第8話
「さすが先輩、もうご存知でしたか」
アルブレヒトが何故か笑顔になる。
「本当に、西の魔女なのか・・・」
呆然と、しかし、どこか恍惚と。呟いた隠者の言葉に、しかし肩を竦めてアルブレヒトは首を横に振った。
「正確には、私では判別がつきません。
ただ、私たち、つまり宮廷魔術師の誰よりも優れた方であることは、確かです」
「確かに、お前らよりすごいというだけでは、全く判別がつかんな」
「はっきり言いますねえ
じゃあ先輩ならわかるっていうんですか?」
「確約はできんな」
アルブレヒトは驚いて目を見開いた。
この、ともすれば誇大妄想とも思われかねないことをいつも言う自信家の彼が、自分の力では無理かもしれないと言ったことももちろんそうだが。
その言葉を、悔しがるどころか、どこか少年のような憧憬を、隠しもせずに瞳に浮かべたからだった。
塔の下の土地というのは、彼の屋敷の森側の隣にあたる。例の孤児院も森側の隣に当たるが、塔よりは街よりにある。
ちょうど塔を合わせていびつではあるがそれぞれ小さい四角形の頂点に位置する形だ。ただし、敷地の仕切りの関係で、孤児院もまた新しい魔女の屋敷の隣となっている。
あれから数日。屋敷を作るとはいえ、一から作るわけではなかったらしい。
屋敷の中心となる建物はどこからか運んできたらしく、既に人の住む形は整っている。
驚いたことに宮廷魔術師もほとんどが屋敷の移築なんていうことに駆り出されているらしく、アルブレヒトやエリーナの姿も時々見える。
ーー宮廷魔術師が使われるということは、王命か。
これは、本当に西の魔女なのかもしれない。
伝説の西の魔女。聞いたことしかない、最も強い力を持ち、彼女にしか使えない真理を持つ魔女。
ーー本物なのか、それともただの騙りか。
騙りならば必ず見抜いてやる。
本物ならば・・・。
まるで祭りを待つ子供のように、彼はその日を待っていた。




