エピソード5:革命の正義
王都の賑わいの中、広場の一角で、人々の歓声が響いていた。
「おおっ! 見たか、今の動き!」
「すごい! あんな高さの屋根から飛び降りるなんて!」
群衆が囲むのは、一人の青年だった。
黒髪に、燃えるような琥珀色の瞳。
軽やかに動き、まるで風のように舞う。
「さて、お前たち! 今日は何を見せてやろうか?」
彼は笑いながら、群衆を煽るように声を上げる。
腰には小太刀を二本、服装は貧しいが、動きには迷いがなかった。
──エルミナは、ふと足を止めた。
(……あの動き)
貴族の武芸会でも見たことがない、流れるような身のこなし。
貴族に属さず、ここまでの技術を持つ者がいるとは。
「ほう」
彼女は興味を持ち、ゆっくりと群衆の中へ進む。
青年はそれに気づいたのか、にやりと笑う。
「おやおや、お嬢様が俺の芸に興味を持ったか?」
「……曲芸師か?」
「まあな。俺はジェイド。ただの大道芸人さ」
彼は軽く跳躍し、屋根の上に飛び乗る。
軽業師としての技に自信があるのか、余裕の笑みを浮かべながら、宙返りして地面に降り立った。
「俺の芸はな、ただの見世物じゃねえんだ」
「……?」
「俺は、"この世界がどれほど歪んでいるか"を、芸で見せるんだよ」
エルミナの眉がわずかに動いた。
「……それは、どういう意味だ?」
ジェイドは小太刀を抜き、陽の光を反射させる。
「お嬢様、貴族がいなけりゃ、俺たちはもっと楽に生きられると思わねえか?」
「……!」
「貴族は民から税を取り、食うに困らぬ暮らしをしている。そのくせ、俺たちがどれだけ苦しんでいるかなんて、何も見ちゃいねえ」
彼の声には、怒りが滲んでいた。
「……」
エルミナは何も言わずに、ただ彼を見つめる。
「俺たちはな、貴族なんていなくても生きていけるんだよ」
「……それが、お前の信じる"正義"か?」
「正義? そんな大それたもんじゃねえ。ただの"当たり前の話"さ」
彼は小太刀を振り、空を切る。
「お嬢様、あんたは違うのか? 俺たちがどれだけ虐げられてきたか、それでもまだ"貴族の秩序"が必要だって言うのか?」
エルミナの胸に、一つの疑問が生まれた。
(……貴族の秩序、か)
彼の言葉は、民衆の声そのものだった。
そして、それは彼らにとっての"革命の正義"だった。
エルミナは、ゆっくりと息を吐く。
「……お前の言うことは、もっともだ」
「へえ、意外だな。てっきり"秩序を守れ"とか言うと思ったぜ?」
「だが、"貴族をなくせば平等になる"……その考えは、本当に正しいのか?」
ジェイドの目が、わずかに細められる。
「……お嬢様、アンタは"革命"を信じねえのか?」
その言葉に、エルミナは答えなかった。
革命。
それは、王族と貴族の時代を終わらせるもの。
この出会いが、彼女の心に"革命の正義"を植え付ける第一歩となる。