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転生したら、平民だった俺が超セレブになっていました。

タイトル変更しました。

旧タイトル

「いくは易し、極楽浄土」

第二章 二度目の誕生


真っ暗闇の中を意識だけが渦を巻いて彷徨っている。どうやら、アラサーの、タバコと不摂生でうす汚れた、下腹のだらしない身体とはおさらばしたようだ。


(あれ? あれれれ? そういえば菩薩、記憶リセット忘れてないか? あいつ、アホやな~ 

て、ことは……へっへっへっ。次はもらったな。

 所詮、あの世は善悪のポイント制。人に優しく、ごみ拾って、たまに募金して、そんで、前世でやっちまった悪さ…というほどの悪じゃない気もするが、そういうこと一切しなければ、確実に極楽浄土永久ビザでしょう。極みつきで遺産(あるかどうかは別として)全額寄付で万全)


 どれくらいの時間この暗闇を漂っていたのかわからぬが、遥か遠くにうっすらと光が差し始めた。その光は時折、強烈な閃光となりこちらを突き刺す。やがて意識は固体の中に収まり、光の方へと導かれて行く。宙に浮いているかのような心地よさは、次第に窮屈な息苦しさに変わり、四方八方から締め付けられる感覚が数時間続いている。


 まさか、地獄に落とされたのだろうか。締め付け地獄。小学校の図書室で見た地獄図鑑には載ってなかったが、進化、変革の時代を経て新たに採用された刑かもしれない。


 締め付け地獄では、ぬるぬるした温水や真っ赤な血を被り、不快極まりない。


 やがて、光が差し込む天井から伸び出た、巨大な何かに頭をつかまれ引っ張り地獄を経て、ついに窮屈で真っ暗な地獄から開放された。



『スポン』


 ―都内産婦人科医院―

 

「オンギャー」


「奥様!おめでとうございます。とても元気な男の子ですわ」


 瞼が開かず、何も見えないが、どうやら新たな生を受けたようだ。バタバタと湯船で洗われ、身体検査をされて、大きなタオルに包まれて、あちこちにお披露目をされている。


「旦那様に似てとても美男子ですわ」


(嘘言って。産まれて数十分の赤ん坊は高崎山で黄色いリュックサック背負った子供の俺を容赦なく襲ったあいつみたいな顔だよ)


「うん。賢そうな目をしている。立派な後継者になってくれるだろう」


(だからさ、目は開いてないって。それに残念ながら前世では中堅の大学受験で一浪していますので期待しないでちょうだい)


 大奥様のお見立てどおり、健康で丈夫そうな男児です」


「あの娘はお尻が大きくて腰の肉付きがお産向きだったのよ」


(なんだか、将軍のお世継ぎ出産に翻弄する大奥での会話みたいだな。

 って、そう言えばさっきから、奥様だの旦那様だの跡取りだの、超お金持ち用語頻出。

 これって、もしや。

 『っしゃー』

 頭のなかで。握り拳をぐっと天に突き上げ豪快なガッツポーズを決める。ちなみに、拳を突き上げるガッツポーズは「天昇」を意味し、あの著名漫画の一コマに触発されている。

 玉の輿。いや玉の輿とは言わないだろうけど、一発逆転。前世で憧れ続けた、『実家が超金持ち』の生き天国。

 それにしても、腹が減ったし、眠い)



辺分島(へぶんしま)診療所―


「オギャーオンギャー」


「産まれた! 産まれたばい」


「元気よか女の子たい」


 元、ブレイクリー美麗は九州に位置する周囲十kmに満たない人口約百七十名の小さな島に生を受けた。


 診療所の簡易ベッドの周りで、もんぺ姿に麦藁帽子の女たちや、つなぎに長靴を履いた男たちが囲んで、日に焼けた顔を丸めた紙くずのようにしわくちゃにして覗き込んでいる。


「かわいかねぇ。大事な宝を授かったけん、今晩は辺分島神社にお参りして寄り合いや」


「そぎゃんことなら、婦人会で料理ばこしらえないかん。公民会に集合たい」


 赤子の誕生はこの島において、一大イベントらしく、代わる代わる産婦を労いに来る島民で診療所は盆正月のごとく賑わっていた。



 

―善財家―

 

 命名 善財 良 一(りょういち)


 江戸時代に織物問屋を創業し、現在では業界シェア率七割超を誇る大手繊維会社の経営者一族であり、善財ホールディングスを操る善財家には、ひっきりなしに宅配業者が訪れている。長男誕生のお祝いの品が続々と届いているのだ。国内一の自動車メーカーの重役、食品メーカーの取締役社長など経済界の重鎮から、大臣を務めたこともある大物政治家まで、その名は輝かしいものばかり。ブレイクリー社のCEOもその一つだ。  


 取扱注意のシールが貼られた高価な品々は開封されることなく広い玄関に山積みされたままである。


「坊ちゃま。ミルクの時間ですよ~。」


 良一を抱き上げるのは今日も家政婦の明美だ。


 良一はまだ母親に抱かれていない。


 母親はどんな女性なのだろう。名家の総帥に見初められたのだ、美人に違いない。


(そういえば、母ちゃん、俺が死んでからどうしているだろう? ろくに働かずギャンブルで借金こしらえた父ちゃんと別れてから、ずっと二人だったからな。落ち込んでいるだろうな。まさか、後追いなんて馬鹿なことしてねえだろうな。それに、多恵子、結婚を迫られるのが面倒くさくてライン無視したままだ。葬式で泣いてたな)


 良一は前世の記憶に支配され、頭の中の引き出しを上手く使い分けることができるのか不安になった。二つの人生を記憶するって科学的に可能なのか?


 三人の子持ちの明美の腕はソフトグミのようにプヨプヨで聖護院大根くらい太い。それを枕に毎回同じ味の甘い粉ミルクを義務的に与えられると、八割方飲んだところで睡魔に強襲されるのだ。


 


―山田家―

 

 命名 山田 澄子(すみこ)

 

山田家は先祖代々漁師の家系。澄子の祖父、父は延縄漁で早朝から船に乗り、祖母、母も海女である。その上、昼間は田んぼも畑も耕す兼業農家とあって、働き詰めの毎日だ。働き方改革はホワイトカラーだけの絵空事で、労働者の約半数はその意味を知らないだろう。


 今日も、澄子は畑仕事に精を出す母の(たくま)しい背中に背負われている。


(だからさぁ。紫外線の怖さ知ってる?このままじゃ私の肌は十代でボロボロよ。あなた化粧水すらろくに使わないじゃない。採った野菜を埋めている泥みたいなポソポソしたもので顔洗ってるし)


「陽子ちゃ~ん、赤子は元気ね?」


 農道から近所の住人が声を掛ける。


「元気が良すぎて、せわしかよ。」


「いつでん、預かっちゃるよ。みんな澄子が可愛いで仕方ないっちゃけん。」


「ばってん、爺ちゃん婆ちゃんが許さんたい。なんせうちら夫婦より澄子にメロメロやけんね」


 澄子は地域の全住人から愛され、見守られていた。前世で使用人やボディガードに向けられた監視の目ではなく、温かく優しい目に心がエネルギーで満たされる感覚を知った。





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[良い点] セレブが田舎娘に…正反対の転生ってあるあるだけど、順応できる?
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