3話
キョトンとした表情のオーロール。目をパチパチ。
「よく知ってるねー。やっぱり気が合うよ私達。どう? 私の故郷で店でもやるー?」
こっちでできた友人の一発目から大当たりを引いた感じ。こんな感じの出会いが続いたらいいんだけども。やっぱり何事も楽しく。
ふっ、とジェイドは小さく笑う。そうか、モテているというのはこういう感覚なのか。
「それも魅力的だけどね。すまないね、もしショコラティエールになれなかったら、先にベルリンのカフェの店員に誘われてるから。それもクビになったらってことで」
どんどんと枝分かれして未来が埋まっていく。どれもこれもハッピーエンドになりそうな。周回して全部やってみたい。もしそうなったら、連れていきたい人物もひとりいる。パリでそのまま家業を継いでいきそうだから、たぶん断られるだろうけど。
といったような当たり障りのない会話。オーロールにはとても『青春してる』って実感する瞬間。
「にひっ」
「ところで」
再度、眉間に皺を寄せてジェイドがケースを眺める。唇に触れ、自分に何度も問いかけてみる。が、やはり同じところにたどり着く。
オーロールも上から見下ろす形で声に反応。
「?」
「このヴァイオリン。なんだか普通じゃない気がするね。言葉で表現するのも難しいが」
専門家でもないから勘になっちゃうけども、とジェイド。別に禍々しいオーラが出ていて、過去に幾多の人間の血を吸ってきた、とか曰く付きのものというわけでもないが。スポットライトが特別に当たっている。そんな表現。
ショコラにおいて、そういうものは稀にある。絵画などの芸術作品でも。吸い込まれそうになる純白の意識。取り込まれそう? そっちのほうが表現としては正しいのだろうか。