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36話

 両の手を首筋に当てる。こうして味わうもの。今日は優しいラベンダーの香りを纏うオーロール。


「次の香水だよ。ミリィ・バラキレフ作曲、東洋風幻想曲『イスラメイ』。キミたちに弾けるかな?」


 悪戯な笑みと疑問。頭の中では、この曲を弾き始める際の手のポジションが鮮明に浮かび上がっている。最初から交差している珍しい曲。そういう希少さも好きな要素。


 その手は小さく、生意気な花屋の店主のもの。彼女を超えるイスラメイは今のところ出会えていないから。この二人は。超えられるのかな? 超えてくれるのかな。


「……イスラメイ……?」


 もちろん、狼狽するイリナが知らないわけはない。だってそれは。今の自分では手の届かない位置にあるものだから。


 ミリィ・バラキレフ作曲『イスラメイ』は、史上最高難易度のピアノ曲のひとつ。あまりの難しさゆえに、あのフランツ・リストが特別に関心を寄せていた、と言われるほど。つまりはそういうこと。


 ピアニストに難曲を挙げてもらえば、高確率で入ってくるピアニストの到達点のひとつ。挑戦しよう、などとヴィズでも考えたこともない。


「無理ね。そもそも、それこそプロですら厳しい曲。名だたるピアニストが収録しているけども、しっかりと弾けているとなると数えるほどしかいない。私達では手に余るわ」


 この曲は。あのヴァレンティーナ・リシッツァですら弾きこなせていないほど。そんなもの、いち学生でしかない自分達がどうにかできるものではなく。お手上げ。そうとしか言いようがない。


 二人のピアニストが動揺する中、オーロールだけは心変わらず。


「さっすがヴィズ。詳しいねぇ」


 簡単すぎるクイズ……クイズだったっけ? だったかもしれないが、欲しい回答を過不足なく発言してくれてありがたい。


「……イスラメイ……!」


 無意識に自身の手の平を凝視するイリナ。少し、震えている。吐息が漏れる。唇を舐める。東洋風幻想曲。あの。東洋風幻想曲『イスラメイ』。弾ける? まさか。無理だ。ヴィズも。ベルだって無理。不可能。そういうレベルの曲ではない。

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