アニメーターの魔王さま①
単なる思いつきです。私がTVアニメの制作進行をやっていた頃の経験録をこの作品で残しておきたいと思い始めました。続けれそうならやります。温かい目で見届けていただけますと幸いです。
「魔王さま、原画回収のお時間です」
俺のその一言に、玉座の影からどこか芝居がかった笑い声が返ってきた。
「フハハハ! また来たか、人間め。懲りぬ奴よ」
暗黒魔力がゆらめく玉座の間で、【魔王ラグナ=フレア】が堂々とふんぞり返っている。が、俺はもう驚かない。というか、これで何回目だよこのやりとり。
「締め切りは今日までですよ。まだ、原画が八カット残ってるんですけど」
「ふむ……これを持っていけ」
魔王が、重厚な紙束を片手で放る。ご丁寧に、ちゃんとカット番号・話数とそして【ハル恋】と作品の略称がタイムシートの表紙に記載がされているあたり、本人なりに真面目なのだろう。
「……で、残り一カットは?」
「作業中じゃ」
堂々と言いやがった。
「あ〜〜〜!! やっぱり重いカットを後回しにしてる!!」
思わず叫んでしまう俺に、魔王は不満げに眉をひそめた。
「なにを騒ぐか! あのカットは、最も力を入れたいシーンなのだ。最後にじっくりと描いて、丁寧に仕上げるのが信条というもの――!」
「はいはい。前回もそれ言って、三日間迷走して結局レイアウトからやり直しましたよね?」
「……ち、違うわい! 迷走などしておらん! ただ、より完璧を追い求めただけじゃ! たわけ!」
「ちなみに作監のスケルトンさんが言ってましたよ。“魔王さま、悩み始めるとキャラの顔崩れる”って」
「……なにィ!? あの骨野郎がッ! 我が忠実なるしもべの分際でぬかしおって……! この業火で灰にしてくれるわッ!!」
ズオォッ!!
魔王の右手に炎の魔法陣が浮かび上がる。熱風が巻き起こり、さっき受け取った原画がふわっと浮かぶ。
「うわあっ!? ちょっ、ちょっと待った! 火、火は禁止って言ってるでしょ!? 燃えたらカット取り返しつかないですからね!?」
「……すまん」
しゅんと魔法陣を消す魔王。威厳ゼロ。
――ここは、魔界アニメーション制作所、通称マカイノスタジオ。
そして俺は、なぜか異世界に転移して、魔王城でアニメの制作進行をやっている。