12話
「その通り。いい音だったでしょ? でもまだ眠ってるかなー。本当の力を引き出せていない。それでも私のほうが引き出せてるかなー、たぶん」
そのヴァイオリンの到達点。道半ばの音ではあるが、オーロールとしては正直、この神器を必要としていない。持ち運びにより気を使う。もっと気楽に弾きたい欲のほうが強い。
発言を基に、ひとつの仮説をベルは立ててみる。
「えーと、あなたのほうがブランシュより実力は上、ってこと? ブランシュ、すごく上手いけど。色とりどりで」
それはもう驚くくらい。一緒に演奏した『新世界より』は、自分史上最高だった、と思うほどに。
ベル・グランヴァルという少女は。音に『花』を見ることができる、ような気がする人物。花屋でアルバイトしていることもあり、そこから着想を得て、花をなぞるようにピアノを演奏すると、不思議と上手くいく。ような気がする人物。
そんな彼女にとって、ブランシュの演奏はいつも、鮮やかなフラワーアレンジメントが思い浮かべられるものばかりで。ただ単に技術がある、というだけではない、心に響く音。
随分と……面白い感想を抱く子だね、とオーロールは一瞬間を溜めてから口角を上げる。
「どうだろうね、人の好みがあるから。てかキミ。キミがベル?」
突然名を呼ばれてベルは困惑しながらも返事。
「え? はい、そう……ですけど……」
まだ名乗ってないのに。ブランシュからなにか……言われてるのだろうか。嬉しくもあり気になりもする。
目を細めてオーロールは凝視。すすけている。花束の影。
「聞いてるよ。『あの』花屋で働いてるんだってね。よくもまぁ、あの子がそんなことをする気になったもんだねー」
「……ベアトリスさんを、知っている……んですか?」
背筋に冷たいものが走る衝撃と興奮。ベルの心臓が一度だけ飛び跳ねる。まさか、あの人の名前がここで……名前じゃないけど、たぶんあの人を知る人に出会え……た? 目も見開く。




