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タイムパラドックス


俺の名前は波留。1年前の8月15日から、幼馴染の柚葉が死んでから1年間で8月15日の1日だけ、2年前の柚葉の死んだ日に戻れるようになった。一年前に急にタイムループした時は驚いた。柚葉が前みたいに家に迎えに来て、一緒に学校へ行くんだ。俺はそれを夢だと思って過ごしていたら前に柚葉が死んだ日の様に歩道に突っ込んで来たトラックに轢かれて柚葉は死んだんだ。全く同じ光景だった。俺は、前に柚葉が殺された時の様に何もする事ができず、ただ呆然と絶望と共に立ち尽くしていた。そして次の日目が覚めた時は、現代に戻り、8月16日になっていた。俺はここで、タイムループをしているって確信したんだ。だからきっと今年こそは柚葉が死ぬ未来を変えるんだ。

今日は8月14日。今日寝て明日になったらきっと柚葉が生きているはずだ。絶対に、助ける。ハッと気がつくともう朝になっていた。8月15日の朝6時だ。本当に、タイムループできているのだろうか…。本当に2年前に戻っていたら、7時30分になると柚葉が来るはずだ。それまで、ひたすら待つしかない。一階へ行くと、お母さんがいつも通りご飯の支度をしていた。いつもよりも、ずっと若く見える。俺はありふれた日常に不安を覚えた。懐かしい教科書をカバンに入れて支度をし、朝食を済ませる。もし、ループしているならば柚葉はもうすぐ来るはずだ。             

ーピンポーンー

そっと、玄関に出てドアを開ける。そこにいたのは、紛れもない昔のままの柚葉だった。ドッドッドッと心臓が高鳴る。苦しくてたまらない。なぜか、ボロボロと涙が溢れ出した。恥ずかしいけど、止まらない。嗚咽を漏らしながら泣いている俺の背中を柚葉は驚きながら静かに撫でてくれた。しばらくして、だいぶ落ち着いてきた。「ありがとう」俺は静かにそう言い、柚葉の手を引き歩いた。柚葉はなんだか困惑している様子で俺を見つめていた。俺は、今回柚葉を助けるためにちゃんと考えている。このままいつもの道で学校へ行ったら柚葉はまたトラックに轢かれ、死んでしまうだろう。だからいつもと違う道を進めばいいのではないかと考えたのだ。そうして、いつもは通らない裏道へと俺は柚葉を誘っていった。単純な方法だが、1番いい気もする。柚葉を絶対に救うんだ。そうして歩いているうちに柚葉は口を開いた。   「こっちって、いつもの道と違うんじゃ…?」    

「いいんだよ、柚葉だって冒険したいだろ。」      

そんなことを言いながら半ば強引に柚葉を連れて行った。せめて、あの柚葉が死んだ場所から離れられればいいんだ。遠くまで行く必要はない。そう思いながらも不安で足が止まらずに歩き続ける。すると、柚葉が急に立ち止まった。

「い、痛いよ、波留くん…。そんなに急いでどこ行くの?」

掴んでいた柚葉の腕を見ると、くっきりと指の跡が付いている。俺は我にかえりパッと柚葉の細い腕から手を離した。

「ごめん…少しボーッとしてたみたいだ。」

未だにまだ、夢を見ているような感覚に陥っている。タイムループなんて、あるわけがない。でも、なぜ柚葉がここにいるのかもわからない。俺はだんだんと混乱してきていた。すると、いきなり柚葉が俺の頬を両手でつまんだ。「痛っ!」と思わず声が出てしまった。柚葉はしかめっ面で俺の方をジーっと目を離すことなく見ている。           「おかしい。今日の波留くんおかしいよ。朝急に泣き出すし、それにいつもだったら真面目な波留くんは絶対寄り道なんてしない!それに、多分今もう遅刻だけど波留くん遅刻なんてしたこともないのに!あ、あと…もう大きくなったから昔みたいに手を繋ぐのだめって言ってたのに、波瑠くんから繋いでくるし…。」                 

俺は少し挙動不審になった。俺が柚葉のことを知っていると同時に柚葉も俺のことをたくさん知っている。俺は柚葉に視線を合わせないまま言った。           

「いつも通りだよ。今日はたまたま気分転換がしたくなっただけ。」

そういうと柚葉は首を傾げて腕を組んだ。悩んでいるのだろうか。そろそろ、トラック事故の危険もないだろう。俺は柚葉に向かってこう言った。          

「流石にそろそろやばいよな。もう行くか。」     

すると柚葉は軽く怒りながら言った。        

「もー!当たり前だよ!ほら手繋いであげるから走ろ!」

俺よりも足遅いくせに何言ってんだか。そんな小さな笑いが込み上げながら学校へと二人で走った。教室に急いで滑り込んだがもう1時間目が始まっていた。柚葉と俺は初めての遅刻だったので軽く叱られるだけで済んだ。二年前通りの授業だ。だが実際、俺はこの授業を受けていない。柚葉が登校中に俺の目の前で死んで、それから俺は2週間ほど学校を休んでいたのだから。とはいえ二年後の俺はもう中1。理解はしている。話を聞いてても暇だったから一人でノートの隅っこに落書きをしてた。すると、隣の席のやつが俺のノートをチラッとみてこそっと              

「わー!波瑠が落書きしてる!先生に言ってやろっかな。」と言ってきた。俺はそいつを思い切り睨みつけた。ビックリした。そこには、俺の親友の深月みつきがいたからだ。でも、妙に子供っぽい。深月って二年前もこんなガキくさかったっけ?深月は、5年生の頃から同じクラスだったが中1で急に仲良くなりあっという間に親友となった友達だ。小学校の頃は、くだらないことでからかってきたり馬鹿にされるから大嫌いだった。しかし、中1の時に初めて深月の新たな一面を知り、深月に抱いてた印象が変わったのが仲が縮まったきっかけかもしれない。でも、中学生になって見る目が変わってもやっぱりコイツはガキだ。正直今すぐにでもぶん殴ってやりたいが生憎こいつは未来の親友だ。仕方ない、許してやろう。だが、ニヤニヤ笑いながらこちらを見つめてくる様はとても不気味だ。深月から目を逸らし、俺は黒板の文字を書き殴るようにノートに写した。休み時間、柚葉に声をかけられた。       

「ごめん、黒板の文字書ききれてなくて…。波瑠くんのノート写させてもらっていい?」

と言われた。俺は、自分のノートをチラッとみて、もう少し綺麗に書いておけばよかったなと後悔した。こんな汚く書いたのは初めてってレベルの汚さなのにこういう時に限って見せてと頼まれるとか…。あぁ、そうだ。俺がノートを綺麗に書き始めたきっかけは柚葉だったな。柚葉は文字を書くのが遅くて、いっつも写させてたから、俺はいつ柚葉に見られても困らないように意識して綺麗に書き出したんだった。でも今回のノートで台無しになってしまった。柚葉は俺のぐちゃぐちゃに書かれたノートを見て、        

「あれ、波瑠くんどうしたの?眠たかった?」

と言ってきた。…悪気がないのはわかるが多少心にグサッと刺さるな…。そんな健気に頑張っていた俺でも中学校からはノートを取る速さを上げるために徐々に字の汚さは意識しなくなっていた。読めればそれでいい、みたいな。こういうのは継続しなくちゃ意味が無いってのに俺はバカだ。いいや、次頑張ればいい。そう思っていたが、しかし、その後の授業は移動授業ばかりでノートを見せる必要はなく1日の学校生活が終わった。俺は、中学の時であれば深月と帰っていたが、今はさほど深い仲ではないので俺は一人で家に帰る。柚葉はいないのかって?一緒に帰りたいが、残念ながら柚葉は家庭科クラブに入っていて放課後も学校に残っているのだ。とぼとぼと一人寂しく歩いていると、いつもの道に警察がいて、沢山のテープが貼ってあった。そのテープの奥には、トラックが衝突し、家の壁に突き刺さっているのが見えた。そうか、元々今日あったはずの事故だもんな。誰も犠牲者がいなくて良かった。そう思ったら、近くでその事故の現場を見ていたおばさんが涙をハンカチで拭いながらぽつりと言った。

「ゆうじくん、可哀想に…」             

一瞬意味がわからなかった。そういえばうちのクラスのゆうじが今日は学校に来ていなかった。まさか事故に遭ったのか?いや、確か柚葉が事故にあった時はトラックの運転手も意識不明だったが無事だったし、他に事故にあった人は居なかったはず。今回のタイムループで柚葉はその事故を回避したからトラックが突っ込んでトラック運転手が怪我をしてしまうのは運命にしろ、他に事故にあう人が居るのはおかしい。もしかして、俺が過去を変えたことにより、運命が狂った?…いいんだ、今日寝て明日起きればまたいつも通りの日常なのだから。そう信じ込み、俺は急いで走って家に帰った。ガチャっと勢いよく玄関を開け、靴を脱ぐと自分の部屋へと続く階段を一気に駆け上がる。そして、自分の部屋に重たいカバンを置くと、フカフカの一人用のベッドに横たわり、静かに目を閉じた。明日、目が覚めたらいつも通りの日常で柚葉も生きていますように。そんな祈りを心の中で唱えながら俺は静かに眠りについた。何回か、起こされたような気もするがそんなことも他所に俺の意識は奥深く深くへと沈んでいった…。

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