009話 キャットナネコサンについて
「はいじゃつぎの劇のお時間です」
黒子が”めくり”を操作し、”キャットナネコサン”と書かれたページを表示させた。あわせてふたたび幕が上がる。第2幕の演目開始ってわけだ。
中心にちびリーサ、その周辺ではたくさんのネコサンが自由気ままに動き回っている。猫じゃらしにとびついたり、箱の中に飛び込んだり、ネズミをおっかけまわしたり。お魚をくわえてにげたり、こたつで丸くなったり、それっぽいしぐさをみせている。
『(こうして見てるだけなら、なんかこういうキャラクター、いそうなんだよなぁ)』
外見だけならそれなりに愛くるしく見える。ただ、ネコのガワをかぶった化け物の擬態しているだけのようにもみえるから、そこはかとない不気味さは感じられる。やがて舞台後ろのほうから現れたちびリーサが、こちらにむかって話はじめた。
「ミィたちはごらんのとおりの”キャットなネコサン”ですが、実はその正体は、あニャたのご存じな猫、ねこじゃらしにじゃれついたり、またたびでくねくねしちゃうのとは、別の存在ニャの」
『(デスヨネ!)』
今さら引っぺがして何の変哲もない猫がいるとも思ってはいない。しゃべらないし、触手っぽいものを出してこないんだよ。
「実はミィは、あなたたちの次元からぶっ飛んだ先にいる~」
『?じげん!?』
(授業の単位?時間で爆発する的なの??あるいは黒い帽子をかぶった~)
「えー、二次元、三次元とか、ディメンジョン的な話ニャ」
かぶせるように舞台から声が返ってきた。すると、さっきまで件名にネコですアピールをしていたネコサンたちが動きを変えた。それぞれ二匹のネコ、三匹のネコ、四匹のネコが手をつないでくるくる回っている。
回りながら少しずつ前のほう、前面に移動し、左、真ん中、右に移動する。移動が終わったところで、組体操のようなポーズを決めて動きがとまった。
クロネコさんがその横に持ってきた小道具をかぶせるように置いていった。ちびリーサがそれぞれを手差ししながら、説明してゆく。まず二匹のところには大きな絵画のパネルが置かれている。モニャリザとでもいうのだろうか?
「はい、絵のように縦の高さと横の幅だけ、厚みもおくゆきもないへいたんな世界、これが二次元、さっき遊んでいたゲームの世界とかですねー」
次に三匹のところには石膏の彫像、ミィケランジェロってとこか!?
「で、二次元におくゆきが加わって三次元、あなたがいるこの”ワンダマシマシ”な世界が三次元の世界です」
ただ、最後の四匹のところは、どんなに目をこらしても見えない。右側に置かれたものもなんだろう。モザイク画像のようなものが見えるだけでだ。
『(右端のこれは、なんだっていうのだろう?)』
角度をかえても、薄目でみても状態は変わらない。
「あーうん、やっぱみえニャいのね。じゃ”四次元”は省略!テストダシマセン!!」
ちびリーサがなにかボタンのようなものを取り出し、ぽちっと押すと、右端のポーズをとっていたネコサンと横に置かれた得体のしれないものをを囲うように、ぽっかりと穴ができた。正体不明のモザイクのかたまりは、ネコサンごと奈落の底へときえていった。
「ミィたちはショウタさんが認識できない四次元の世界からやってきた存在ニャのです。四次元から一次元をディフォルメすることで現れることができるようになり~」
次の瞬間、二次元のパネルに描かれた”モニャリザ”の顔が険しいものになった。宙にうかび、怒りの形相を浮かべた額縁は、となりの”ミィケランジェロ”の彫像にちょっかいを出し始めた。上からたたく、かどでどつく、彫像の上、頭のところできりもみ回転をする。
「二次元世界の脅威にさらされている、三次元のあニャたたちを救うため~」
ちびリーサは芝居がかった口上とともにひょこひょこ前に進み、間に立つ。そして彫像に攻撃を続けているモニャリザのパネルをがしっとつかんだ。
片手で雑に放り投げ、回転をつけながらステージの天井ぎりぎりまでふっとばす。かぶせるようにちびリーサは右腕を前に突き出すようなポーズでアッパーを放つ。さらに余裕のしぐさでピザ職人のようにくるくるとパネルをぶんまわし、最後にはフリスビーか手裏剣のように、幕の外のほうへそれを放り投げてフィニッシュをきめた。
優雅なしぐさで彫像の頭をナデナデしたあと、正面にむかってポーズをキめる。
「平和のためにやってきた”ニャいすな存在”ニャのです」
(”頼もしい味方”というより、”逆らっちゃダメなやつ”な気がするなぁ)
『お、おぅ。とっても頼もしいデスね』