005話 ラスイチとイマダケは、乗ってこそのものさ
食事のあと、モールの一角にある家電量販店に向かった。
必要最低限のものは、家からの持ち出しと引っ越し初日にの買い出しでほぼ揃った。
キッチン用品売り場の前のほう、電気ケトルを安いほうから順にみてゆく。
『(お湯わかすだけなんだから、鍋でも使うから、無理して買わなくてもいいよ)』
と強がったものの、あんま長持ちしなかった、まぁ仕方がないね。
そのままお会計にと、箱を抱えてレジへ向かったが、つい足が止まる。
カウンターの横に”スニャッチ在庫あります”という紙が貼られていた。
『あのー、スニャッチって?』
おじちゃん呼びをしたらへこみそうな、若めの店員におずおずときいてみる。
「あ、はい!今回入荷分はその写真の色のカラフルモデル、残り一台ですねー」
残り一台という言葉に、心がざわつきはじめる。
『定期的に入荷するようになったの?』
いやおちつけ、普通に入荷するようになっているなら、あせる必要はない。
「入荷数、入荷日も不定なもので次の予定はお答えできません。予約や取り置きもできない状態ですねー」
(どうする?大学生活が始まって、バイトとかもして余裕が出たらいずれ買いたいなぁと思っていたが、それも”ブツが普通に売ってること”前提のハナシ、今だったらケトルを後回しにすれば、ソフトの一本もつけて買えなくはない)
こちらの葛藤は察しているようで、少し間をおいてから店員が声をかけてきた。
「いかがでしょう、買っちゃいますかねー」
われにかえり、気づけば自分の後ろに二・三の客が並びはじめていた。
(ラスイチとイマダケは、乗ってこそのものさ!)
「え、えーとですね。そしたら~」
電気ケトルはスニャッチ本体とソフト、いくつかの周辺機器に姿を変えた。
さすがに予算オーバーもいいところで、今日のお買い物はこれで終了となった。
(ひ、必要だと思ったから!流行りのゲームとかたしなむのも大事だから!!)
せいいっぱい自分に言い聞かせて足早にモールを後にする。
(・・・ラスイチ、イマダケと購入したした家庭用ゲーム機、ま乗った先にあったのはシニガミサンのもとに向かう十三階段だったわけデスが・・・)
休日、地方の路線、都市部へ向かうのとは逆方向、モールの帰路はそんな感じだ。
利用者も少なく、一人でシートを占有できるくらいにはすいていた。
モール自体駅からは距離が離れていたし、車で行く人が大半なのだろう。
いつかそうしたい、ひとまず免許の取得まではできているが、その先はまだ無理だ。
車もこちらでの生活では、あれば便利というより、必須レベルな気はしている。
ただまぁ、今はさらなる出費のことを考えるのは精神衛生上よくない。
おもむろに袋からゲームソフトのパッケージを取り出し、ビニールをはがす。
うっきうきの気分でパッケージを開たが、内側は最低限の写真と説明があるだけだ。
攻略本は買わなかったし、サイトでチェックもやりすぎるとネタバレにぶちあたる。
(今は説明書とかは入ってないものなんだなあ、ちょっとがっかり)
パッケージをそのまま袋に戻し、なんとなく外の景色と、電車内をながめる。
くいいるようにスマホを凝視し、フリック操作を繰り返す中年女性。
壁にもたれながらスニャッチをプレイしている男子高校生。
高校生のほうはパッケージをとりだしたあたりまででこちらを見ていたな。
あとは、こちらより少し年上くらいの女性が大きめのタブレット凝視している。
(あニャたたちは、ちょっとでも時間があると、スマホだタブレットだ携帯ゲーム機だとほんとうにせわしニャい、もうこのスキモノさんニャんだから・・・)
そして、駅から商店街の半ばにあるサイクルポート、自転車の返却場所へむかった。
着いた頃には夕方にさしかかっていた、何時くらいだったろう。
袋を前に抱え、商店街から外れた路地を、気持ち足早に進む。
家の間隔が広いこの辺は、思ったより車の通りが多く、スピードも出ている。
歩道も片側にしかなく、消えかかった白線でかろうじてわかるような細い道だ。
(このへん、車通りが多いわりに歩道がサポート足りずで、よくニャいよね。大学以外のガッコの通学路にもなってるのにィ・・・)
回想にいちいちうるさいあいの手が入っていたが、だいぶ思い出してきた。
モールに買い物にいって、衝動買いでスニャッチを買ったんだった。
そのあとは?えぇと、あれ??親との会話や買い物の風景は鮮明に思い出せるのに。
こちらに帰ったあたりから、記憶の解像度が落ちている気がする。
おおきめの買い物をして舞い上がってたからかな?
(そのあと?アパートに帰ってさっそくスニャッチの初期設定とかアップデートとかをして、プレイ開始数分でオブツダンですニャ・・・)
リーサにくるまれながら、今日一日を思い出したが、こんなもんだったか。
まぁ、どちらにしても必要なのはこれからのことは、聞くしかないな。