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童話つめあわせ

ことわざで展開する桃太郎

作者: 歌川 詩季

 ことわざ大好き!


※noteにも転載しております。

 渡る世間にない鬼を

 わざわざ訪ねて討ってやりつつ

 ついでに鬼の秘宝をせしめてやろうぞと

 棒に当たり疲れて歩くのをやめた犬

 木から落ちるのに()りて登るのをやめた猿

 撃たれまいと身を潜めて鳴くのをやめた(きじ)

 3匹をお供に

 みんなが(おそ)れて近づかない

 鬼ヶ島を目指して出陣する桃太郎


 同級生で早熟な3年目の

 栗太郎と共同戦線を張るも

 遅咲き8年目の柿太郎のことは待ってやれずに

 いまいち こころもとない戦力で

 鬼ヶ島へと海を渡り 乗り込んだところ

 そこに広がるは驚愕(きょうがく)の光景


 こいつはまさに鬼の霍乱(かくらん)

 鬼たちはのきなみ 病に倒れていた

 だれひとり

 金棒をふるうどころか 立ち上がることすらままならぬ

 だれもが鬼たちを(おそ)れるあまりに

 鬼ヶ島にはひとりとして近寄らなかったため

 このまま全滅を待つだけだと思われていたのが

 ちいさな討伐隊の訪問はむしろ救いになり得ると

 どうか この島と種族を

 救ってくれるよう懇願してくきた

 鬼たちのその目には涙が浮かぶ


 かといって

 桃太郎と栗太郎の旗あげは慈善事業じゃない

 鬼たちの首をとって名を売ろうって

 その秘宝を持ち帰り爺婆と優雅な余生を送るという

 野心に満ちたものだったけど

 さすがに 病床(びょうしょう)の鬼たちを

 冷酷に斬り伏せるわけにもいかず

 どうしたものかと頭をひねるうちにひらめいた


 鬼たちよ おまえらがためこんでいる秘宝を

 われらに寄越せ

 さすれば われらはそれを積んで海を渡り

 帰り着いた地で薬へと替えてまた戻ってこよう

 ただし これはビジネスだ

 手間と時間を費やして 救いをさしのべたぶん

 しっかりと報酬はいただくぞ


 鬼たちはその申し出を断るはずもなく

 秘宝の一部を惜しげもなく差し出した

 ほんとにわれらを信じるつもりか?

 秘宝を持ち逃げして戻ってこないかもしれないぞ

 こちらのもちかけた話を鵜呑みにする鬼たちに

 むしろ戸惑う桃太郎に鬼たちは言う

 あんたは賢い男だ

 これはビジネスで これからはあんたは貿易商

 今回の薬で利益を得たら

 ほかに要るものはないかと継続を申し出るだろう


 鬼たちは鬼ヶ島にないものを取り寄せてもらい

 人間はその市場に鬼の秘宝が出まわり

 桃太郎たちは報酬で富を得る

 だれひとり損をせず 誰もが多くを得ることだろう

 病が癒えれば 職人の(わざ)を身につけた鬼が

 財源となるさらなる秘宝を用意しようと

 また腕をふるうことになる

 材料たる資源が足りなければそれも

 あんたたちに依頼して取り寄せればいい

 ただの鉄屑さえ 細工と妙技で

 秘宝に変えて見せようぞ

 これで あんたたちのビジネスが終わることはない

 独占した貿易権で

 ひとやまどころか大山脈の財産を築けることだろう


 それを聞いた桃太郎たち

 鬼の秘宝を積んで海を渡って帰ったが

 秘宝を持ち逃げするような

 愚かなおこないをするはずはもちろんなかった

 このビジネスは予想通りか予想以上にうまくゆき

 莫大な富を手にしたのだ


 そしてこれはもう

 何度め 何十度めの鬼ヶ島への渡来

 病がそれなりに癒えて

 いまはリハビリにいそしむ鬼たちに

 桃太郎は声をかけてやる

 慌てることはない

 必要なものがあればおれが取り寄せてやる

 じっくりとならし運転をするんだな

 そして年が明けたころ

 元気になった鬼の職人たちには

 貿易の財源となる新たな秘宝づくりに

 腕をふるってもらうからよろしくたのむよと

 病の猛威から(にぎ)わいを取り戻しつつある

 鬼ヶ島を見て 笑みを浮かべながら

 欲の皮につっぱることなく優しい目をして

 来年の話をするものだから

 つられて鬼たちも笑ったのだ

 平和です。

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― 新着の感想 ―
テンポがよく面白かったです。 そういえば犬猿キジは全員、ことわざに縁がある動物なんだなぁとしみじみ思いました。 終わり方も実に“粋”ですね。
ラスト。目頭が熱くなっちゃったよ。
やさCセカイ  (´∀`)  鬼の娘子     おにのむすめご  十八番茶淹れて  おはこちゃいれて  出花応興     でばなのうこう  桃太郎      ももたろう  (ベベン♪ ベン♪) …
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