表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋の泪  作者: 本城千聖
31/41

それぞれが愛するモノ 9

MF&AR大賞にエントリーしました。

よろしくお願いします。

「ぼくになにか隠してたの?」


様子を見ながらそう三鬼に声をかける六鬼だが、三鬼は口を開こうとしない。


「ねえ、三鬼姉。ただ、教え忘れていただけなんだよね。そうだよね?」


まるでそうであってほしいという口ぶりで、三鬼へ言葉を放ち続ける六鬼。


「三鬼姉っっ」


何度も呼びかけるその声は、どんどん悲しげなものへと変わっていく。


「どうして何も話してくれないの? どうして、笑ってるの? ……どうして、二鬼兄と、そんな……」


六鬼が必死になっていく様を、楽しんでいるかのように母親の悪魔は見ている。


時々、笑い声を殺しつつ、肩を震わせてもいた。


「あたし、話したわよね。六鬼、あんたの体内に入り込んでいた時のこと」


口調がまた乱暴になる母親は、蔑んだ目で六鬼を見た。


「なんだよ……」


三鬼と二鬼はずっと黙って事の成り行きを見守っているようにも見える。


気を失ったままの五鬼を傍らに、一鬼は六鬼をいつまでも見つめていた。


「三鬼って言ったわよね。あんた、このつまんない母親に一番似ているようね」


三鬼へと視線を移したかと思うと、そんなことを三鬼へと投げかけた。


「あたしに似ている? 三鬼が?」


母親の眉間に刻まれたしわが、さらに深くなる。


「何も出来なくて、家事だけの三鬼が? 面倒事ばかりやらされても笑っていられるこの子と、あたしが一緒?」


六鬼だけじゃなく、自分の子へも悪言を放つ母親。


そんなことを言われているというのに、三鬼の表情は何も変わることはない。


「ほら、こんなにも出来た子供よ。あたしが求めているものを理解してくれている。でも、似ているだなんて思ったことはないわ。一体どこが?」


「似ているじゃない。旦那にいいたいことも言わずにきて、こんな状態になって、あんたがしたことってなに? 思っていたことってなんだった? 言ってみなさいよ」


母親の悪魔がそういったのを、母親の鬼は鼻先で笑った。


「なんでそんなことを他人に話す必要が? 関係者じゃないでしょ。この場から出て行きなさいよ、早く」


胸の内をこれ以上明かすつもりはないと、母親は悪魔を追いだそうとした。


「二人で話を進めてんなよ! それでも母親かよ、二人とも」


聞きたいことが聞き出せない苛立ちを、そのまま二人にぶつける六鬼。


「三鬼姉は違うよね。似てなんかいないよ、俺が知ってる三鬼姉は」


ふらふらとよろけながら、三鬼へと歩を進めた。


「さっきからなにも話してくれないのは、なぜ? 三鬼姉は、この家のこと、闘いのこと、他にもいろんな世界を教えてくれたよね。でもまだ聞いていないことがあるの? 二人がそうしていることの理由なの?」


三鬼へと近づく六鬼の前に、二鬼が立ち塞がった。


「二鬼兄……、避けてよ。三鬼姉と話がしたいんだ」


懇願に近い六鬼の言葉に、二鬼が冷たく事実を語る。


「三鬼は、僕の、婚約者だ。だからお前がどんなに三鬼を好きでも、今以上にはなれない」


「え。で、でも、二鬼兄とだって兄妹じゃないか。おかしいよ、そんなの」


「おかしくはない。鬼の一族は、親族間でのみ、交配を続ける一族だ。三鬼は生まれた時から、僕の婚約者だった。それは昔からずっと変わらない」


「親族間、のみ」


そこだけを繰り返す六鬼。


「そうだ。親族間だ。だから僕は三鬼に言ったんだ。六鬼には伝えなくていい、と。何か問題でもあるか? 悪魔との間に生まれたお前に伝える義務も義理もない。それは三鬼も同意見だ」


そういい、振り返り三鬼を見つめる二鬼。


こくんと小さく頷く三鬼は、さっきと変わらずに微笑んでいた。


「お前が隠し部屋で三鬼を想って何をしたかも知っている」


「え……」


「婚約者でもないお前が、そんな目でそんな手で三鬼に触れることを、僕は許さない」


二鬼が口にした言葉を、六鬼は確かめることが出来なかった。


自分しか知らないはずのことを、二鬼が語っている。


隠し部屋のことも、三鬼を想いながら自分で自分を慰めたことも。


「お前が……なにかの力を隠していたことだって、僕は知っている。今の今までいた場所も、行方不明の間の出来事だって、もしかしたらお前より知ってるかもしれない」


「な、なんで」


「事実、お前はこの母親に操られていたんだろ。元々持っていた力の使い方を覚えるように、な。一鬼姉さんとお前が何をして時間を過ごしたのか。一鬼姉さんがお前に何を話したのか。その全てを僕は知ってるんだ」


その会話を聞き、一鬼の顔が赤くなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ