表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

002話 あーくーしゅ!からお願いしたいニャ!!

 視界は相変わらず真っ白で何も見えない。気まずい沈黙は、時が止まったようだ。


 この声の主はなにものか、天からの使い?地獄の水先案内人??ただのオバケ???


 頭の中でそれっぽいイメージがかわるがわる自己紹介をくりかえしている。


「あ、ハイえーと、まずは自己紹介だニャ」


 ぷつんと音がして、真っ白だった景色が切り替わった。


 真っ暗?いや、全体的に暗くて視界も悪いが、周辺の景色がなんとか見える。


 壁際に設置された机とパソコン、その横にまだたくさん山積みになっている段ボール。

 脱いで床に放った上着と、開封し、壁際に転がったままになっているゲーム機の箱。


 大学通学のために引っ越して、まだ1週間くらい、他でもない自分の部屋だ。


 視界が暗い、というか電気がついていないのは、ゲームプレイ前に


(VRゲームは雰囲気と臨場感が大事よね)


とかのたまいながら、自分で消したからに他ならない。はいわたしがやりました。


 プレイを始めたのはたしか夕方五時前だったが、今は何時くらいなのだろう。




(ピンポーン)


 そのときふいにチャイムが鳴った。来客?もしかしてさっきまでの声の主??


(かちゃり・・・きぃ・・・)


 戸惑っている間に、カギが解除される音、ドアがゆっくりと開けられる音がした。


 だいぶ聞きなれてきた、ちょっとサビが混じったドアの音、鍵をかけ忘れていた?


 のろのろと身体の向きをかえ、ドアのほうをのぞきこんでみる。


 玄関のところで何か、白いものがうごめいていのがかろうじて見えた。


 人にしては小さいなにかが、がさがさと動いている。


 どうやら白い布のかたまりのようで、ゆれるように動き、上に突起がついている。


(かたん・・・かちゃり・・・)


 ドアとカギが閉められた。ここ数日でようやく聞き慣れてきた音だ。


 もっとも、自分以外が発していると、そこはかとない不気味さがただよってくる。


(やっぱりカギ、かけてたよな。チェーンを含めてかけてたはずなのに!)


 そして白い布の塊は、ゆらゆらと小刻みに動いていたのを止める。


 次の瞬間、”それ”はとつぜん飛び上がり、軽やかな回転ジャンプで宙を舞う。


(!!)


 ふわりと布特有の柔らかい軌跡をえがき、座った自分と天井の間を優雅に飛翔する。


 図上を飛び越えられたが、だぶついた布のたわみで”中身”はいっさい見えない。


 そして”それ”は目の前にしゅたっと見事な着地を決めた。


「はじめミャして!」




 相変わらず視界は悪いが、距離が近づいたことで相手の姿がしっかりと見える。


「お、オバケ!?」


 思わずでた第一声がそれ、そうとしか言いようのない外見をしていた。


 とりあえず白い布を頭からかぶった姿は、天使や死神とは違うように見える。


 どちらかといえば、ハロウィンでみかける”ゴーストのコスプレ衣装”が近い。


 頭から布をすっぽりかぶっているから、体格や重量感がよくわからない。


 ただ身長はあぐらをかいて座しているこちらより、さらに小さい。


『(コスプレ衣装なら瞳や口が穴になっていたり、メッシュになっているものだ)』


 そう思って凝視した顔の部分は、見ても表情がうかがえるようなものではなかった。


 顔には分厚いフェルト地のまんまる瞳とゆるやかなカーブをえがく鼻が貼ってある。


 その両横に三本ずつの線で描かれたひげまで貼られている。


 まるでファンシーグッズでのようなゆるいネコの顔が、雑に貼りつき動いていた。


 その頭の上には真っ白なネコミミがふたつ、ぴこぴこと動いている。


「オバケじゃニャいよ!キャットナネコサンダヨ!!」


 自称”キャットナネコサン”はゆれながら、フェルトの瞳で見つめている。


 言葉にニャとかが混じってたのは、なるほどネコサンだからか。


 じゃしょうがない、いやしょうがニャいとでもいったほうがよいのかな。


 でもこのネコサン、そもそも生き物なのか、足があるのか。


 白布の向こう側をばっとめくってしまいたい衝動をおさえつつ、様子をうかがう。


『あー、ネコサンですか、そうですか』


 とまどいのあまり返答が棒読みになったが、まずは相手の出方をうかがう。


「まずは、あいさつからはじめニャいと!ほらほら声だして!!」


 フェルトでできた顔の下のあたりから2本のでっぱりがとびでてきた。


 耳よりはちょっと長めで、ひょこひょこ動いているのは、腕?だろうか。


『あ、は、はじめまして』


 なんとか軽く会釈をすると、フェルトを貼り付けた顔が、にっこり笑顔にかわる。


「ミィはあニャたのソールを救うネコサン、リーサといいミャす。ヨロシクデス!」


 手の部分がのびて、質感を無視した形で片手?が触手のように伸びてきた。


 思わずのけぞりそうになるが、伸びてきたそれは目の前五十センチほどで止まる。


 その先端にはぷにっぷにの肉球がついた手が、ふわふわただよっている。


(!?)


 こちらが戸惑っている間に、それは形をぐにゃぐにゃともう一度変える。


「えーと、今はこの形ニャんだっけ?まずはあーくーしゅ!からお願いしたいニャ!」


(あ、握手かそうか。ま、大事デスヨネ)


 右手をおずおずと差し出すと、ネコサンの食い気味な触手もとい手が飛んできた。


 そのまま肘合わせの”令和スタイル握手”をする。


 ふれた白布の感触はひんやりしていて、なんかぺたぺたしていた。


 次の瞬間、肘から先のかたちをしていたモノが、急に動きを見せる。


 人の腕ではありえないような伸び方と速さで、こちらの腕にぐるぐるまきつく。


 がっちりホールド状態でぶんぶんと3回ほど腕を振り回された。そして


「よろしくお願いしミャす!」


 ”リーサ”と名乗るそいつは、フェルトの笑顔をキめてそういった。


 これはもうネコサンやオバケというより、軟体生物や宇宙人の触手みたいだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ