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「で、あの騎士の死体は、お前らに関係があるんだろ?」
あまりにもストレートすぎるハンスの問いに、3人は絶句した。
「あんたらと『お姉さま』のうち、誰が狙われているんだ? 調べたが、この森にあれほどのするどい牙を持ち人間を襲うような獣はいない。少なくとも書物の記録を当たったが、まったく確認できなかった。むしろ、この付近に外敵がいないからこそ、エルッヘンはこんな内陸部に都をおいたのだろう? 魔法で召喚した獣か、もしくは訓練された飼犬か。あの騎士があんたたちのうちの誰かを狙った、もしくは都合の悪いことを知ったから消した――そうだろう」
ハンスの問いに、表情も変えずにエレーナが否定の言葉を即座に返した。
「そんなことはありません。あの森には、書物には書いてありませんが、危険な獣が住み着いています。だから、あの森は王族が厳しく管理をして――」
くっくっくっ、と押し殺したようなハンスの笑い声が響く。
言い訳すらも陳腐だったからだ。
「という噂を流すつもりなんだな。だが、それは建前だ」
「何故、そう言い切れるのです」
あまりに堂々としたハンスの言い振りに少しは内心で同様したのだろうか。エレーナが問うた。
これを言ったら内輪もめするかなあ、とむしろそれを望みながら、ハンスが答える。
「お前らがヴェスタと呼ぶあの森の魔女が、騎士の殺害騒ぎがあった跡に、森の奥に光るキノコを取りに行ったと言っていた。あの魔女はこの森に200年住んでいるのだろう? もうヌシみたいなものだ。その女が、あの事件の直後、獣も見つかっておらず、理由も明かされていないというのに、何の危険も感じずに森に分け入る――それは、もう答えではないのか?」
三人は微動だにしていない。が、三人を覆う脱力感が確かに感じ取れた。
「まあ、建前を言うことを俺は否定しない。しかし、それでは話が進まんのではないか? そもそも、俺がこういうことをうっかりと誰かの前で口を滑らせたら……。まあ、あんたたちがそれで困らないのならば、全然かまわんのだがな?」
勝利が決まった上でかける追い打ちは楽しい。どこまでも子供っぽい賢者であった。
「私たちがかかわっていないのは、本当ですよ」
王女が落ち着いた声で、そう言った。
それは、話してもいいというGoサインだろう。
ため息をついて話を受け継いだのは、コンラート王子だった。
「あれは、俺たちが知らない間にされたことだ。この屋敷を防衛しているのは、表向きはお姫様付の魔導師や騎士だが、裏では別の勢力も、独自の考えで王女を守っている。そのうちのどれかだろう」
「それはとても都合の良いことだな。さて、お前たちではないという証拠はあるのか?」
「……俺たちならば、証拠を残すようなヘマはしない」
押し殺したようなコンラートの声音には、悔しささえ滲み出ていた。
その様子に、それもそうか、とハンスは納得した。どんな事情があれ、彼らは『お姉さま』を隠しておきたいのだ。なのに、わざわざ人の目を集めるようなことはしないだろう。
「だから、狙われたのが誰なのか、私たちにもわからないのです。生捕りにして尋問したならばそれもわかったのでしょうが、亡骸はなにも話してはくれませんから」
さすがはエレーナ。宮廷魔術師として修羅場をくぐってきただけのことはあり、言うことがえぐい。
「で、どうして王女様がコンラート王子や姉王女と一緒にここに来ているんだ」
最後の質問に、エレーナは首をゆっくりと横に振った。
「それについては、お答えできません。賢者様も、中立を保ちたいと思うならば、そこについてはお知りにならない方が良いですよ。……この国の事柄ですから」
はっきりと言い切るエレーナの忠告には従うことにする。
「そうか」
一つ頷き、思いつきのようにエレーナに声をかける。
「なあ、このことは、俺は誰にも言わん方がいいんだよな? それとも、お前たちの方で情報共有する相手がいるなら、先に教えておいてくれてもいいんだが」
エレーナは、じっとハンスを見た。
「このことは、私たち以外には言うことはありません」
最後の質問の答えは、二人とも、それで事足りた。




