るし、こいつも主も困るだろう。


ん?ということは、


「その、誰かいたら俺は助からなかったってことか?」

「あー、おそらくですがサカナ様を引き上げるのは無理でしたね」


・・・俺はさっき、本気で死ぬかもしれなかったのか。


 ありがとう、池の主様。そして誰も見てない状況。


 そして、いや、もう坂名でいいよ。

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