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緋の泪  作者: 本城千聖
19/41

歪んだ愛情と重ねられた伏線 1

MF&AR大賞にエントリーしました。

よろしくお願いします。

 帰宅し、六鬼の父親は妻にハッキリと告げた。


「この子どもは、六鬼。俺と悪魔の間に生まれた子どもだ。今日からここで育てる」


口調はまるで決定事項。


その言葉に、妻は初めて感情を露わにした。


「他で子どもを作るってどういうことかわかってるの? それも、悪魔の子って。帰ってこないから、もしかしたらと心配していたのに、こんなことを……」


初めての意思表示に、六鬼の父親がしたことはこんなことだった。


「俺の決断に、文句があるのか」


という、圧力をかけること。


「離れでもいい。とにかく、六鬼は俺の子どもとして育てる。わかったな」


「遅くなったり理由も、こうなったことの顛末てんまつも、詳しく話してはくれないの?」


納得がいかない妻は、六鬼の父親の腕をつかんだ。


その腕をパシンと払い、こう告げた。


「時期が来たら話をする。今言えることは、二つだ。一つは、サキュバスという悪魔が六鬼の母親だ。そしてもう一つ、次の闘いには六鬼を連れていく」


その声は、妻にしか聞こえない程度の大きさで、周りの鬼らは顔をしかめて二人を見ている。


「サキュバスが相手……」


妻は戸惑いを隠せない表情で父親を見つめていた。


妻に話してから、六鬼を肩から下ろした。


「挨拶をしろ」


「あ、うん。あのね、ぼく」


名前を名乗ろうとした六鬼だったが、その部屋にいた鬼のほとんどが席を立った。


「あの、ぼくは」


去っていく鬼らを目で追いつつ、六鬼は名乗ろうと努めた。


が、最後に残ったのは三鬼だけ。


「ぼくは……」


声も小さくなって、六鬼は名乗ることも出来ずに俯いた。


しばらくの沈黙の後、六鬼の目の前に小さなつま先が見えた。


反射的に顔を上げた六鬼。その六鬼に三鬼が話しかける。


「こんにちは。あたし、三鬼。君は?」


自分といくつも変わらない姿の三鬼に、六鬼の表情が明るくなる。


「ぼ、ぼく、六鬼。お父さんの子どもなんだ」


顔を赤らめながら名乗る六鬼に、三鬼はそっと頭を撫でて微笑む。


「そう。じゃあ、あたしの弟ね。よろしくね、六鬼」


「う、うん。三鬼お姉ちゃんだね。よろしく」


六鬼のその返事を聞いてから、三鬼は父親に聞いた。


「離れのどこに部屋を作るの? お父さん」


三鬼は八歳にして、すでに家のことを母親と一緒になんでも任されていた。


母親がやらないのならば、自分がやろうということなのだろうか。


父親は三鬼の素直すぎる行動に疑問を抱きながらも、六鬼をなんとかしてくれるのならばと三鬼に任せた。


「三鬼が選んでやれ」


そういったきり、父親は自室から戻ってこなかった。


三鬼は六鬼を離れに連れて行き、生活の場を整えてやった。


「今度ね、ぼくね、お父さんと一緒に闘うんだ」


嬉しそうに闘いに向かうことを話す六鬼を、三鬼はただ微笑んでみていた。


 その闘いの場は、すぐに訪れた。


六鬼が離れで暮らし始めて三日目のことである。


「六鬼、いくぞ」


「うん」


三鬼が用意した服に着替え、父親の方へと走っていく。


「来るか?」


と、父親が手を差し出すと、六鬼は嬉しそうに両手を差し出した。


次の瞬間、六鬼は出会ったあの夜と同じに父親の肩に乗せられた。


そこにいた誰もが言葉を発することが出来ずにいた。


父親のそんな姿を初めて目にしたからである。


「えへへ」


嬉しそうに父親の肩に乗ったまま、戦場へと赴く六鬼。


戦場に行くようには見えない雰囲気の二人である。


子どもたちは六鬼に嫉妬とも羨望ともとれる眼差しを向けていた。


自分たちにはなかった、父親と六鬼との触れ合いを目の当たりにしたのだから。


父親が先頭を歩いていく。


ややしばらくして、他の鬼と一鬼がその後に続いた。


無言なのはいつもと変わらないが、なにかが違っていた。


重たい沈黙。


それに、一鬼は耐えられそうになかった。


 悪魔が仕掛けてきたのは、移動してさほど時間が経過していなかった。


月夜が陰り始める。


六鬼の父親は、あの悪魔の話から、相当な数の悪魔が襲ってくると予想していた。


だがしかし、ふたを開けてみれば、宙に浮いてこちらをへと構えているのはたった一匹。


「な……」


六鬼の父親は絶句した。


宙に浮かんでこちらを見ているのは、どうみてもあの悪魔にしか見えない。


(どういうつもりなんだ)


「お父さん?」


様子を窺うように、六鬼は父親を呼んだ。


その声に呆けている場合じゃないと、父親は構えた。


「六鬼。お前はお前に出来ることをすればいい」


あの悪魔が言った、六鬼が闘いで役立つと言ったそれを、今はまだ図ることが出来ない。


ならば、やらせてみるしかないのだ。


「うん。ぼく、がんばるね」


「ああ」


そのやり取りを見て、一鬼は口元を歪めた。


長く付き合ってきた自分よりも信頼関係が出来ているような気にさえなるからである。


父親に言われるがまま闘いに出陣し、少なからずとも父親に近付けていると思っていただけにショックは隠せなかった。



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