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緋の泪  作者: 本城千聖
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願望と失望と 2

MF&AR大賞にエントリーしました。

よろしくお願いします。

「あー、でも今日はまずいよな」


力を使いすぎた今日、三鬼が部屋にいるのはいいことではない。


副作用が六鬼を蝕んでしまう。六鬼は、その姿を見られたくないのだから。


「メールでも打っとくかな」


会って、褒めてほしいたった一人の誰か。


なのに、巻き込みたくない。恥ずかしい姿を見られたくない。男の小さな意地。


「はあ。複雑だっての、ったく」


すでに兆候が起きているのを意識しながら、短めのメールを打つ。


離れに帰るのが一番なんだろうが、あの三鬼のことだ。きっと離れに来るに違いないと、六鬼は思った。


「どこか死角になりそうなとこねえかな」


あの場所に移動する瞬間は、誰にも見られるわけにいかない。


そんな力を持ったことすら、鬼にも悪魔にも知られてはならない気がしていた。


知られれば、どちらにせよ責められるか、今いる場所すらなくすかもしれないのだから。


六鬼は古びた家屋の影に降り立ち、あたりの気配を確かめる。


「大丈夫そうだな」


ふらつきながら、手のひらを上に向けたまま手を軽く開く。


手のひらからふわんという小さな音とともに、小さな光が生み出される。


その光が六鬼の手から離れる。


ふわふわ浮かぶそれに向かって、六鬼はまるで鍵を挿しこむような手の動きをすると白い光が大きくなり六鬼を飲み込んだ。


あたたかな毛布に包みこまれるのと似たその感覚は、六鬼は嫌いではなかった。


「……っはー……着いた」


着いた瞬間、六鬼は膝をついてその勢いのままに四つん這いになる。


「もう、限……界」


体中が熱を帯びはじめる。頭がボーっとしてくる。


「はあ。三鬼姉の顔、見たかったな」


彼女の顔を浮かべたその刹那、体に起こる反応。


「あ……、うあっ」


四つん這いのまま壁まで這って行き、壁にもたれかかる六鬼。


熱くなる体を持て余しながら、六鬼はぼんやり考えていた。


力を使うのは疲れる。めんどくさい。


この闘いは半永久的に続くのに、力を使わなきゃいけない。


自分の意思じゃなく、自分がやらなきゃその日を終わらせられないからやってるところもある。


違う意味での面倒くささを頭の端っこに置き、後々面倒さが少ない方を選ぶ。


消去法ってやつだ。


自分が生まれたばかりの頃には、今は俺に任せて退却する父親がバトルの最後を締めていた。


それも老いなのか、自分とは違う面倒さからなのか。ここ最近、その姿を見たことはない。


父親のくすんだ赤い長い髪が逆立ち、見たことはないが地獄の業火に近いんじゃないかと思える形相。


絵本で読んだことがある人間が恐れる鬼の姿が、目の前にあった。


その姿を見た最初は夢にも出るほど恐ろしく感じたが、それも昔の話だ。


ほとんど会話を交わすことはなかったが、その父親の後ろ姿はすこしだけ誇らしく思えた。


自分が今の力を使えるようになってから、特にその回数は減った。


自分のせいなのかと自分を責めたりもしたが、そのたびに三鬼姉が言ってくれた。


「お父さんもこの長い闘いに疲れてきているだけよ、六鬼のせいじゃないわ」と。


タイミングがたまたま自分の成長と合っただけなんだと、自分に言い聞かせてここまで来た。


この闘いを一気に終わらせられれば、どこか疲れた父親の後ろ姿を見ることも、こんな力を持った自分を疎ましく思うこともなくなるのかもしれない。


「でも、だよな」


闘いが終わってしまえば、鬼と悪魔の間に生まれたこんな自分の必要性はなくなるんじゃないかと怖くもなる。


闘いが終わってほしい。けれど終われば今よりもっと独りになる。


ぐるぐる回る未来に、六鬼は吐き気がしそうになった。


父親との思い出なんかない。


あるとするなら、あの家に来たばかりの頃のことばかりだ。


自分が幼いからこそ出来た質問に、父親がポツリポツリ返してくれた記憶がある程度。


他にはない。


母親は自分を生んで間もなく死んだという。


「三鬼、姉」


彼女だけは自分をちゃんと必要としてくれている。そう信じている。


力だけに寄り添うようなそんな関係じゃなく、俺という生を一つの命として扱ってくれている。


彼女に信頼されるために頑張る自分は、昔の父親ほどじゃないが誇らしく思える。


だが、やはり鬼と悪魔の間に生まれた命だということ、そして両方を滅ぼせるかもしれない力を持つ自分を好きになることは難しくて。


「あー、あちぃ」


ムズムズする一か所に触れることと、いらぬことを考えることの両方を六鬼はやめた。


緋色に近い紅の角に、熱が一気に集まりだす。


「く、そっ」


力を使い果たした時に起こる、反動のようなもの。


それは性的欲求が高まるということ。


その作用はもしかしたら、母親の血が大きく作用しているのかもしれないと、六鬼は心のどこかで思っていた。



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