表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西の魔女は眠る  作者: 蓮葉
隣人は西の魔女
15/38

第6話

隣の家ではあるが、たまに街に買い物に出る場合、孤児院は街とは逆方向になる。

彼の屋敷から、屋敷の庭が見えることはあるが、よっぽどのことがない限り、孤児院の前など通ることはない。

そもそも、あまり気にしたことも、ましてや中に入りたいという興味を持ったこともなかった。


孤児院は、この国によくある赤い屋根と大きな煙突がある、特徴のない建物である。

屋敷というには装飾がなく、ただひたすら実用的に、大勢の人を収容するという目的がはっきりとした、広い空間が続く。

場所が森の横・・・街の中では最も辺鄙な場所だからだろう。

屋敷も庭も、非常に広々としたていた。


「先生、この人誰?」

「だれぇ?」

「こら!テオ!泥だらけの手で触らない!!

   向こうに行ってなさい!・・・『お客様』なんだから」


そこは、家の中に入るまでもなく、家の外にも泥だらけの子供たちが跳ね回っていた。

怖いもの知らずというか、赤みがかった金髪の子供が泥だらけの手で彼のローブを触ろうとするのを、ジルが慌てて制する。


「子供の数の割には世話人の姿が見えないな」


ジルが子供たちのまとめ役をやっているのを見たことはある。

しかし、子供たちの面倒をみるべき『大人』の姿が見えない。


「私とジルと、あともう一人アマリエという者がいます。

    人を雇うには余裕が足りないのです。子供たちはできるだけのことは自分でやれますよ。

    卒業生が助けてくれたりもしますし。」

「ここは、国の援助を受けているんだろう?」


この孤児院はそもそも、先の王が先の戦災により生まれた戦災孤児のために建てたものであるはずだ。

彼女は、薄く微笑んだ。


「ええ、ほんの少しだけ」

「・・・・・・」


先の戦争は遠くなった。

それに、為政者が変われば、方策も変わるということだろうか。


まとわりつこうとする子供たちを引っぺがすようにして、客間に使われているのだろう、奥の部屋へと進む。


花柄の壁はあちこちが汚れてはいたが、荒れた感じは全くない。先ほどからまとわりついてくるのは鬱陶しいが、悪質な悪戯をしてくるような子供はいない。見慣れない人に対する人懐こい好奇心で済んでいる。

よく躾けられているのだろう。


院長代理がどこか別の部屋に入り、ジルが客間と思しき部屋の樫机の一席に彼を案内した後、姿を消した。茶でも淹れてくるつもりなのだろうか。


本来であれば、客である彼を放って置くなどということは無礼の極みであると言えるが、院長代理は泥だらけの服を整えなければならず、ジルはおそらく茶でも淹れにいったのだろう。

さっき話に出たアマリエという職員がいないとすれば、子供たちに彼の相手をさせるわけにもいかない。

仕方のないことと言える。


客間は、少し広く、棚の上は沢山の飾りで溢れていた。もちろん、高価な置物などではない。奇妙な人形や歪んだ焼物など、一見して子供が作ったとわかるような『ガラクタ』が宝物の様に大事に飾られていたのだ。

壁紙はくすみ、普段はほとんど使われていないことがわかる。

たった一つ、テーブルと机だけは、飾り彫りを施した立派で大きな樫机だった。彼の案内された樫机である。

偏見かもしれないが、彼は、孤児院というところはもっと寒々しく効率的な場所かと思っていた。

しかし、ここには紛れもなく、『帰るべき場所』の暖かさがあった。


人手が足りない中で、ここを『家』としてきちんと動かしている院長代理を、彼は少し見直した。


「お待たせいたしました」


足音と共に、扉が開かれる。

彼は立ち上がって院長代理を迎え・・・瞠目した。


彼女は、先ほどの飾り気のない普通のワンピース姿ではなかった。


仕立てのよい赤いドレスに、纏うは魔術師の黒いローブ。

華美ではないが繊細な装飾が施された銀色の杖。

髪には、同じく銀の、螺旋を描くデザインのサークレットを着けている。

そして、それらは全て、強力な魔力を纏う、魔道具であることが、すぐにわかった。


「グリードリスの賢者様。

   我が院にお越し頂き、ありがとうございます」


礼をとる彼女に、同じく、彼も礼をとった。


「お招きいただき、感謝する。

    アルトゥールの魔女殿」


驚きの表情を見せる彼女に、彼はしてやったりと笑った。


「その名前で呼ばれるのは、久しぶりです」


この街の出身であるアルブレヒトに聞くと、すぐに彼女の正体はわかった。

今の若い人はあまり知らないが、年配の人間ならば知っているという。かつてどこの街にでもいた古き魔女・・・それが、彼女なのだということが。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ