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初めまして地球のひと  作者: 想造力


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11/16

岩山の山肌をすべるように着地し、姿勢を整えて再度跳ぶ。山頂を蹴り、自在に空を舞う。跳躍と落下のたびに毛皮のポンチョがブワッと翻り、無重力以上の浮遊感と、ジェットコースター以上の圧迫感が体を襲う。

足音も、砂埃も、振動すら無い。すべてが風切り音と岩肌をすべる音にかき消されていく。

激しい加速と減速で既に十回は幽体離脱を体験したが、重力訓練を受けていなければどうなっていたことか。

もしここが地球だったらどうなっただろうか。…いいや、考えるだけで恐ろしい。そういえば以前から不思議だったが、ここの生物は海球の低重力という環境下でなぜここまで骨格も筋肉も内臓も強いのだろう。実際、俺を抱える腕は外観に似合わず屈強で、変わらず離さない……離れない筋力を行使している。重力による骨密度の低下に耐性を持っているのだろうか。仮に地球に来たら彼女らはもっと強くなるのか。無重力なら



着地とともに慣性がズシリと体を潰す。反動で体が跳ねた時、俺はとっさに顔を上げた。

ああ、また抜けたのか。体のショックで思考が止まらなくなって…どこまで考えたんだったかな?

アストラやルイジュのほうを見ようとするが、かすれたモザイクがかかったような青色や茶色や銀色の残像が一瞬、ほんの一瞬現れては消えるだけ。そしてそのたび毛皮に遮られる。荷重が増す。そして抜ける。

「ごぷっ…おう…」

無限長な時間の後に彼らはようやく足を止めたが、視界が縮み、頭がぐらぐらする。デスクチェアでめちゃくちゃに回転した時の三倍でもぬるい。おまけに体が勝手に前に動く。体が静止しても脳が進んでいる。

背中にアストラと思われる四本の指が触れ、俺は虚ろなまま振り向く。案の定ケロッとした様子のアストラが視界に現れ、正直イラっとした。

「大丈夫ですか。少し休憩するそうです、ルイジュさんも同様な状況なので。」

そういえばとルイジュを探すと、近くの地べたに張り付くように突っ伏し、コポコポと聞いたことない音を立てていた。ルイジュの周りをテリア、テン、ルビン、ルネットが囲い、そのそばにはテリアが運んでくれた箱、もとい車兼船がきれいなまま横たわっている。

「…体がついていけねぇ…どうなって…うっ…この星は…。」

多少吐き気はマシになったが、まだ気持ちが悪い。

遠くの空から桃色が滲み始めた。次第に視界のノイズが晴れ、世界が色づいていく。腹の違和感はまだまだ明確に残っているが、動けなくはない。重たい顔面をぐっと持ち上げ、改めてあたりを見回す。浜から内陸に来たようで、地面は光沢のある固い土に変わっている。ルイジュは変わらず地面に突っ伏し、彼女を輪の一部にするようにテリア、ノア、テン、ルネットの四人が船の箱を囲い、何か陽気に話しているようだ。アムラとルビンは、どうやらずっと俺たちのそばに座っていたらしい。アムラに関してはポンチョを脱ぎ、その大きな胸と不思議な筋肉、美しい曲線の体をさらけ出している。気候が出発地に比べてかなり温暖なため、ポンチョをずっと着るのはさすがに暑かったのだろう。岩山での動きからして、これは防寒具や服というより空中での姿勢制御に使われているようだ。場合によっては身のこなしも隠せるし、それで言えばいい装備と言えるだろう。それなら顔の四角い布は何だろうか。

山吹色と白金色の中に白い日が顔を出し、地面もいよいよ光沢を増す。ルネットが両膝をパンと叩き、彼らの名前を呼びながら勢いよく立ち上がった。


今度の移動は平野を走り抜けるだけで、先ほどに比べたらいくらか快適だった。例によって足音、砂埃、振動は無く、あるのは風切り音と爆風だけ。

地面の見え方からして、高速道路を走る車くらいの速度は出ているだろう。その場合、風速およそ二十五メートルという爆風を一身に受けることになる。風切り音だけで耳が割れそうだ。もはや目なんか開けられない。結局のところ、慣性シェイクの代わりに爆風タックルが取って代わっただけだった。

数十分走ったのち、アムラは減速を始めた。ポンチョを大きく広げ、空気抵抗と摩擦でぐんぐん減速していく。慣性によって毛皮を挟んで肉厚な背中に顔面を押し付けられる。

ついに足が止まると、俺は剥がれるように背中から離れた。アムラの腕から脚を抜いてやっと着地すると、深緑色の芝のような植物の柔らかい感触がする。ルイジュのほうを見ると、やっぱり芝生に顔を埋もれさせている。アストラはというと、もはや言うまでもないか。

「鳴海さん、見てください。」

一足早く先を進んでいたアストラの声がなぜか高ぶっている。まるでアリの行列を見つけた子供のような声色だ。俺はアストラが指す方向を覗いてみた。

だだっ広く広がる平地に、巨大な窪みが現れた。とはいっても、真っ白な濃霧が盆地にたっぷり満たされ、中身が全く見えない。

太陽が顔を出し、時間がたつごとに霧が晴れてきた。盆地の中に、何か巨大なものが見える。霧はみるみるうちに薄れていき、その何かは次第に輪郭を明瞭にしていく。

「これは…。」

ふいに声が漏れてしまった。橙に緩やかに点滅する数多の小さな光、分かれることなく太いまま湾曲する大河、不規則で規則的にうごめく灰褐色の影たち。ついに霧が晴れ、全貌が現れる。

巨大な壁に囲われたそれはもう立派な街が、おわん型の地形の真ん中に鎮座していた。


高速移動後のリハビリがてら自ら歩いて街に向かおうとしたのだが、さすがにそろそろキツくなってきた。ルイジュもようやく酔いが覚め、テンの腕の中でお姫様だっこされている。その大きな青い瞳をぱちくりさせ、接近してディテールがより繊細に見えてきた石造建築の巨大な壁を眺めている。

ようやく街の門と思われる場所にたどり着いた。底に到達してからは案外平坦で束の間の休憩、そこから大樹が立ち並ぶ巨大な森が現れた時には絶望したが、いざ森を抜けて見下ろした壁を前にすると感嘆する。

巨人たちの身体能力を考えてのことか、ネズミ返しのように外側にせり出した形状をしている。坂を下り始めた時に見た壁のてっぺんはアーチ状に膨らみ、長さの違う無数の大きな針がびっしりついていた。何をそんなに守るのかと思ったが、巨人たちにもやはり天敵がいるということだろうか。

「鳴海さん、ちょっとまずくないですか?」

アストラが何か言い始めた。

「何がだ?」

「身の安全です。まずいと思う理由は、まず私たちは海球の外から来た人間とロボットです。もちろん、この星の人たちが知っているはずがありません。次に、鳴海さんもあの壁のてっぺんがウニのようになっていたのは見ていると思います。それをするほどその街が防衛に重きを置いている場合、門には門番がいるはずです。」

何となく察しがついた。彼が何を言いたいのかを。

「つまるところ、私たちは部外者として入場拒否、場合によっては排除される可能性があります。」

確かにその巨大な木の門の前には槍と思われる棒を持った衛兵らしき褐色肌の巨人が二人、早速俺たちを見つけて警戒の視線を向けている。

自ら言及したように、アストラに関してはこの星の文明進捗ではあり得ないような産物だ。ルイジュもルビンたちも、最初はかなり驚いて警戒していた様子だった。衛兵というならさらに警戒心が強いことは間違いないだろう。

俺たちはさりげなく集団の最後尾に着き、後ろのほうを歩いているテンとルイジュの近くを歩くようにした。変わらず衛兵二人は俺たちに視線を向け、いよいよその二メートルはある大きな槍の先をこちらに向けた。

「キリキリ、ジャー」

まず衛兵の一人が言葉を放った。すると、ルイジュを抱いているテンから背中を軽くぐいと押され、前に出るように促された。テンからは決して敵意を感じないが、衛兵たちはなんだか怖い。俺は同じように促されたアストラを引き連れ、前に出た。

まず衛兵は俺の顎を掴んだ。痛くはないが、アムラに首を掴まれた時よりもずっと圧迫感がある。何かを見つけたように少し左右に目を向け、手を放して今度は俺の右耳を掴んだ。俺が会った二種の種族はどちらも耳がとがっていたので、人間の丸い耳は初めて見るのだろう。

「きゃっ」

もう一人の衛兵が女性のような声で小さく悲鳴を上げた。どうやらアストラのモジュールを無理矢理外してしまったらしい。いや、きっとアストラのことだから威嚇とか言ってあえて外したんだろう。

幸いにもそれはカメラモジュールだったため、その衛兵が恐る恐る元に戻すことで直すことができた。だがこれのせいでより一層警戒心を強めてしまったようで、いよいよ耳を掴む力が強くなっていく。さすがに痛くなってきて表情がゆがんでしまう。

「ギィィィィィ」

歯ぎしりのような不快な音が、ルイジュのいる方から響いた。何事かと振り返ると、ほぼ同時にピュンと耳から手が離れた。

異様に思ってまた見上げた衛兵の顔はギョッとするものだった。さっきとは打って変わってこわばった顔に、大玉の汗がたっぷり浮かんでいる。

「え?」

仲間たちのほうからルネット、テン、ルイジュが現れ、アストラのほうの衛兵も同じく顔を引きつらせる。衛兵たちはハッとした様子でそそくさと門を開ける。

一体何事か。訳も分からないまま門は開き、ルネットに「行くぞ」というような調子で背中をポンと押され、街へ踏み入った。


門を抜けた先は、かなり発展した都や城下町のような世界。海の近くにあった岩山と同じ灰色の、蝶型の石レンガがパズルのように積み重なった家。それぞれが唯一無二なデザイン性を持ち、さらに黒や青の石や木で彩られ、周りを歩く巨人たちの足音や話し声が雰囲気を作り出す。石レンガの灰色に統一された淡白なその街は、ボタニカルアートのキャンバスのように独特で独立した世界を展開している。

門からまっすぐな大通りをゆっくり直進する。街に散らばる数人の巨人たちは誰もが不思議な顔で俺たちをチラチラ眺め、また不自然に目を背けた。

巨人の体格に合わせて家はどこも大きく、一階層あたり三から四メートルくらいの高さを持っている。湿度が高く温暖な環境に合わせ、民家と思われる家はすべて壁に巨大な窓を開けている。そして、そのどこも広々した庭を持っている。窓や庭の入り口には決まって橙色のランタンがあり、中でホタルのような羽虫が舞っている。

大通りを進むごとに建物は密度を増し、併せて高さを増していく。さながら郊外から都心へ進んでいるようだ。対して巨人は数を減らし、たまに通るその誰もが少々疲れた表情をしていた。今は丁度正午といったところだろうか、もしかすると彼らは夜行性なのかもしれない。

あたりをキョロキョロと見回しながら進んでいると、路地裏に二人の巨人の姿が見えた。外観は若い男女、アムラやノアくらいの年だろうか。彼らはその暗がりで顔を寄せ、キスしているのだろうか、舌まで入れてしまって。

「チチチチチチ…」

急にアムラが顔面を覆った。何事かと彼女のほうを見ると、褐色で艶のある顔を赤らめ、俺のほうを見下ろすように睨んでいる。テリアやルイジュも同じ様子だ。

「なるみ、あれ、みる、ダメ」

ルイジュが制するように俺の鼻先を指さす。

「あれ、はずかしい」

彼女は叱るような、不満げな声で言った。テンはまるで気づいていない様子で首をかしげているが、アムラはより顔を赤くしてさらに目力を強め、テリアは腕を組んでゆっくり首を振っていた。

次第に街の中心へ近づいていく。遠くのほうに、街の壁と似た非常に高い石垣が鎮座している。その上には…あれは何だろうか。こういう場所の中心には決まって城や宮殿があると相場が決まっているのだが、それとはまるで似つかない。これまで見たことが無いほど巨大な灰色の塔。頂上を目指して視点を上げていくが、まだまだ終わらない。

それはボコボコと根を張るように表面から顔を出しては潜り、まるでミサンガの縫い目のような外観を持っている。その根のようなものは、遠くから見る限り小さくてもクヌギの大木くらいはあり、太いものでバオバブくらいはあるだろうか。それが何百本と絡み合って天空へ伸びていく。塔は雲まで伸び、そこからその根のようなものが一本ずつほどけ、街を覆うように広がっている。

「大樹」という言葉に収まらないほど巨大な樹が、街の中心に佇んでいた。

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