第8話
「拾われた?」
彼の質問に、しかし、魔女は答えずに曖昧に微笑んだ。
自分から話を振っておきながらぼかす、そんな思わせぶりな話し方は好きではない。
彼は多少鼻白んだが、相手は古き魔女だ。
言わないと決めたのなら言わないだろうし、言いたいならそのうち言うだろう。
相手の駆け引きに乗るのは好きではない。彼は話題をズラした。
「院長殿も魔女なのか?」
彼の問いに、魔女は頭を横に振った。
「彼女は、この国の王女です」
「王女・・・」
彼も、この国に住むと決めたときに、この国のことはかなり調べている。
確か、今の王には王子が二人いて、養女である王女が一人いたはずだ。
「ドロテア様か?
しかし、ドロテア様がご病気という話は聞かないが・・・」
それどころか、ドロテア姫はまだ二十歳にもなっていないはずではなかったか。
彼は首を傾げた。
クスリと目の前の魔女が笑う。
「院長は、今の王ではなく、先々代の王の王女なのです。
先代の王は今の王の叔父に当たり、先々代の王は先代の王の従兄弟に当たりますので・・・」
近年、この国の王位継承がややこしいことになっていたことは知っていた。
が、正直、どうでもいい。
「よくわかった」
正直、めんどくさいので全然わかっていないのだが、現在の王と縁が遠い王女であることはよくわかった。
孤児院の経費が削減されるわけである。
彼は、目の前の『院長代理』を見た。
実は、目の前の院長代理を『アルトゥールの魔女』と『見抜いた』のは半分はハッタリである。
アルブレヒトは、実は少し違うことを言っていた。噂では、孤児院の『院長』の方が魔女らしいと囁かれていたのだ。
そう。あの時、院長代理が、銀の杖を持って現れなければ、彼も気づかなかっただろう。
ジルは、未熟だが魔術構成を組んだ。つまり、彼女に魔術を教えた者は魔術師だ。
彼は、てっきり院長がアルトゥールの魔女であり、院長代理が若い魔術師だと思っていたのだ。
あの銀の杖を見るまでは、いや、その纏う古き魔法を感じるまでは。
「では貴女に聞くが、あの時、何故、その小娘が、伝授を受けた魔術師であるということを隠した?
それに、貴女自身も魔女であることをどうやら隠しているようだが・・・理由はなんだ?」
魔女は、薄く微笑んだ。
「地域に受け入れられ、たくさんの人に支えられて、この孤児院はなんとか運営されています。
目立つのは、いいことではありません。必要以上に警戒されます。
魔術師が上流階級であると思い込み、敵視する人はまだ多いのです。そうでなくても、自分たちに理解できない力は怖がられる。
ここでささやかに生きていくためには、仰々しい名前は不要なのです。
彼女はただのジルでいい。私も、アルトゥールの魔女と呼ばれたのは、もう50年以上も前のことでしかない・・・」
しかし、魔女の噂は消せず、せめて人前に出ることのない院長にすり替えたのか。
彼女のしたことが、その考え方が正しいのか、彼には判断できない。
しかし、目の前の院長代理は、固い意思を持っているようだった。