アニメーターの魔王さま④
「魔王さま、原画回収のお時間です。」
しかし、玉座にも作画机にもその姿は見えず──
ふと隣の姿見鏡の前を見ると、スクールブレザーを着た背の高い女の子(ねじれた角が頭から生えている)が、きゃっきゃっとはしゃいでいた。
「うへへ、ユミとおそろいじゃ!」
その場でくるくると回り、遠心力でスカートのプリーツがふわりと舞う。
そして、ぴたりと動きを止め、鏡に向き直ると、魔王さまは深呼吸をひとつ。
「べ…べつに!あんたのためじゃないんだからねっ!」
頬を膨らませ、ステレオタイプなツンデレの台詞をキメた。
「ブフッ」
……しまった。
思わず吹き出してしまったのが、魔王さまにバレた。
「わっ、わっ! アラガキ、なんでっ──ぐへっ!」
取り乱したラグナさまは、その場でドスンと尻餅をつく。
「えっと、大丈夫です。わかります。動きの確認をしていたんですよね?」
そう言って手を差し伸べると、ピシャッと弾かれた。
「あたぼーよ!こちとら仕事で、仕方なくやっとるんじゃい!」
──いや、そのわりに楽しそうでしたけど。
「しかし……そのブレザー、どこで手に入れたんですか?」
「これは“幻視”の魔法じゃ。この部屋にいる間だけ、わしの理想的な姿になれるのだ。設定画から完全再現してやったわい!どうじゃ、すごかろう!」
つまり、今自分が見ているこのブレザー姿の魔王さまは、幻影──ということになる。
……ん? なんか違和感があるな。
ふと、鏡の方を見直すと──
そこには、魔王さまの立派で豊満な、まごうことなき裸体が映っていた。
「魔王さまっ!? な、なんで裸なんですか!!?」
「あっ、そっか。わし自身には幻視がかかっとるが、鏡越しに他人が見ると効力が切れるんじゃったな! ガハハハハ!」
いや、そこは照れてくれませんか!?
「……原画の回収、明日でいいです。」
「おろ? アラガキ、待て待て! あがりあるぞ! 次話数のBGオンリーのレイアウト1カットじゃけど!」
「いや! 追ってこないでください! 部屋から出たら、もっとまずいんで!」
俺は脱兎の如く、その場を後にした。