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緋の泪  作者: 本城千聖
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秘密の恋心と言えないチカラ 1

MF&AR大賞にエントリーしました。

よろしくお願いします。

彼は、遠い過去から語り継がれる鬼の一族。


だが、その姿は鬼のそれとは若干違うものであった。


アッシュグレイの髪には少しくせがあり、服装はちょっと着崩した感のある、ブリティッシュ系。


赤いチェックをメインにした服に、黒いネクタイ。


ネクタイには十字架の飾りがぶら下がっている。


なにより鬼と違うのは、角である。


鬼の角は、くすんだ黄色の三角の角。


彼の角は、緋色に近い紅。長めの角で、先端へと行く途中でうねっている。


そう。まるでその角は、悪魔の角のようである。


彼は、鬼と悪魔の間に生まれた子供。名は、六番目の鬼と書いて『六鬼ろっき』という。


 彼には兄弟がいる。上に五人の兄姉がいて、そのすべては純血の鬼。


一番目は、一鬼かずきといい、女ながらに両親とともに鬼の一族を支えている。


二番目は、二鬼にきという男の子。


一鬼の後ろについて、ニコニコして一見頼りなさげに見えるが、大変賢い鬼である。


三番目は、三鬼みきという女の子で、兄姉の中での頼れる存在で、両親と一鬼が不在の際には、家の中をやりくりするのは三鬼である。料理も勉強もうまくこなす。


四番目は、四鬼しきという女の子で、三鬼の双子の妹。自由奔放な性格で、家族が忙しそうな時でもマイペースを崩さない。


五番目は、五鬼いつきという男の子。内弁慶で、外に出た時は借りてきた猫のよう。


なので、戦の時には駆り出されることはない。ただし、鬼としての力は一族一である。


そして、六番目が六鬼ろっきである。


一人だけ出生が違うということで、一族ゆかりの者たちから避けるように育てられてきた。


離れに部屋を持ち、その世話をしてきたのは両親ではなく二女の三鬼。


言葉も、世の中の仕組みも、バトルのイロハも彼女が教えて育ててきた。


どんな誰よりも彼女との時間を長く持ってきた彼にとって、彼女は母親であり、姉であり、初恋の人でもある。


しかしそれは叶うことのない恋だということは、本人が一番よく理解している。


 忌み嫌われている彼ではあるが、戦の場合にのみそれは別物で。


鬼の戦の対象は、人間相手だったのは昔の話。現在は悪魔との闘いが主である。


世の中で悪とされている存在は、一つでいいというくだらない争い。


だがしかし、互いの一族を誇りに思う故にしなければならない闘いだという。


六鬼は呟く。


「毎回毎回、決着なんかつかねーのに。……くっだらねえ」


そうして彼の手から、鬼にはない力が放たれる。


悪魔と鬼の間に生れし子、六鬼にのみ授けられた力である。


悪魔と似たものを放出したところで、悪魔には効かないだろうと思っていた鬼だが、その効果を見るや否や態度は急変した。


決して鬼には見えないその出で立ちから、悪魔の肩入れをしていると六鬼を止めようとしたものたちがいたが、それも最初だけの話。


今ではその時だけ『六鬼様』と崇め奉る。


殺傷能力は低めだが、その戦を止めるには十分すぎる攻撃魔法である。


天空に大きく紅の紋章が浮かび上がり、その紋章の範囲にいる悪魔には効果絶大の魔法。


「……ヘブンズドア」


名前だけ聞くと、たいそうな魔法である。


天国の扉。どうしてそんな名の魔法をと誰もが思った。


しかし、彼は生まれた時からそれを持っていたのだから、仕方がない。


頭に浮かんだ呪文を唱えただけで、それは発動したのだから。


ギュンギュンと唸る音をさせ、紅の紋章から閃光が悪魔らに向かい落とされる。


まるで落雷にあったように、体を痺れさせ、その場に伏していく無数の悪魔たち。


それを見やると、六鬼は踵を返し、帰路へとつく。


また、一人になる生活へと戻るのだ。


戦が終われば、不要な扱い。そして、不当な扱い。


一人なのではなく、独りを感じる生活へと戻るのは、彼にとって嬉しくも楽しくもない。


唯一の楽しみがあるとするならば、姉の存在。それだけ。


「今日も使わずにすんだな、こっちは」


帰り道、彼は左手のひらを見下ろし呟く。


ある日から長い時間、誰にも言えない秘密を彼は抱えていた。






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