第2話
塀の破れた隙間に挟まった女と真っ向から見あったまま、とりあえず隠者は沈黙した。
正直、あまりにも馬鹿馬鹿しいというか情けないというか。とにかくどこからツッコんだらいいのかわからない。
「あ、あの、こんな状況で申し訳ありません」
先に目を逸らしたのは院長代理だった。
自分の間抜けな姿が恥ずかしいのか、耳まで赤くなる。
「その、何度かご挨拶に伺おうと思って、賢者様のお屋敷を訪ねたのですが・・・いつもいらっしゃらなかったので・・・」
「は?」
何故、この状態でそんな話が出て来るのかわからない。
「この前は、ジルがほんとうにご迷惑をおかけいたしまして、直接お詫びを申し上げることができず、申し訳ありませんでした。
もちろん、賢者様もお気づきとは思いますが、ジルは『見習い』としての伝授は受けています。
けれども私たちは・・・」
「いやちょっと待て。待ってくれ。とにかく待て」
彼は、なおも続く院長代理の言葉を遮った。
やっぱりあの少女は正式に伝授を受けた見習いだったのか、とか。
何度も来たのに彼が留守の様に勘違いしたのは彼の屋敷のセキュリティにひっかかったな、とか。
そもそも今の状況で、何故その時の謝罪からまず入るのか、とか。
まあいろいろツッコミたいことはあるが、とりあえずは。
「あんた、とりあえず、そこに挟まったまま話すのはやめないか・・・?」
「あ・・・っ!まことに無作法で申し訳ありません!!」
いや、無作法とかいうレベルじゃないだろう。
もはや呆れ果てて、押し黙っていると、院長代理は慌てたのか、今の状況を忘れたのか、慌てて頭を下げた。
そしてそのまま地面に顔面をぶつけたのだった。
「先生・・・」
少女の呆れた声が、小さく響いた。




