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我が家に召喚した魔王がなぜか勇者に覚醒してしまった件  作者: 灰猫
第一章――魂剣・エクスカリバー
4/9

「一緒にお風呂入る?」「スーパー賢者タイム」

☆ ☆ ☆



 そういうわけで、私の大いなる世界征服計画は、思わぬ人物による思わぬ提案を受け、悪役路線からあっさり善人路線(笑)へと変更になったわけでした。

 回想終了。


 そして。


 元魔王……ならぬ現勇者(自称)であるシロウと、元大罪人の孫……ならぬ現勇者二号(なぜ?)である私の共同生活が幕を開ける。

 とはいえ、長らく思い続けた計画を旨を、あっさり勇者へ路線変更できるほど器用でもない私は、当然のようにしばらく思い悩んだ。

 世界へ復讐してやりたい私と、世界を救ってやりたいシロウ。

 その思想の違いは、あれから一週間が経過した今でも修正される兆しはない。

 むしろシロウは、


「素晴らしい、本当にこの世界には魔法が存在するのか。ではあれだ、エロゲーよろしく女の子だけを執拗に狙い、無意味に服だけ溶かす液体を出すという羨まけしからんスライムとかいないのか? ……なに、いるだとっ!? どこにいる!? 今すぐいってペットにして繁殖させるべきだ!」


 なんてことを言い出してから、ますますこの世界のことが気に入ったらしく、やはり破壊などできないと断言された。

 どうも彼のこの世界に対する好感の持ち方がズレている気がするが、ともかくとして。

 そういうこともあり、私が決起したあの日から、私はいたずらに日数を消費していったのだった。

 私の夢を実現する日は、おそらくまだまだ遠い。


 さて、ここでシロウのことをおくればせながら紹介しようと思うのだ。

 これは彼と共に過ごした一週間を顧みた結果気がついたことで、まずシロウは自分で明言するとおり、すごく弱かった。

 魔法が使えなければ、特殊な能力も持っていない。

 力も無ければ、体力もない。

 余裕で私より弱い。

 重ねて言わせてもらおう。

 びっくりするぐらい弱っちい。

 例をあげると、「うでずもう」という彼の世界由来の力比べするゲームをしたのだが、開始一秒ちょっとですんなり圧勝してしまった。

 他にも「すくわっと」「けんすい」「ふっきん」と様々なゲームをしたけど、ぜんぶ私の圧勝だった。

 勝ちすぎて彼に、


「誠に遺憾である」


 と言われた。

 まあこれでも体を鍛えていたから、彼に負けない自信は密かにあったんだけども。

 それと、彼には生活力もない。

 洗濯も、皿洗いすら彼はろくにやったことがないらしく、自炊も当然のようにできなかったのである。

 辛うじて部屋の掃除はチリを片付ける程度なら可能のようだった。

 一体それでどうやって今まで生きてこれたのかと聞くと、


「うむ、我は引きオタニートだからな。当然だ」


「ひきおたにいと……って?」


「自分の家を城とし、世間の悪政や悪意と真っ向から立ち向かい、自らの誇りと嫁たちを命を賭けて守り抜く、国の財産……誉れ高き騎士たちの総称だ」


「へえ……シロウって凄いんだ。……それって、私には到底なし得なかったことだよ。うん」


 らしいので、自分は何もしなくともよかったというのだ。

 その「ひきおたにいと」という騎士であるシロウは素直に凄いと思うんだが、ならばなぜ彼は魔王なのだろうか。

 そもそも、シロウが騎士ならば、彼と力自慢して圧勝した私はシロウの世界を簡単に征服できる気がする。いや、流石にそれは思い上がりも甚だしいというやつか。

 ともかく、シロウは私の想像する魔王とはかけ離れていて、こと生活を共に送るに関しては単純に足で纏いにしかならなかったという事実。

 でもまあ、いいこともあった。

 生まれてこのかた孤独を常としていた私にとって、彼との生活は新鮮味があって、楽しい。

 それは素直に嬉しかった。

 友達が出来るってこういうのなんだなと心底思った。友達といっても魔王なんだけども。

 そしてシロウはモヤシのような体に反してよく食べる。何も働かないくせしてよく食べる。

 いつも私の倍は食べている。おかげで一ヶ月は保つはずだった食糧がはや一週間で底をつきかけて凹んだことは記憶に新しい。なんということだ。

 しかし、私の作る料理を口にしては「美味である」とシロウが褒めてくれることが、最近の私に出来た楽しい日課だった。

 いつもはタダメシ食らいとブーブー文句を垂れる私であるが、その時だけは自然とほっこりした気持ちになる。

 素直に思うことは、シロウという魔王の人柄は、思いのほか純粋で良い人なのだ。

 洗濯だって、なぜか私のパンツだけは必ず綺麗に手で洗ってくれているし、ホントはキツイはずの私の寝巻きも、何も文句を言わず着続けてくれている。

 

「安心しろ。洗濯はミウのパンツだけは確実に洗えるように学習した。我は紳士であるからな、変態ではない紳士だからな。流石にタダメシ食らいは心苦しいところがあるゆえ、うん。任せろ。それと、ミウはブラジャーはつけていないのか? 見たことがないが。……なに、『ぶらじゃあってなに』……だと? まさか、この世界にはブラジャーという概念が存在しないのか!? ということは、この世界の女性はみんな……の、ノーブラ……なのか? なにそれマジ俺得」

 

 そう……彼はただ単純に心が純粋なのだ。

 恩はちゃんと返そうと努力してくれるし、何より掃除も手伝ってくれるのは手間が省けて助かる。

 私の部屋だけはなぜかたっぷり時間をかけているのは未だに疑問だけど、それでもよくやってくれていると私は思うんだ。

 少なくとも、私を拒絶した奴らと彼とでは雲泥の差である。比べることさえおこがましい。

 それぐらいに思うほど、私は確実に彼のことを「友達」として信用していったのだった。


 ともあれ、時は進み、更に一週間後。

 そろそろ降り積もった雪が溶け始め、新しい小さい芽が顔を出す頃。


 ついに食糧に底がついた。

 

☆ ☆ ☆


 結局のところ、私が一大決起したあの日から、頼みの綱であった元魔王がまさかの勇者宣言を発表したことで、世界征服の野望はあっさり水泡に帰したのだった。


 ここまでくると私も、もう何だかどうでもよくなっちゃって、さてさてシロウのいう「幸運で世界を救う」という夢物語の行く末を、まったりゆっくり見物することにした。

 シロウのソレが本当に成就させるか否かはまあともかくとして、果たしてシロウがそのために一体何を成すのか、私はちゃっかり気になってたりする。

 それでもしも、手が足りないなんてことが起きたら、まあしょうがないし、同居人の私が手伝ってあげようかなーとか思ってたり。

 意外とノリノリの私だった。

 そんな自分の心境の変化にも密かに驚愕しつつ。

 ある日の朝の会話である。



「おっぱいには夢が詰まってると我は思うのだ」


 確かそんな切り出しだった。

 いつも通りの唐突なシロウの発言である。


「シロウってホントおっぱい好きだよね。いつもおっぱいおっぱいって。なんで? こんなのただの脂肪の塊で、動くにも邪魔なだけじゃない」


「わかってない。ミウは何にもわかってない。おっぱいはな……ロマンスなのだよ」


 それこそ私には理解できない思考である。


「おっぱいは御神体なのだ。世の男たちの女神なのだ」


「シロウの世界のおっぱいが一体どんな宗教をしているのか知らないけど、少なくともこの世界じゃあ、おっぱいはそんなに需要はないんだよ」


「なに? 需要がない? それは致命的であるな。世界を征服した暁には我がおっぱい宗教を開祖してやろう。その時はミウがみんなの神になるんだ。おっぱい神として」


「んー、ありがとー」


 私が神様はないだろうとか思いつつ、適当に相槌を打っておく。

 ここ最近、シロウの扱い方に若干ながら慣れてきた。こういう時はまともに相手をしたらダメなのだということも何となくわかってきた。

 それにしても神か。

 この世界にも神という概念は存在するが、この時代、神も何もかもが王国の支配下にあるのが現状である。

 宗教だって、腐った貴族たちの汚い思惑のせいで、今じゃただの市民から金を搾り取る悪意の塊だ。

 そういう意味では、純粋におっぱいだけを信教するというシロウは、もしかしたら一番救いのある宗教を作ってくれるのかもしれない。

 今一番まともに生きてるのが魔王ってどういうことだ。


「あ、そうだ」


「ん? どうした、ミウ」


「一緒にお風呂入る?」


「はいぃ!?」


 シロウが驚愕の表情を顔に浮かべる。

 驚愕し過ぎて椅子の上から頭から転げ落ちていた。

 なぜか頬を真っ赤に染めている。


「え、どうしたの? なんでそんなびっくりして」


「え、いや、あの、なんで突然……お風呂なんて」


「ん。いや、シロウがおっぱい大好きなのはわかったからさ。ほら、宗教作るんでしょ、だったら一応私のおっぱい見せておこうかなって」


「だからってなんぞお風呂!?」


「この後でかけるからだよ。もとからお風呂入ろうって思ってたから、ついでに」


「つ、ついでで男におっぱい見せるのか……この世界の女子は……」


 なぜかシロウはワナワナと震えている。

 なんだろう、いつもと反応が違う。シロウなら喜んで頷くと思ってたんだけど、予想外だなぁ。


「どうする? 入る?」


「あ、あの、うん……遠慮しとき――しておこう」


「じゃあここでおっぱいみせようか」


 服を脱ぎながらシロウに近づくと、もうりんごみたいに顔を真っ赤に染めたシロウが声を荒げた。


「ややややめろ! ミウ、我は見たくない!今はそういう気分じゃない! てか、お、女の子がそう簡単に男の前で服を脱ぐんじゃありませんっ!」


「あてっ」


 頭にチョップを食らった。

 このやろう、今の結構本気だったな? なかなか痛い。


「ん……そうかな? まあいいや。んじゃあちょっと待っててね。行ってくる」


「は、はい……」


 がくりと膝をついているシロウを尻目に私は風呂場へと移動する。

 後で後ろから、


「我のアホぉぉぉおおおお! ヘタレぇぇぇええええ!」


 なんてシロウが悲痛な叫びを上げてるのが聞こえたけど、どういう意味かさっぱり理解できないので、放っておくことにした。


 それにしても、んー、頭がジンジンする。

 シロウめ、覚えてるがいい。



☆ ☆ ☆



 それから。

 風呂を上がった私はリビングに向かい、なぜか椅子の上に胡座をかいて無表情を浮かべるシロウに語りかける。


「? なにしてるの?」


「スーパー賢者タイム」


「つまり?」


「精神統一」


「なるほど」


 「すうぱあけんじゃたいむ」か、覚えとこう。シロウと会話するためには異世界の言葉を勉強することは必須なのだ。

 さて、本題を切り出そう。


「私、今からちょっと出てくるんだけど、シロウはどうする?」


「んー?」


 依然顔は無表情のまま、シロウは声だけを私に向けている。


「どこにいく?」


「誰かさんのせいで食糧が危ないんだ。だから、森で狩り」


「ほぅ、狩りか」


 別に完全に貯蔵が尽きたというわけでもないんだが、しかし確実に底は見え始めている。

 私の計算だと、あと四日このまま生活が保つかどうか心配といったところだった。

 だからこその狩りである。


「ちょうど冬があけた。そろそろ大型の獣たちが目覚める頃だと思うんだ。たぶん冬眠のすぐ後だから痩せ細ってて肉も少ないと思うけど、背に腹は変えられないからね」


 美味しくはないだろうなぁ。

 まあしょうがない。このままだと確実に私たちは飢える。

 それだけは勘弁。

 昔一度経験したが、あれはまさしく地獄だった。

 飢餓って本当に辛いんだな。もう二度と味わいたくない苦しみである。

 苦い思いでに顔を顰めていると、いつのまにかシロウが自己流精神統一を終えてこっちに顔を向けていた。

 

「我も行く。思えばこの世界の動物ってどんなのか興味がある」


「ん、そっか」


 そういうわけでついてくるらしい。

 シロウにとっては初めてのお出掛けだな。

 行きしなシロウはこんなことを呟いていた。


「スライム……いないのかなぁ」


 もういい加減に諦めたらどうかと思う。


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