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緋の泪  作者: 本城千聖
23/41

それぞれが愛するモノ 1

MF&AR大賞にエントリーしました。

よろしくお願いします。

 母親から語られた、六鬼と父親の話。


話が終わった頃、三鬼がそれぞれの飲み物を取りかえようとしていた。


「はー……。なんかいろんなこと思い出しちゃった。疲れた、あたし」


テーブルに突っ伏し、腕と前髪の隙間から二鬼を盗み見る四鬼。


「そうかい? 僕は楽しかったよ」


いいながら、二杯目の紅茶に口をつける二鬼。


「あたしはちっとも楽しくないわよ。……はあ。また嫌な気分だわ」


そういい、肘をついたその手に頭を乗せてまたため息をついた母親。


「とにかく、このままみんなが戻らなかったらどうするか。残っている鬼を集めて話し合わなきゃいけないわ」


「そんなに慌てることもないんじゃない?」


と四鬼が笑いながら言うと、母親は一睨みする。


「四鬼が言うのとは違うんだけど」


二鬼が話を切り出す。母親は視線だけ二鬼へと向ける。


「もうすこしだけ待ってもらえないかな。僕が調べてみるから」


調べると言った二鬼を、訝しげそうな顔つきで見る母親。


「そうだな。一時間だけでいいや。待っててもらってもいいかな、母さん」


「一時間ね。……わかったわ。一時間経ったら、どうするの?」


頭のいい二鬼のことだから、何か策があるのだろうと母親は思った。


「母さんの部屋に行くよ。その先の話はそれからでもいいと思うよ」


「それじゃ、部屋に戻るわ。二鬼、またあとでね」


「うん。後でね、母さん」


肩を落としつつ部屋を出る母親を見送る三人。


「どうせそのうち戻ってくるんでしょ? 眠いから寝るわ、あたし」


四鬼があくびを漏らしながら部屋を出る。


残されたのは、二鬼と三鬼だけ。


「なんとかなるの? 二鬼」


三鬼が不思議そうに問いかけると、二鬼が不敵な笑みを浮かべて返した。


「僕は誰だい? 五鬼に何も仕掛けないで行かせたわけじゃないことを、知っているだろう?」


「……そうね。二鬼はぬかりないもの、どんな時も」


三鬼は二鬼に寄り添い、微笑む。


「さて、早速とりかからなきゃ。一緒にいてくれるだろう? 三鬼」


「ええ」


寄り添ったままの格好で、部屋から出ていく二人。


二鬼の部屋で窓の外を眺める三鬼を傍らに、作業を進めていく二鬼。


二鬼が小さな声で「……いた」と言った声を聞き、三鬼はすこし俯いていた。


外は、今にも雨が降り出しそうな空だった。


約一時間後、二鬼と三鬼は母親の部屋を訪れて報告をする。


「母さん。父さんも五鬼も一鬼姉さんも、まもなく戻ってくる。けどね、覚悟しておいて。三人の中に、何かが仕掛けられているから」


母親は表情を曇らせる。


「何かが何なのかまでは、確かめるのは難しかったかしら」


「まあ、予想では催眠状態で戻ってくるのがいるって感じかな。見た目は普通だけど」


話していることはどことなく恐ろしい話なのに、二鬼は何も感じないのかいつもの笑顔のままだ。


「それは誰なのかもわからない。そういうことなの?」


探るように質問を繰り返す母親に、三鬼がこういった。


「でも、無事に帰ってくるのは間違いないのよ。お母さん」


「そういってもね、不安すぎるわ。このままじゃ。他の鬼への説明にも困るもの」


心底困ったその顔を見て、二鬼は口角を上げた。


「もしもの話。五鬼がその状態だったなら、止める手立てはすでに打ってあるから。問題は、五鬼以外だった時かな。その時にどうするかは、すこし考えないとね」


考えないとと言いつつも、二鬼には焦った様子が微塵も感じられない。


もしかしたら他にも何かを知ってて隠しているのかもしれないと、母親は感じていた。


「もしもお父さんだった時には、あたしが止めるしかないんでしょうね」


母親が二鬼を試すように呟くが、二鬼が表情を変えることはない。


(あの人じゃないということかしら、二鬼の反応からすると)


そう心の中で呟いたものの、進展したようで停滞したままの現状は、とても歯がゆいものとなった。



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