46話
別にいい、という人ほど怒っている。ここは素直に謝ったほうがいいとオーロールは判断。
「悪かったって。ちゃんと言ってからサボるよ。今後は。じゃ、これでだいたい挨拶は終わったかねー。そんなわけでパリの観光でも——」
「でも、結果だけはどうやら違うみたいよ。聞いてみたら?」
「んー?」
すでに心が帰り支度を始めていたオーロールだったが、ヴィズの意味深なひと言に足を止めた。
そして二人から視線を浴びた形のイリナ。一瞬顔を上げるが、再度下げて言い淀む。
「……あたしは……」
心。色々なものが侵食してきて、まともな感想すら言えないかもだけど。でも、なにも言わないわけにも。纏まらないまま、言葉を続ける。
「……わかんない。今のもすごい演奏だったけど。鳥肌立ちまくりだけど。それでも……ブランシュとは違う。どっちが上とか、そういうのじゃなくて……」
で、結局どういうことなのだろう。それは自身にもわからない。音楽は曖昧だから。自分で白黒つける、みたいなことを言っておきながら、格好がつかないのは承知しているけども。
ニカっと笑みを浮かべながらオーロールは一歩、その迷いを持った少女に近づく。
「それでいいんだよん。言ったでショ? 音楽は上か下かじゃない。詩人のヴェルレーヌも『音楽は自分を忘れるために作られた』って言ってたらしいし? その人がどう捉えるかだけだよ」
「博識なのね。詩だなんて」
なんというか。偏見だけど、自由気ままな彼女は詩とか読まない、勝手にヴィズは決めつけていた。ブランシュならともかく。
が。その認識はあながち外れていたわけではなく、
「教わっただけだよ。本を読むと頭痛がするんでね」
と、オーロールは種明かし。読書どころか、長時間イスに座っていることも耐えられない。ちなみに、パリに来るための荷物の中には筆記用具も書物もない。




