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007話 助かるための方法について

「さて、まずはあニャたが助かる方法について話ときミャしょう」


 幕があがったステージ中央でちびリーサが語りはじめると、舞台のしもてのほうからまた別のネコサンが現れた。


 灰色っぽい布をかぶった姿で、なんだか工作用紙でできた”雑な似顔絵のお面”をつけている。子供の落書きのようで区別しづらいがたぶん男性だろう。紙袋やゲーム機の箱を放り投げながら、舞台中央に向かっている。わきには、スニャッチのヘッドセットとコントローラのようなものを抱えている。


 (この組み合わせ、これはオレってことか!?)


「(今回、ショウタさん役のオーディションは大変だったけど、いいこがみつかったんだニャ)」


 とまどっている間にも、おゆうぎのような寸劇は進行してゆく。


 うっきうきでヘッドセットをかぶってかまえるオレ、プレイをはじめですぐに、ふらふらしだすオレ、受け身もとれず、床に倒れこんでしまうオレ、そしてそこからはいでる、頭に輪をつけて色が薄くなっているオレ。


 (二人分入ってたのから、一人がでてきたんだな)


 とか演出方法に関心している場合じゃないな。舞台の上で”半透明のオレ”はヘッドセットをはずそうともがいている。


「サトウショウタさん、ニ〇〇四年〇四月〇ニ日生まれ。きたる大学生活の準備中、お誕生日のお祝いに買ったVRゲームのプレイ中にショックで倒れてしまいました」


 ちびリーサが説明をしながら、もがいているオレの横をじっと見守っている。ヘッドセットから手をはなしたオレは、その場に立ちつくしていたが、やがてがっくりうなだれたようなポーズのまま、その姿は徐々に浮かんでいった。目をこらすと、つるしている細い糸が見える。


 (上からつるして平気なのか!?中身がでちゃわないコレ?)


 いらぬ心配をしてる間にも”オレ”の姿はどんどん舞台の上に浮かんでゆくが、ちびリーサが布のはしをぎゅっとつかんで、おさえつけた。


 風船のようにぷかぷかとうかんだオレをおさえて、視線を上にむける。その目線は、役としてのオレではなく、座ってリーサと劇を見ているオレをまっすぐ見つめていた。


「今の状態は、だいたいこんニャかんじ。ミィのチカラで魂をつニャいでいミャす。ただし、あニャたがコトブキライフをまっとうするまでこのままオツキアイすることは、ちょっとできニャいのです」


 ちびリーサは紐でオレを結びつけ、重しでおさえこむ。段ボールに雑に描かれた何の説得力もない”億千万トンのおもり”だが、ひとまずそのまま上に飛んでゆくのはおさえられた。


 ただ、アドバルーンか、風船のようにぷかぷかと浮かぶさまは、いつまたはずみでとんでいってしまわないか、不安な気持ちはぬぐえない。


『コトブキ?あー、寿命ってこと?』


 ざっと六十年ほどこの状態をキープしてくれるならぜひお願いしたいところだが、ネコサンたちが実際のネコより長生きだとしても、さすがに無理があるな。


「それニャ!悠久の四次元を渡り歩くネコサンでも、この先ニャン十年か、ゲテンノウチ的にちょっとの間でも、あニャたによりそっちゃうのは、マヂダリィって感じ?ニャのです」


 ちびリーサはぷかぷか浮かんだオレをつんつんつつきながらこちらを見つめる。


『(ダリィときたか、まぁ仕方がないっちゃ仕方がないか)』


 そして、ふところをごそごそとしていたかと思うと、まんがにあるような白いバッテン型のばんそうこうをとりだし、ぺたぺたとはりはじめた。


「ミィたちネコサンは、みゃほうやチョーノーリョクみたいな、不思議なチカラを持っていて、リーサは人のケガを治すチカラをもっていミャす」


 はられたばんそうこうには、”十”とか”五”とかの数字が一瞬表示され、はったそばから透明になってきえてゆく。しばらく小さい数字の回復を繰り返していたが、浮かんでいるオレの姿はかわらず不安定に浮き続けて、ピクリとも動かない。


『あんまり良くなってるようにみえないね、何ポイントくらい必要なの?』


 オレの状態を治すのに必要な数字がどのくらいのものなのかはわからないけど、十や五のくりかえしが有効にも見えない。


「今のリーサのチカラだと、この状態を完全回復させるには不十分ニャの。イマハコレガセイイッパイ。でも~」


 次の瞬間、ちびリーサの目が一瞬キラッと光ったように見えた。いったん後ろに下がり、少し離れたところで身をかがめ、なんかポーズを取り出す。すると、ちびリーサの身体の中心がなにやら輝き出しはじめた。


 (!中にライトでも入れてたのか!?)


 さらに舞台装置のスポットライトが重点的にリーサを照らす。周りでは何人かのネコサンが”ゴゴゴゴゴ”とか”ざわ・・・ざわ・・・”といった擬音のボードを掲げてゆれている。


「ミィがのチカラには、まだ何回かの”ヘーンシンッ”や”シンカァッ!!”が残っているんだニャ。いまはまだ”ばんそこうくらい”のチカラだけど~」


 舞台の天井からさらに強い円筒状の光が注がれ、ちびリーサの姿が完全に見えなくなった。クロネコがすたすたと近づき、光の筒から”ちびリーサの外布”をひっこぬく。


『(!?)』


 布をひっこぬいたクロネコサンはそのまま舞台から退場してゆくが、つい視線はそちらに行ってしまう。やがて、過剰な各種効果は少しずつおさまってゆく。光が薄れてゆき、その中心に白い影が見える。


 ステージには、胸をはった姿勢でちびリーサがたっていた。


『(で、どこが変わったんだよ!)』


 少なくともここから見て気づけるような違いは見えない。


「リーサはまだまだ強くなる、もっと強い”治療のチカラ”が使えるようにニャるの。ほらよく見て、ちゃんとひげが伸びて耳もピンとたってミャす」


 なんか変わったらしいリーサはゆらゆらとしたうごきをとりながら、あらためてオレのところへ近づいて対峙する。片手を前に伸ばすと、かざした手からあらゆる治療の技が放たれ注がれてゆく。


 メスのような刃


 胃カメラのような触手


 歯医者の根本治療にでも使うような大きいドリル


 蛍光色の液体がはいった注射器


 原色のどぎつい色で怪しく光る大きなカプレット


 それら殺傷能力の高そうなものがつぎつぎに展開され、オレに叩き込まれてゆく。


『これ治療、なんだよね?とどめの一撃とか、カイシャクして的なものじゃなく』


 思わず不安になって、膝の上のリーサに問いかける。


「はい、ちゃんとした四次元の治療法、これであなたのライフもノックアウト~じゃニャい、アウトノックです!」


(ノックアウトしちゃダメだろ。やっぱ単語のチョイスは微妙だな、そこは治らんのかい)


「ミィのパワーが”ジューブンツヨイ”になったら、”ブチギレ状態”のあニャたの魂だって、つなぎニャおすことができるようになるんだニャ!」


 まぁでも、話としてはシンプルなものである。完全回復を習得できえるまでレベルアップとかが必要になるわけだ。


『リーサさんのレベルアップ的なものが、必要になるんだね?』


「はいですニャ。たちあがってよみがえるショウタさん、あらたなチカラで強くなるリーサ、お互いうれしい”カッチカチ”の関係ニャの。えーと、カッチカチ~は、はい、あニャた勝ち、ミィも勝ち。どっちも勝ちーってので」


 ステージ上では復活したオレがなんか踊りだしている~のだろうか、くるくる回りながら動いていても、いまいち感情が伝わってくる感じではない。


『あぁ、ウィンーウィンってこと?』


 周りで演出を担当していた他のネコサンたちは拍手でそれを見守っている。


「それニャ!だから、いっしょにがんばるニャ。ミィのこと、手伝ってほしいニャ。」


 膝の上から腕を前に掲げ”お願い”のポーズをとっている。


(これ、断ったらそのまま”ゲーム終了”になるやつだよな?)


『わかりました。リーサさん、なにとぞよろしくお願いします。』


「もう、まだよそよそしいんだニャ。しばらくは大事な”パートニャー”だから、サマ抜き、サン抜きでおねがいニャ。こっちもショウってぶ、アウトノックかニャ?」


『うんうんわかった。だいじょぶだよ。よろしくねリーサ!』


 こちらは踊りだすわけにもいかないが、気持ちはだいじ、舞台の全員ダンスを尻目に、リーサともっかい握手をした。

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