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011話 撃ってOKです!

 目の前の景色は、そうとう奇妙なものに見えた。コンビニの裏側、ゴミや廃棄品を入れておく倉庫の前についたが、ドアの状態が明らかにおかしい。硬い金属でできているはずのドアが、深夜の冷たい風にあたってはためいている。まるでクレヨンで子供が落書きしたようなドアの絵が垂れ下がっていて、深夜の風に吹かれ、のれんのようにペラペラとはためいている。


『な、なんだよこれ!?』


 思わず声が出てしまった。


「(二次元の存在が三次元に襲撃をするときは、こんなふうに三次元側を”ぺらぺらの二次元状態”にして、そこを足がかりに侵入してきます。セキュリティホールとか、バックドアとか、ワルいヤツの手口とだいたいおんなじニャのです)」


『じゃあ、このドアをこわせば侵入を防げるとか!?』


 コントローラを持ち上げて狙いをつけようとした手に、ぷにっとした感触でやんわりと押さえつけられた感触がした。


「(それだと逃げられて、また探すところからやり直しニャになっちゃうの。ほら、そのドアノブのところをよーく見てほしいニャ)」


 いわれてじっと見ると、ペラペラしたドアの中央には、なんか赤黒いシミのようなものがこびりついている。これは絵ではないらしく、震えながら動いている。どくどくと脈打つ様子は心臓の鼓動のようにも見える。


『(そうか、こいつを倒せばよいんだね。じゃあ!)』


 再度あげようとした腕が押さえつけられる。心なしかさっきより圧が強い。”敵”っていってたし、どうみてもいいもんにみえないけど、まだなんかあるの?


「(もう少しだけお待ちください。相手がこちら側に来た瞬間を狙って撃退します。少し離れて、コントローラを構えてカウントダウンニャ!)」


 画面端の時計のカウントは、ちょうど残り二分をきったところだ。


「カウントがゼロになったら、トリガーをひいてバンバン撃ってください。弾丸に含まれたユーコーセーブン的なものが、この状態を正しい状態になおしてくれます!」


 シミは脈打つたびに少しずつ大きくなり、影が伸びるようにドアの持ち手へ近づいてくる。こころなしかそのかたちは”人が手を伸ばそうとしている様子”にも見える。


「この敵は、二次元世界のゆがみから生み出され、今まさに三次元世界への移動ができるところまで独自の進化をとげた個体になります。当然ほうっておけば三次元世界に甚大な被害を及ぼすことになります。とりあえず三次元世界への移動が終わったら、一直線にコンビニ店員さんのところへ向かってゆくので、被害が出る前にセンメツしてください」


 三メートルほど下がってコントローラを構えると、画面の中に照準が浮かんだ。そのままうしろにあとずさると、十メートルほどでカーソルの形が移動モードに変わる。


「(それだと離れすぎニャ。銃っていっても離れすぎるとダメなんだニャ)」


 あわててとまるとカーソルの形が点滅するように切り替わる。


『(思ったより射程距離が短いね、水鉄砲でももう少し遠くを狙えるんじゃない?)』


 調整し、ギリギリ射程距離に入るところで、ゆれるドアのシミに照準をあわせる。座標と位置をあわせている間に時計表示がカウントダウンにはいった。


 十・・・九・・・八・・・七・・・六・・・


 持ち手の部分にまでのびたシミがうごめき、ドアの絵が動き出す。厚みのないクレヨン画の扉に”手”が届き、横に少しずつスライドさせてゆく。奥の景色が見えてくるが、真っ黒な空間が広がっていて、何も見えない。


 三・・・二・・・


 びちゃびちゃと、不快でべたついた音がした次の瞬間、中からなにかが飛び出してきた。トリガーをひきながら思わずあとずさったところに、赤黒い塊が腕のように伸びてくる。次の瞬間、画面が赤黒く点滅し、映っている景色にひび割れがはしった。


『(やられた!?)』


 思わずひるんだが、こちらの射撃もあたったらしく、相手の動きも止まっている。目の前すぐのところで、赤黒い塊がびちゃびちゃと音を立てながらうごめいている。伸ばした腕のような部分は真ん中に戻ってゆき、全体が少しずつ上に伸び始めている。


「う、撃ってOKです!」


 トリガーをひくと、先ほどは見えていなかったが、赤黒い塊にペイント弾のような白いものが付着した。こびりついた白いものは、ぷるっと震えたあと姿カタチを変えてゆく。昔の漫画で見るような“バッテンがたのばんそうこう“のかたちだ。


「さあ、もっと撃ち続けて!もっとこう、全体にぶっかけるくらいの感覚で!!」


 つまりはよくあるガンシューティングってわけだ。なんでばんそうこうかはわからないが、血とかがバンバン出るよりはいいだろう。はられたばんそうこうも少し経つと消えていってしまうから、全体にまぶすように何度も撃ち続けると、ばんそうこうは増えては消えてを繰り返し、赤黒いかたまりをすこしずつ小さくしてゆく。


『(これ、弾薬の補充は?)』


 いわれるままにバンバン撃っているが、無限に撃てるほど都合がいいものでもないだろう。画面のゲージの一つが少しずつ減少してきている。


「(時間で補充されますが、弾ぎれまで使いきると、クールダウンに長めの時間がかかるようになっちゃう!)」


『(とりあえず大丈夫そうだから、どんどんぶっぱなすよ!)』


 ばんそこうが貼りついて、消えてゆくたびにかたまりは小さくなってゆく。やがてこぼしたインクのようなへいたんな姿になり、さらに小さくなって、最後のひとかけら、指先ほどの大きさの小さなシミにばんそうこうがはりついて消えたとき、赤黒いかたまりの姿は完全に見えなくなった。念のため撃ち続けているが、標的がなくなった弾丸は、地面にあたりはするが、貼りついたりばんそうこうのかたちにはならなくなっている。


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