30歳、人生を終える
人生100年時代、と言われるこの頃。
戦国時代では50年らしい。それくらいが丁度良かった。20年なら生きられるが、70年も生きていける気がしない。
男は人生に絶望して、ある駅まで向かっている。そう、自殺の名所と言われている所に行くのだ。
幼少期から内気な人間であり、今でも自分を演じているようにしかコミュニケーションが取れない。当たり障りのない性格なのだが、深く仲良くなることができないのだ。親友と呼べる人もいなく、人間関係でのトラブルも多かった。
いじめられた悔しさから勉強だけは人並み以上に頑張った。トップクラスの成績を収め有名大学に入学した。
ただ就職活動ではつまづいた。なんとか地方公務員に就職できたが、仕事でも必要なところで相談せず、不必要なところで相談したりと、いわゆる「無能高学歴」としての烙印を押された。
気がつくと30歳になっていた。
仕事はなんとかこなせているが、周りでは結婚や子育ての話が盛り上がっている。疎外感を感じて帰宅した冬の寒い日に、急に身体が動かなくなった。自分は毎日何をしているんだろう。その日から仕事に行けなくなり、休職することになった。
恋人を作ろうと思って頑張ったこともあるが、惨敗続きであった。恋人作りは自分には最も難しいタスクなのだ。今の自分にそれを乗り越える力はなかった。
目的地につき、崖から下を眺める。果たして私は飛び込めるのか。身体は恐怖という感情を起こし、飛び込むのを思い留まらせているようだ。
私はただただ幸せになりたかった。
本当は、友達作りや恋人作りに精を出すべきであったが、傷つくのを恐れて踏み込めなかった。私は頑張る方向を間違えたのだ。
今から頑張るなんて気力は湧いてこない。今更性格など変わりはしない。ずっと苦しむなら、死んでしまった方がマシなのである。
もし自分が動物なら真っ先に喰われていただろう。存外、その方が幸せなのかもしれないな。
自殺の名所で運命の出会い、なんて漫画みたいな展開も起こることはない。
男は1人虚しく、崖から身を投げた。
いや、それも漫画の展開なのである。
実際には男は飛び降りることが出来ないどころか自殺の名所にも行っていない。
今も家に篭り、飛び降り自殺をする事を考えながら、ダラダラと生きているのである。