017話 この世界に迫っている脅威について
『みんニャ?』
「はい、せっかく練習してたから、見てあげてほしいニャ」
リーサが片手をほいとあげると、テーブルの上に小箱がせりあがってくる。また例の”こねこのえほんげきじょう”ってことか。
『(そういやこいつの原理とか仕組みはどうなってるのか、聞き忘れてたな)』
とノートに書く間もなく劇場は部屋の真ん中、テーブルの上に設置され、たんたんと幕があがってくる。その向こうからネコサンたちがさっそうと飛び出してきた。見れなかった三つ目の演目、しっかり見てあげないとだめってわけだ。
「では”この世界に迫っている脅威について”をお話しましょう」
リーサのちっこい版がステージで説明をはじめる。”めくり”には、”この世界に迫っている脅威”とある。
「昨日話しそびれたけれど、あニャたのいる三次元世界は、あニャたがプレイしていたゲームの世界、二次元世界の脅威にさらされているんだニャ」
昨日たたかった相手もそんな感じの存在だっていってたな。
『二次元?やってたゲームは立体的に表示されてたけど?三次元じゃないの??』
いちおうあれは”スリーディー”のゲームだったよな。今はそっちのほうが多いのでは?
「立体に見えるよう書いてるだけで、映すディスプレイの向こう側はぺらっぺらの二次元ニャんです。ほら」
ちびリーサが腕をほいとかざすと舞台の上にプレイしていたゲームの画面が表示された。
「青いお空、崖、下の森、おそらの太陽、立体的に見えるように描いてるけど、ほら、ぺらっぺらの二次元でしょう。三次元は三次元、二次元は二次元。この隔たりは絶対的なものニャんです」
舞台のうえで、表示されたゲームの画面が角度を変えて表示される。確かに横に回転させるとぺらっぺらの二次元で、厚みは一切ない、奥行とかもそうあるように描画しているだけってことか。
「で、あニャたがた三次元世界の人たちはスキモノね。古代から焚火を囲っての語りから、壁画に刻んだ物語、絵本の童話漫画、小説、ドラマや映画、ゲーム、たっくさんの物語を生み出し、愛でながら生きてるんだニャ」
舞台の上で、ちびリーサが歩くように足踏みして、歩いているように見せると、その周囲では、ほかのネコサンたちが釣り竿で周りにいろいろな”物語のアイテム”を吊っている。
記憶がギリギリあるくらいの幼少時に何度も読んだお気に入りの絵本
学校で流行り、みんなで回し読みした漫画雑誌
感想文を書くために読んで、気に入ってそのまま続編や派生作も読破した文庫本
録画して何度も見返した、ドラマ~のポスター
テレビで放送されるたびについ見てしまう映画のDVDパッケージ
そして昔のカートリッジ型のソフトからディスク媒体を含めたゲームの数々
しっかり”突然死の原因となったゲームのパッケージ”も含まれているな
『四次元世界、トリートたちの世界には、ゲームも漫画も映画もないの?』
「あるけど、ここまでたくさん作ったりはしニャいの。ほんとにもう、スキモノさんね~」
(確かに、作品の数は多すぎるのかもな)
見たい作品が多すぎる。これは高校の頃に友人と話していたときに出た言葉だ。
はやりの作品をおさえておくことも、大学に行く前から”履修”なんていってたっけな。
「で、この”たくさんのものがたり”がオエーなことになってるの」
『オエー?あ、まずいってことかな?』
「それニャ」
『物語が増えすぎるとまずい?たしかに消化しきれない作品に追われ気味だけど、多様性とか??選択肢が多いのはいいんじゃないの???』
「いろいろ説明することあるけど、大変ニャの」
ステージでは、いろいろな”物語”のイメージが浮かんで消えてを繰り返している。というかたくさんのネコサンがいろいろな作品のイメージを吊り下げて運んでいる。
『まぁ、数が多すぎるってのは、あるかもしれないなぁ』
あ、あの本は親戚から勧められた名作だけど、結局読んでないやつだ。そこの漫画は友人から勧められたが結局流し読みしただけだったな。あのゲームはセールで買ったけど開封もしてないやつだ。あのコミックス、うっかり同じ巻を二冊買ってしまったんだっけ。表示している作品はたぶん私の記憶とかから選出しているっぽいが、ところどころ”触れていない作品”が混じっていてちょっと悪い気がしてくる。
「ことばにはちからが宿る、コトダマとかパワーワードとか、いいかたはいろいろ、そのチカラはつよいし、上位世界のコトバってのは、下位世界にはゼッタイ的なものになっちゃうの」
ステージのうえで、ちびリーサが芝居がかった口調で説明を始める。
「だから三次元、あニャたの世界で語られた物語のコトバは、二次元の世界にとっては絶対的な強制力をも持ってしまうんだニャ」
『?』
「例えば先っき、あニャたがゲームをプレイしてたのだと、三次元ではショウが部屋で一人でゲームの物語を楽しんでいるだけ~にゃんだけど」
ステージ前面に元凶となったゲームのパッケージがふたたび表示される。繰り返されると結構心にクるが、ポーカーフェースをなんとかたもつ。宙にういたままケースは開き、取り出されたカートリッジが飛んできたスニャッチの本体にささる。電源がオンになると、ステージの中央に投影されるかたちで、拡大された画面が表示される。
「このとき二次元世界では、ぽちっと電源つけたのにあわせて、剣と魔法のファンタジー世界が創造されミャす。スローモーションでみてみミャしょう」
一度電源が落とされ、再びオンにされる。すると、ステージ中央の画面には、突然宇宙創世を思わせる大きな爆発の映像が映っている。中心に大渦が発生し、うずまくチリが集まり、少しずつ大きな塊になってくる。その間も、外から無数の隕石が衝突したり、塊の表面が青くなったり緑色になる。時に茶色や黒といった色を変えながら少しずつ塊は形をかえてゆく。やがてまるい、青と緑に覆われた、地球に似た惑星へとかわっていった。
「はいちょっとこの辺拡大しミャす」
ステージ上のちびリーサが腕を伸ばして、惑星の一部をつまんでひろげる。一回、二回、三回と繰り返すたびに表示される景色は拡大されてゆく。七回か八回ほど繰り返したところでゲームの画面と同じ、サイズに拡大された。
『あの、だいぶ世界観、変わってません?』
生えているシダ系の原始植物、空を飛んでいる生き物は、鳥とは明らかに造形が違っている。世界観というより、時代が違っている。違う、こんなの剣と魔法の冒険ファンタジーじゃない。
「まだもうちょっとまつニャ。ニャうローディングだニャ」




