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29話

 ストラディバリウスやグァルネリといった、いわゆる名器と呼ばれるものでも、現在ではほぼ全てがモダンに改造されており、これに限らず世に流通するヴァイオリンの多くはモダンとなっている。バロックはあえて逆行するようにそう改造したものでもない限りは、あまり触れる機会もない。


 あえて逆行するように、モダンからバロックへという注文もなくはない。実際にリシャールも受けたことは何度かある。それでもそういう人物は結構お年を召していて。こんな若い子では初めて、だと思う。記憶の限りは。


「ある、といえばある。が」


「が?」


 歯切れの悪い返答にオーロールは振り向く。やっぱ癖のありそうな人物だ。こんな面倒なのー?


 その理由を淡々とリシャールは語る。


「あの人から依頼されたとしても、そう簡単には渡せない。オールドでバロック。もはや入手自体が難しい。そして、オールドは非常に弾く人を選ぶものだ。譲ったとして、やっぱり無理、ってのは許せないからね」


 ヴァイオリンは子供のような存在。それを無碍に扱われるのは気持ちのいいものじゃない。


 試されている、がそれも仕方のないこと。その理由もオーロールにはわかる。


「なるほどー。じゃあオールドのヴァイオリンある? それで決めてくれればいいよん」


 実際に弾いてみて。それで結論を出してくれたら。いや、なんかそういうのって好きじゃないけど、気まぐれでやってみたくなる時もある。その時の気分次第でやる気はゼロにも百にもなる。


 無数にあるヴァイオリン。そのうちのひとつ、壁に飾られていたものを外し、リシャールは感触を確かめる。


「こいつは癖が強いぞ。なぜなら……」


 と、その先は言わない。わからないようであれば譲れない。別に実力のある者だけがヴァイオリンをやる、という風潮には反対。誰しも初心者の頃はあるし、そんなことをやっていたらどんどんと廃れていくだけ。なるべく触れる機会を作るのも仕事。

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