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緋の泪  作者: 本城千聖
32/41

それぞれが愛するモノ 10

MF&AR大賞にエントリーしました。

よろしくお願いします。

「一鬼姉さん」


二鬼が一鬼を見下ろし、楽しげに微笑んで呟いた。


「あんなに可愛く啼くなんて、思っていなかったな。五鬼とはまだだったんだろ? お子ちゃまな五鬼が、そのことから逃げてばかりだったんだろ?」


六鬼との時間を見ていたかのような、二鬼の言葉。


男勝りで勇ましかった一鬼が、手のひらを顔に当ててわあわあ泣き出した。


「ずいぶんと女の子っぽくなっちゃったんだね。まあ、僕も嫌いじゃないけど、前の姉さんのが一族では必要とするんだろうね」


「二鬼兄……、なんの話をしてるの? 家族を泣かせてどうするの?」


六鬼は状況を把握できずに、視線を彷徨わせては三鬼へと視線を戻す。


何度視線を送ろうとも、三鬼が表情を崩すことはない。


「それ、まだ大事に持ってるんだな。お前」


といい、二鬼が六鬼の首元をトントンと示す。


真似て指先でそこに触れると、三鬼からもらったままのネクタイに触れる。


「お前は素直ないい弟だったよ」


何の脈絡のない褒め言葉。六鬼はどう返事をすればいいのかわからなくなった。


「三鬼がお前の前で作ったんだよな、それは。贈られてからずっと大事につけていてくれて、ありがとう」


贈り主の三鬼ではなく、二鬼がなぜ感謝をしているのかもわからない。


混乱が濃くなっていくだけの六鬼の肩に、母親の悪魔の手がポンと乗った。


「監視されていたのよ、それによってね」


「監視、って。家族の間でなんで……」


戸惑う六鬼の言葉にかぶせられた二鬼の言葉は、六鬼を壊すには十分だった。


「家族じゃないからだろ」


「!!」


六鬼は口を開くが、言葉が何も出てこない。


顔を二鬼へと向けたままで硬直し、二つの瞳からは大粒の涙が流れ落ちていた。


「いい加減に現実を見なさい、六鬼。あなたの味方は、誰一人としていなかったのよ」


違うと言いたげに緩やかに顔を左右に振る六鬼。


子供がいやいやをしているようにも見えるほど、その表情は幼く見える。


「あたしも、そう。今まで一緒に過ごしてきた家族も、そう。あんたのまわりは、敵だらけ」


「う……あっ……ああああっ」


嗚咽し、六鬼の思考は止まってしまった。


六鬼の頭の中には、自分が好きだった三鬼の顔しか浮かばない。


自分を護ってねと言って、抱きしめてくれた時の体温や、ネクタイをくれた時の顔が。


六鬼が何も言えずに泣き続けていても、三鬼は一言も発さない。


「五鬼、五鬼。起きるんだ、五鬼」


二鬼が足元に転がっている五鬼を、つま先で小突く。


「う……」


頭を押さえながら、ゆっくりと体を起こす五鬼。


その五鬼の耳元に、二鬼が顔を近づける。


なにかを囁くと、五鬼が体の向きを反転させた。


その瞳は焦点が明らかに合っていない。


「ちょっと? 五鬼?」


母親が五鬼を呼ぶが、全く反応しない。


「五鬼!」


母親が五鬼の腕を取る。


五鬼はその手を跳ねのけ、ドンと強く突き飛ばした。


その勢いは相当なもので、母親は廊下の方にまで飛ばされて体を打ちつけてしまった。


「……うっ」


低く声を上げ、そのまま起き上がれずにいる。


母親を突き飛ばしたというのに、意に介さず五鬼はある場所へと向かい続けている。


泣き続けていた六鬼の目が五鬼が向かう先へと向けられ、これ以上なく見開いた。


「三鬼っ!」


ずっと呼びたかった、その呼び名をこの場で呼ぶ六鬼。


放心したままで三鬼へと向かっていく五鬼をみて、六鬼は危険を感じた。



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