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25話

 国立の弦楽器製作学校で学び、教鞭をとり、メーカーではチェロやヴィオラ、コントラバスまで幅広く作り続けて経験を積むと、その後は一九世紀から続く歴史ある工房へと働く場所を変え、現在に至る。制作は弟子達に任せている部分はあれど、f字孔は彼が全て担当している。


 製作する工房はここではないのだが、ややこしい老人に頼まれ、今はここにいる。


 充満するヴァイオリン特有のニスや木の香り。肺いっぱいに吸い込んでから、オーロールはくるりと振り向く。


「ふーん? なんの話ー?」


 難しく物事を考えるのは好きじゃない。算数で『いちプラスいち』が二になる理由なんてどうでもいい。そういうもの。生きていく上では必要のない知識はできるだけ排除。太陽の光を浴びて、食べて寝る。それだけ。


 正面の壁に目をやるリシャール。この店ではなく、工房に飾られた一枚の絵画。何度も、それこそ工房にいる日だけでも一日に十回以上は見ているため、細部まで覚えているその絵が、じわじわと幻として網膜に出現する。


「二〇世紀のアメリカの画家、サム・フランシスの作品に『ホワイト・ペインティング』というものがあってね。白。ちょっと違う白。さらに違う白。何種類の白を使っているのかもわからないけど、とりあえず白い作品なんだよ」


 ははっ、と同調を呼びかけるように笑う。自分で購入して飾ったわけではない。工房に赴任した時からあった、額縁に入れられた一枚。精巧なレプリカで、正直本物もネットでは見たことはあるが、教養があるわけでもないので見分けがつかない。


 最初は「なんだこれ?」という印象しかなかった。「飾るならもっとこう、ナポレオンとか」と上の人間に提案したこともあった。だが、時が経つにつれ、どんどんと惹き込まれていった。理由? そんなものはわからない。絵画を学んだこともないし。


 工房の仲間と絵について話しても、様々な意見が飛び交った。気分をリセットさせるために見る者。世界は複雑だ、と哲学的に見る者。コーヒーを飲みながら見ると、より美味しく感じる者。ひとつとして同じ意見がない。リシャールには感想もなく、ただ別世界に飛ばされたような感覚をもたらされるもの。

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