第四話 一年前②
しばしの沈黙ののち、一番最初に口を開いたのはミーティアだった。
「正直、信じられない……。エリュシオンのことはともかく、ここの他にも世界が存在するだなんて……」
「私だって最初はここが地球じゃないなんて、信じられなかったわよ。まあ、それは言っても仕方のないことだけど」
自分の身体が消えかかったときのことを思い出しているのだろうか、ミカの顔色は優れなかった。代わりに、ジンが続ける。
「俺がミカと出会ったのは、いまから約一年前。フロート・シティの郊外に倒れているのを見つけたんです。で、彼女はそれから住み込みでここで働くことになったんですよ。俺の紹介で、ね」
「幸い、地球でもファミレスのウエイトレスをやっていたから」
「それと、ミカは別に元の世界に戻ることを諦めたわけじゃありません」
「まあ、ジンがいなかったらとっくに諦めていただろうけどね。あのね、ジンはいま、私のために七界転翔を組み立てようとしてくれているの」
「ええ、俺はいま、その分野を研究しているんです。時間と空間の因果関係などを明らかにして、世界間の移動を可能とする術――七界転翔を組み立てる。ひとつ違うのは、ミカのためにやっているんじゃなく、俺自身のためにやっているという点ですね」
魔道は自分を救う道。自分しか救えない道。ゆえに魔道士は他人のためになにかを研究することはない。
「いいのよ、それでも。私は嬉しいんだから」
ミカのその言葉に「参ったな」とジンは頭を掻く。それにミーティアは苦笑した。
「はいはい、ごちそうさま。それにしても、イリスフィールの使った術、七界転翔か。『本質の柱』やエリュシオンに関わってもいるようだし、あたしも研究してみようかな。――リースはどう?」
話を聞いてからというもの、ずっと黙りこくっている隣の金髪の少女に問いかけるミーティア。しかし彼女はそれには答えずに、
「あの、イリスフィールという者は確かにこう言ったのですよね? 『正式な手順を踏まずにエリュシオンに来るなんてことはできない』と」
「え? うん、言ってた言ってた」
「つまりそれは、正式な手順というものが存在していて、それを踏めば肉体を持ったままでもエリュシオンに行ける、ということですよね?」
「? ええ、そうね」
「そして、イリスフィールは斬魔輝神剣などを管理しているとも言った。それどころか、そういったものが一時的に物質界――この世界に召喚されることがあるとも語った。なら、あなたの訪れたエリュシオンは私が目指しているエリュシオンと限りなく同一であるといえるはず……」
そこまで呟き、リースリットは立ち上がった。
「ありがとうございます、ミカさん。とても参考になりました」
「え? 私はなにも――」
「いえ、正式な手順がちゃんと存在することがわかっただけでも、とても大きな収穫ですよ。あとはその手順とやらを探しだせばいいわけですから。――さて、ではミーティアさま」
「あ、もう行く? じゃあミカ、ジン。興味深い話をありがとね」
「い、いえいえ。興味深い話を聞けて嬉しいのは俺のほうですよ。こちらこそありがとうございました。あと、どうかご武運を」
そのジンの言葉が、彼女らとの別れの挨拶となった。