008話 ミャウント
劇はいったんここで終わりのようで、するすると幕が下りていった。
『次は”カワイイネコチャン”とやらだね』
「あー、そのミャえにちょっとせニャかに、”ミャウント”させてもらうニャ」
『(?)』
次の瞬間、握手のかたちで握っていたリーサの両手がふくらみだす。こちらのこぶしをおおい、さらに腕をつたって伸びてきた。一方で、膝上のリーサの姿は急速にしぼんで小さくなって、移動している!?
次の瞬間、手品かなにかのようにリーサの姿は完全に消えてしまった。いや、消えたというより、”移動してきた”のだろう。背中のほうに、ひんやり、さらさらペタペタした感触を感じる。そしてちょっとこそばゆい感触は背中から上半身全体に広がっていった。
『背中からとりつく、これじゃほんとにオバケじゃニャいか!』
ツッコミをいれようとして、声のトーンと発声がいつもと違うことに気づく。
『?えーと、にゃ、にぃ、にゅ、にぇ、にょ?』
ボイスチェンジャーを通したような、強い違和感をおぼえる。
『(声にまでネコがとりついてる!?)』
頭を抱えようとした瞬間、両手の先から白い塊、さらさらした白布が飛び出した。それは直線的に伸び、床を伝って壁にぶつかり、頭のほうへとんでゆく。思わず目をつぶったが、布は勢いに反して柔らかく、ふわりと顔をなでる。そしてそのままくるくると顔に巻き付いて、頭をなでてきた。
「(ヨシヨシおちついて。ショウが落ち着いていないと制御が難しいニャ。落ち付いて、そばにいるから、だいじょぶだから、ハイオッケーネー)」
ネコサン、人外のものと一心同体となり、生き返るための手段を模索する。コトバの響き、物語のさわりとしては悪くないかもしれない。だが脳裏には、昔教科書で見た”背中からキノコが生えている昆虫”が浮かんだ。
「(とりつきユーレイでも、パラサイトきのこでもニャくて、こうやって、ショウのソールをつニャぎながら、身体のほうもオマモリして、すこしずつニャオしてあげてるんだニャ)」
身体を覆っているリーサがぐにゃぐにゃと動いている感触が上半身に伝わる。
「(あニャたのいのちがオブツダンにならニャいよう、こうしておせニャかからお世話しミャす。コンゴトモヨロシクっ)」
ヘッドセットに手をかけ、上にあげる。今度は錯覚ではなく、ちゃんとつかむ感触がしてはずすことができた。ヘッドセットをひとまずわきに置き、デスクの端に置いてあった鏡を手にとってみる。
『(とりつき、要介護ってなら、仕方がないのかもしれないけどさぁ)』
着ていたパーカーは、真っ白なものに変わっていて、頭にネコミミがついている。さらにネコの鼻下がプリントされたマスクを身につけた自分が映っていた。
『(あのう、割と自由に変形できるなら、もすこしなんとかならない?)』
感情にあわせて耳が前に倒れ、マスクに描かれたヒゲまでだらんと下がってくる。
「(ひとまず今回は急ぎニャんで、これでいきミャしょう!)」