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第三話 エリュシオン②

「ふうん。岩波美花っていうんだ。いい名前ね、ミカ」


 イリスフィールは屈託のない笑みを浮かべ、ミカの名前をそう評した。

 それは素直に嬉しかったが、喜んでばかりもいられない。


「それで、ちょっと訊きたいんだけど、私はどうしてここ――エリュシオンだっけ?――にいるの?」


「――え?」


 ミカにとって、それは当たり前すぎる問いかけ。

 しかし金髪の少女は、それに間の抜けた声を返してきた。それから、少し慌てたように、


「え、え……? だ、だって、それはあなたがここに来る方法を見つけたからでしょう? じゃないと肉体を持ったままエリュシオン――いえ、この世界に来ることなんて、できないはずよ?」


 できないはず、などと言われても困る。彼女は気づいたらこのエリュシオンとやらにいたのだ。ここに来たいなどと思ったことは一度もないし、そもそもエリュシオンの存在自体、知らなかった。

 イリスフィールは徐々に顔を蒼ざめさせながら、ブツブツと独り言を呟く。


「ちょ、待って、待って、待って……。あなたの持つ魂の波動からするに、あなたは十回目の人間のはずで……。まさか、私の移動に巻き込んじゃったとか? いえ、それはないわね。私は『彼』と違って、世界間を無理矢理移動してるわけじゃないし。

 となると、『彼』が世界を移動したとき、それに巻き込まれて……?」


 落ち着いてきたのか、人差し指を口許に持っていきながらイリスフィールは考察を続ける。


「でも、それなら『次元ときの狭間』のみを介して、一瞬で別の世界に移動するはずよね。なにかしらの事故でもない限り、正式な手順を踏まずにエリュシオンに来るなんてことはできないはず……。とすると、やっぱり『彼』の世界移動の影響を受けて、ここに……?

 あっ! だとすると……って、もう時間が……!?」


 金髪の少女の声に緊張の色が混じった、その瞬間のことだった。


「身体! あなたの身体っ!」


 身体がどうしたのだろう、と思いながら自分の身体を見てみると。


「……っ!?」


 透けている。ミカの身体が、後ろの風景がかすかに見えてしまうくらいに透けている。


「な、なんで……!?」


「ここは本来、肉体を持ったままくるべきところじゃないのよ! 正式な手順を踏んでここに来たのなら長時間留まることもできるけど、そうじゃない場合はかなりの短時間で肉体は消滅、魂は『本質の柱』に還ることになるの!」


「そ、そんな……!」


 それはつまり、死ぬということではないだろうか。

 冗談ではなかった。望んでもいない場所に来てしまい、元いた世界に帰ることができないどころか、ここで死ぬことになろうとは。


「…………。仕方がないわね」


 イリスフィールは意を決したようにうなずいた。しかし、一体なにをするというのか。


「私の『世界間を移動する術』――七界転翔トリスト・アークで一緒に世界移動をしてもらうわ。悪く言えば、七界転翔トリスト・アークに巻き込まれてもらうってこと。

 まず『次元の狭間』に移動して、そのまま私がこれから行く予定だった六回目の蒼き惑星に――って、自分の力でエリュシオンに来る方法を見つけたんじゃないなら、意味、まったく通じていないわよね……! ええと、つまりは物質界に向かうことにするわ! 本当ならあなたの元いた十回目の世界に帰してあげたいところだけれど、いまから行き先を変更することはできないし、その時間もないし……! ごめんなさいね! ここで死んでしまうよりかは幾分マシだと思うから!」


 切羽詰った声に、やや混乱しながらもミカはこくこくとうなずく。六回目だとか十回目だとか、もはやなにを説明してくれているのかサッパリだったが、死にたくないという思いだけが少女の頭を縦に振らせていた。


「じゃあ、行くわよ! こっちに来て! 円柱の中に入るイメージを持ちながら中に入るのよ!」


「わ、わかった……!」


 そして、円柱の中に入った瞬間、ミカの意識は途切れることとなった――。

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