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西の魔女は眠る  作者: 蓮葉
隣人は西の魔女
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野いちごと蛇いちご


静けさに満ちていた彼の屋敷の周りは、塔が顕われた日からとてつもなく騒がしくなった。

茨の届かない範囲の塔の真下には新しい魔女の屋敷のために駆り出された人たちで溢れている。また、塔が顕れたときから残っている彼の敷地より街に近い部分の露店は、相変わらず賑やかに、塔を見物に来る者たちの相手をしている。


しかし、『眠り姫争奪戦』などと大々的に垂れ幕が出た割には、肝心の眠り姫に対する情報は全くといっていいほどに流れてこなかった。

前にアルブレヒトがぽろりと、しばらくは目覚めないでしょうと言ったため、眠り姫・・・もしくは眠っている何かがあの塔にいることは間違いないと思うのだが。

とにかく、この喧騒がいつになったら終わるのか、そこを知りたいと切に願う隠者だった。


「なんだ?」


急に、彼の意識にひっかかりが生じた。

「また侵入者か」

ため息をついて立ち上がる。

塔が顕れて以来、たまたま知らずに敷地に入り込んでしまう者や、わかっていて侵入して来る馬鹿者が後をたたない。

ほんの少し立ち入ったくらいならば構わないが、少し前の様に植物園を荒らされてはかなわない。

最近では、低い塀等で敷地の側を覆い、侵入者検知の魔道具を設置しているのだ。

彼は、歩きながら侵入場所を探った。


「孤児院の側か?」


孤児院の側には、塔の騒動より以前、彼がこの屋敷に来たときから、既に背の高い塀があった。

子供達が間違って入ってこないようにであろう。そして、この2年、実際に迷い込んで来たことはない。

それは、塀の向こうが別の敷地であるということを孤児院が教育してくれているからでもあるだろうし、その塀が、深く暗い森に入った部分にあったからかもしれない。


彼の屋敷は、一人で住むにはあまりにもだだっ広いが、その分仕掛けがなされている。

元々、この屋敷を設計したのも魔術師だったのだろう。

生活空間は狭いが、人一人が過ごすには充分な設備が揃っており、魔術師の習性としてついつい溜め込んでしまう魔道具や本やガラクタを詰め込むための収納部屋が非常に充実している。

この屋敷を作った以前の主がどんな人柄かは知らないが、魔術師としての腕はきっとよかったのだろう、と思わせる屋敷だった。


また、魔法薬を作るための庭も充実していた。薬草園として整理された区画だけではなく、野生のような顔をして生えている草の中にも使えるものが混じっている。

何しろ、森が近いのが良い。

彼がいつもいる部屋からも、すぐに外に出ることができるのだ。


音を立てないように風に魔法で干渉しながら歩を進める。

侵入者のいる場所はすぐにわかった。

魔法で検知したわけではない。もっと簡単な理由だ。


「やめなさいジル、ここは隣の屋敷の敷地内よ・・・!」

「大丈夫だよ先生。こんなにいっぱい野いちごがあるなんて。

  もうこんなに枯れてるし、あの魔術師はこんなもの食べないんだよ。テオたちきっと喜ぶって!」

「ジル、もういいでしょう!というか私を助けて・・・」


「他人の敷地内で、何やってるんだお前ら」


声をたどればあっさりと侵入者にたどり着く。


彼の声に、タライいっぱいに赤いイチゴを摘んでいる赤毛の少女が振り返り、驚愕の表情で固まった。

そして。


「あんた、ほんとに何やってんだ・・・?」


その足元、塀の破れた隙間から通ろうとして出られなくなったのだろうか。

濃茶の髪の『院長代理』が、隙間に挟まったまま、下半身を必至で引き抜こうとしていたのだった。




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