宇宙
ギッ、ギッ…。
銀色のメカメカしい壁、壁に固定されたエアロバイク、その音が無風の船内に響き渡る。右の壁の小さな窓の奥はだだっ広い暗闇で、数多の星が光っている。
前方には八つの立方体型のモジュールが組み合わされたキューブ。そのキューブは下半分の四つのモジュールが花のようにぱっくり開き、そこから出たアームで船体に固定されている。その手前側の右上のモジュールには錆びたスピーカーと三つのLEDランプ、そしてアンテナやはんだが綺麗についた基盤が露出し、その奥のモジュールからは大量のコードが上へ伸びていた。
『鳴海さん、落ち着いていますね。』
錆びたスピーカーからガビガビの男の声が発せられた。
「そうだな、不思議なもんだ。未知に突っ込んでいくときほど、決まって冷静になれる。」
窓の外、窓枠の下から白い惑星が昇ってきた。白銀と白金がマーブル模様に混ざり合う、真珠のように美しい二つの惑星。二連星の形で太陽を公転する「空球」と「海球」が、細かな雲の切れ間まではっきり見えるほどすぐ目の前まで接近していた。
「そろそろ頃合いかな、発生器を取り換えてやる。そんなガビガビ声にも飽きただろ。」
『了解です。できれば全体的なメンテナンスや部品交換を推奨します。最近、バッテリーやアームの調子が悪くなってきています。』
「はいよ。じゃ、倉庫から交換したい部品と水を持ってきてくれ。俺はお前の説明書と工具を持ってくる。」
俺は席を立ち、鍵付きの金属の引き出しをガラガラと開けた。中には何冊もの紙の資料がベルトに固定されて入っていた。俺は片端からそのベルトを外し、「Astra Unit-07 メンテナンス・修理資料」を宙に放り出した。すかさず引き出しにほかの資料たちを詰め込み、ベルトで固定する。一度ベルトを留め忘れて、引き出し付近が悲惨なことになったことがあるからだ。
「アストラ、メンテナンスっていうとこれだよな。ついでにブックスタンドも持ってきてくれ。」
『わかりました。少々お待ちください。』
少しして、壁沿いに走るレールを通って数本の機械の腕が走ってきた。それぞれモジュール名が番号やアルファベットに記され、どれも新品同然のようにつやつやしていた。
『準備ができました、始めましょう。』
「はいよ。どこを変えてほしいんだ?」
『詳細には発声器、脚部モジュールAの電線、脚部モジュールCとDの交換、センサーモジュールの交換、思考回路のアップグレード、その他今後必要そうな部品の追加です。その他に関してはおそらくその資料に載っていないため、私が口頭で説明します。』
「了解、まず思考回路からやろうか。どんな内容だ?」
『主なアップグレードは物理的な強度の向上、思考やモジュール制御の効率化、新たな機構への互換性向上です。これにより、探検中の不慮の事故の防止や瞬発的な行動の出しやすさが向上します。懸念点は、これまでとは学習の仕組みが若干違うので、少なからず私の性格に影響が出るかもしれません。データ形式に変更はないため、データ損失はほぼないでしょう。』
「つまり?」
『要約すると、私自身が外も内もよりよくなりますが、今後私の性格が少し変わるかもしれない、ということです。』
「性格保持の自信は?」
『あります。』
「じゃあ大丈夫だな。一旦シャットダウンするぞ、ちゃんとバックアップしろよ。」
『了解、外部メモリへの記憶のバックアップ後、システムをシャットダウンします。』




