小学1年生が異世界転生してから1年が経ちました
こちらは、
『小学1年生が異世界転生したら』
『小学1年生が異世界転生してから』
の続きです。各話は数分に読めるのでそちらからどうぞ
もし異世界転生した小学1年生が現代日本にカエれるとするならば
トゥルルルル…トゥルルルル…。部屋の中にある電話機から着信を伝える音が鳴り響く。かれこれ1日ほど無視しているのだが、相手は暇なのだろうか?いつも使っている机にはあの天使の報告書がたまっている。あいつ、律儀にあっちの世界の紙でよこしやがって…。最下級天使はこっちの苦労をしらないのか?ばかか?…はぁ、まあいい、どれどれ今日の手紙は…これか。
ーーーー
これは異世界の神様の独り言。
愛野ひとしが異世界転生してから1年が経過した。もし愛野ひとしが日本で健やかに成長していたなら、小学2年生のリーダーになっていただろう。他の子どもより少し覚えが良く、身体が丈夫だったのだ。幸せな人生を歩むことができただろう。しかし、今は異世界に居る。それも1年。日本という国で生きるために必要な土台を1年分奪われたのだ。かわりに、この異世界の習慣、食事、知識を手に入れた。
…ん?ならいいのではないかって?確かにこれが絶望した社会人が子供に転生したならいいが、小学1年生にとってはあまりにひどすぎる。だからボクはチャンスをコッソリあげることにした。あの転生神様の目を欺いて。なに、ここはボクの世界だ。あいつが勝手に日本人を送り込んで遊んでいるなら、こちらから日本へ送り返してもいいじゃないか。
ーーーー
愛野ひとし、フィリップ、の部屋、窓から暖かい光が差し込み始める時間
「おはよう、フィリップ」
「おはようございます、お母さま。」
1年経てば心を許すのか、愛野ひとしとフェリアは同じベッドで目を覚ます。元の世界の思い出は、両親との記憶は愛野ひとしの記憶の深いところに押しとどめられ、フィリップの役をきれいに演じていた。
いつも通り食事を済ませると、フェリアがいつも以上に嬉しそうな表情で会話を始める。
「今日は、フィリップに大事な話があります」
「なんですか?お母さま。」
「”フィリップ”は今年で10才になります。なので、学校に通わなければいけません。学校っていうのはね…」
かしこまった口調が砕け始め普段の話し方に戻っている。話すテンポも少し速い。フェリアにとっては学校は良い場所らしい。だが、愛野ひとしにとってはそれどころではない。
「ガッコウ…、帰り…、いえ、それは楽しみです。」
「そうねー、でもその前に同じ年のお友だちをつくりにいきましょうか」
「友だちですか?ガッコウに通う前にですか?」
「いい?フィリップが入学する学校はすこし特殊なの。同じクラスの中でも話していい人とダメな人がいて…」
フェリアの話す内容をまとめるとこうである。
一つ、学校は各々の能力を高める場所である
一つ、学校は己と異なる能力を持つ者と交流を深める場所である
一つ、学校は己と異なる身分である者を知る場所である
ただし、身分の低い者から身分の高い者に話しかけることは許されない
一つ、恋愛は自由である
他にも規則はあるが、特にこの4つが重要らしい。
「だからね、学校に入る前にある程度顔見知りをつくった方がいいの。…ということで、今日の午後、お母さんの友達で、今年入学するお子さんがいる人たちと会食するから、教会での礼拝はお休みです。」
「了解です、お母さま。」
食事後の会話は終わり、2人は一旦別れいつものように午前を過ごす。
ーーーー
午後、フィリップとフェリアは馬車に乗り、フィリップの住む家よりふたまわり大きい館を訪れる。
「いらっしゃい、フェリアさん。」
「お招きいただきありがとうございます、アリス様。」
「…ぷぷっ、フェリアがそんな話し方するなんてっ、あーおかしい」
「むぅ、子どもの前だからいい大人を演じないとでしょー!チェシャちゃんも何とか言ってよー」
「こんにちは、君がフィリップくんだね、フェリアから聞いてるよ。少々特殊な事情があるらしいではないか?」
フィリップはフェリアの前に出てぎこちない所作であいさつをした。
「初めまして、フィリップです。今日はよろしくお願いします。」
「初めまして、私はチェシャ、娘たちと仲良くしてやってくれ」
「こんにちは、私はアリス、この館の主人の妻です。うちの子とも仲良くしてね。」
軽いあいさつを済ませると、館の中に案内される。愛野ひとしはどう思っているだろうか。同じ年の子ども会えることがうれしいのか、この世界の子どもと仲良くできるか心配なのか。それともチェシャという女性のスカートから飛び出るしっぽが気になるのか…。
ーーーー
転生神様
あなたに賛同する天使ミルです
今回の報告書を送ります。
愛野ひとしの観察を続けてから1年が経ちました。彼は私の思った以上にうまくやっています。ただ、フィリップという人間を演じる中で、もとの世界を思い出させる単語を聞いたとき、心拍数が著しく高く危険な状態になります。こちらの判断で緊張緩和の魔法を使わせていただきました。これから、愛野ひとしは学校という集団社会に入ります。もとの世界を思い出す機会も増えると考えられるので、危険性がある人物には認識阻害の魔法をかけてもよろしいでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございます。
「いいね」を押していただけると、投稿頻度と文字数を増やす気力が上がります。