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004話 二〇二二年〇四月〇二日

 二〇二二年〇四月〇二日、一人暮らし用のワンルームでオレは大人になった。


 今さらケーキにローソクを立ててみんなに歌ってもらうようなものではない。


 こんなの入力フォームに記入する年齢が一カウントアップされただけ。


 ”一人暮らしはじめたて”の特別感はあっても、変わった自覚なんかない。


 親は”まだまだ子供だ”と釘をさし、酒やタバコだってアンロックされない。


 そのくせ法に触れるようなことをすればしっかり実名報道するという。


(もちろんそんな、反社会的な行動をとるつもりはないけどさ)


 ただよろこべる要素がなく、めんどうが増えただけ、そんな思いしかなかった。




 朝の早い時間、目覚まし代わりに携帯がなり、そのまま家族と話をした。


 ひとしきり祝いの言葉をもらい、誕生祝いのセレモニーはあっさりめで終わる。


 最後に母親から、仕送りとは別にお金を振り込んどいたからと伝えられる。


 みんなで旅行とか、食事にって状態でもないし、その分をってことらしい。


 必要に思ったのに使いなさいという言葉はただひたすらありがたかった。


(・・・そう、今日はあニャたのおたんじょうびだったのニャ・・・)




 今日は最寄り、といっても小一時間はかかるモールへ買い物に行くことにした。


 未開封の段ボールは多いけど、今日くらいはいいだろう、買うものもあるし。


 レンタルサイクルと電車、バスを使って、モールへ到着したのは十一時くらい。


 さっそくATMへ駆け込み、母からの”おいわい”を受け取る。


(・・・母がお祝いにと、多めに渡してくれた三万円、これが彼の人生を大きく狂わせることにニャるとは・・・)




 せっかくだから”フードコート”じゃなく、気になってた”レストラン”へ。


 引っ越し初日に来たときは”こんでるからやめよう”となった肉料理の店だ。


 開店前だがすでに列ができている。まぁこの数ならなんとか入れるだろう。


 お互い顔もあわせずスマホの画面を食い入るように見ながらぽちぽちする熟年夫婦。


 座っている時間も惜しんで膝の上のノートPCをカタカタうちこむスーツ姿の女性。


 席を詰めなきゃならないのに気づかないくらい”スニャッチ”に集中している子供。


 親のほうは親のほうで、スマホの画面に向かって何かを見ているようだ。


 ついつい子供が何のゲームをやっているか、気になってしまう。




 ”ニャンテンドースニャッチ”、老舗の家庭用ゲーム機会社の最新機種。


 ステイホームだソーシャルディスタンスだの特需でシェアを拡大したゲーム機。


 受験中に買ったら危険な品だが、そもそも買おうとしても買えない品だった。


 地元では売切れ表示か、プレミア価格になったモノしか見られずじまいだったな。


 スペックはそれなりではあるものの、携帯機としての使い方もできたり、昨今の


「ゲームもなんか、メディアの一ジャンルとして、あっていいんじゃないの?どうせみんな遊んでるし、こういうのみんな好きでしょ?」


的な風潮を広げるのに、おおいに貢献した存在だと思う。


 七百万本もゆるふわスローライフゲームが売れれば、その奇妙な世界観も知られる。


 大乱闘のドタバタバトル、ゴーカートの乱戦レース、水鉄砲の撃ち合い陣取り合戦。


 まとまった数が世間に広まって話題になってくると、無視するほうが難しい。


(しょせん”地道に小物を拾い集めて借金を返す、遠大な借金返済ゲーム”だ)


 と思い、自分は好きになれないといっても、知らないままでもいられない。


 気晴らしで海に行ったとき、貝殻を拾っては上にかかげている友人がいたっけ。


 ”そういうシーンがある”くらいは知っておくにこしたことはない。


 そうでなくても大変な社会を生きるのだから、娯楽のチャンネルは多いのがいい。




 あれこれ思案している間に店は開き、ほどなく中に案内された。


 おひとりさまが座るのはカウンターの一番奥、昼にここを使う客は少ない。


 たぶん夜はバーとかバル的な面が強くなるのだろう。


 店員がラミネートされたボードの何枚かを引っこ抜き、席においてくれる。


「うーん、じゃこれ!ライスでお願いします。飲み物はアイスコーヒー、食後で」


 開店直後というのにだいぶ席が埋まっているし、雰囲気も悪くない。


 家族が来た時にご招待できればと考えたが、料金を確認してちょっとたじろぐ。


 親が来た時に招待できればよいが、値段含めちょっとハードルが高いな。


 そうこうしてる間に肉が焼ける音と香りが一層強くなり、料理が運ばれてきた。


 鉄板の上で、見本よりちょっとうすっぺらく感じる肉がじゅうじゅう音を立てる。


 横にはマッシュポテトやにんじんグラッセ、ほうれんそうソテーが添えてある。


 ここ数日の質素と粗末の境をいったりきたりの食事とは比べるべくもない。


 まぁ、今日くらいはいいよねと言い聞かせ、鉄板の上の肉に挑むことにした。


(・・・このランチAセット、ライス・アイスコーヒー付が”さいごのしょくじ”になることもつゆしらず、彼は”あ、このソースうんミャい”とかのんきに思いながら、食事を楽しむんだニャ・・・)


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