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33話

 小さく息を吐きながら、ヴィズもそれには納得。


「それもそうね。聞いた私がどうかしてたのかも」


 でもなぜだろう。それではいけない気がして。乗り掛かった船、その船の船長がどこかへ行ってしまったのだけれど、無理にでも面舵を切ってどこか新大陸でも目指さなければ。そんな焦燥に駆られて。


 自分自身にとって、香水などどうでもいい。ただ、ブランシュとニコルに挟まれた空間がどこか楽しくて。言葉にしてはいなかったと思うけれども、いつの間にか『次はどの曲なのだろう』と身構えていたのは、たぶん事実。


 なんだか発言が不安定。そんな様がオーロールには愛おしい。


「にゃはっ。ヴィズだっけ、面白いね、キミは。とても。もしあったのなら、協力してくれるのかな?」


 でも。あの二人がいないのなら。ヴィズには全てが色褪せてしまう。


「さぁ? やるかもしれないし、やらないかもしれない。今のところ、やる気はないわね」


「じゃあ、あたしがやってもいいんだな?」


 最前列の席。そこに足を組んで座っていた少女が勢いよく立ち上がり、軽くストレッチ。次は自分の番、とでも言うかのように荒い足取りで脇の階段を駆け上がり、ステージに立つ。


 イリナ・カスタ。ピアノ専攻クラシック専修。発言や行動とは真逆の、柔らかいピアニッシモが特徴的な演奏。今日は他のメンバーは都合がつかなかったが、彼女だけは迫る年の瀬でも召集に応じた。


 他の人のピアノを聴いていると自分も早く弾きたくなってしまう性がある。春は弾かれた。なら、冬の曲でも。しっとりといこうか。


 一応。ヴィズは聞いてみる。


「……なにを?」


「なにをって、決まってんじゃん。その香水の曲をだよ。作曲家は誰だ? どの曲だ?」


 拳と拳をカチ合わせ、軽く威嚇のような習性を見せながらイリナはピアノに向かう。近づくに比例して力がみなぎってくる。気がする。

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