27話
ストラディバリウスとは。ヴァイオリンを製作するのであれば目指すものであり、超えられないものでもある。緩やかに流れる時間の作り出す音、というものは、いかに腕が良かろうとアンタッチャブルな部分。もし自分であれば、その『シュライバー』さえあればなにもいらない。
もちろん最高級品というものは、数え切れないほどの模造品が出回っている。偽造のラベルも貼ってあり、職人でなければ信じてしまうであろうほど、精巧なものも。レプリカはヴァイオリンの定番商品。ストラディバリウスやグァルネリなどはその最たる例。いくつも作ったことがある。
しかしギャスパー・タルマが『シュライバー』を所持した、という話は本人から聞いていたが、まさかこの少女に。てっきり、パトロンとしてプロに貸し出すものだと思っていた。この子は何者なんだ。孫か? などと考えてしまうのも無理はない。
試されている。その気配を感じ取ったオーロールは、あえてサラッとその視線を躱してみせる。
「『シュライバー』は堅苦しくて。良い音だと思うし、まだあまり弾かれていなかったこともあって、伸び代もある。でも、そういうのじゃないんだよねー、私は」
「というと?」
足を組み替えながらリシャールはさらに追求。これまでにストラディバリウスの本物に触れて、その音を蘇らせたこともある。素晴らしい演奏を味わったことも。だが、六百あるストラディバリウスの中でも全く正体のわからない『シュライバー』。どんな音なのか、気になる。
はっきりと言って、それほどの名器というものはオーロールにとっては重荷でしかない。初心者用でも多少音が悪くても。弾ければなんでも、楽しければなんでもいい。
「そういうとこ、目指してないから。私は世界中のみんなに聴いてほしいとか、音楽で世界を救いたいとか。そういうのじゃないからねー。だからあれは、よっぽどのことがないと弾かないようにしてる。あの子と同じかなー」
あの子。こんな面倒なことを私に押し付けたあの。ちょっとだけ不機嫌。




