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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

肉食系彼女。 送り狼にご用心(ホラー)

作者: ゆす

 志茂田レオンは、ホストくずれのやくざである。

 体格が良く端正な顔だちで、髪を茶色に染めている。


 彼の仕事は、お店に来た弱った女を見つけては甘い言葉を囁き、良い気分にさせた後に散々貢がせて、稼げなくなったら躊躇なく捨てることである。


 その夜、レオンが出会った女は、たまたま通りががった公園のベンチに、一人寂しそうに座っていた。


 レオンは、どうしたの?と優しい声で話しかけた。

 もはや、職業病である。

 弱った女を見ると声を掛けずにはいられないのだ。


 その女はレオンを見上げて、月を見ていたの。と答えた。


 レオンは、はっとした。

 まれに見る美しい女だった。

 職業柄、数えきれない程の女を騙してきたレオンから見ても、一二を争うような美女だった。


 スレンダーなのに、胸が大きい。

 EまたはFカップはありそうだ。

 顔立ちはクールな美人顔で、近寄り難いミステリアスな美しさがある。

 腰まである黒髪はさらさらのストレートで、若い女特有の甘くて男を誘う良い香りがした。


 レオンは、言葉巧みに彼女を誘った。

 いつの間にか、仕事ではなく自分の女にしたいと思って、必死になって話しかけた。


 仕方のない人ですね。

 そう言って、レオンの手を取ってくれた時には、天にも登るような気分だった。


 この女のためだったら、やくざと手を切って真っ当に生きても良いと本気で思えた。


「わたし、おなかが空いたわ」

「そうか、何が食べたい?」

「新鮮なお肉が食べたいわ」

「美味い肉を出すお店を知ってる。一緒に行こう」

「本当?嬉しいわ」


 レオンは考えた。

 俺は、良い店を知っている。

 これまで騙してきた女たちも、大喜びで着いて来た高級焼肉店だ。

 この女もきっと気に入るに違いない。


 公園からお店までは少し遠い。

 レオンが、タクシーを呼ぼうと言ったら、月を見ながら歩きたい。とその女は答えた。


 レオンは、ホストクラブに来るような下品な女どもとは違う清楚な女性だ。と思って嬉しくなって一緒に歩いた。


 やがて、街灯の光が届かない公園の暗がりに差し掛かった。

 木々が生い茂り、月は雲に隠れ、周囲は真っ暗でほぼ何も見えなくなった。


「ねぇ。私、もう我慢できないわ」

 そう言って、その女はレオンの手を握った。


「どうしたんだ?暗闇が怖いのか?」

 女が、レオンに抱きついてきた。

 レオンの首に手を回して、胸に弾力のある柔らかい二つのかたまりが押し付けられた。


「あなたが欲しくてたまらくなったの……」

 耳元で、その女が囁いた。


「そうか、どこか二人きりになれるところに行こう」


「いえ、周囲に人は居ない。誰も来ない。もう、ここで構わないわ」

 そう言って、彼女はレオンの耳に噛みついた。


「な、何をする!」

 レオンは、痛みでその女の手を振り払った。


 レオンは、困惑していた。

 わけが判らない。

 どうしてこの女は、俺の耳を噛み千切ったんだ?

 今、何をそんなにも美味しそうに咀嚼しているんだ?


 なぜお前の目は、そんなにも金色なんだ!?


「私、歯ごたえがありそうな、新鮮なお肉が大好きなの」


 くそ。この女は、精神異常者だ。レオンはそう思った。


 レオンは、その女に殴りかかった。

 レオンは、ホストくずれのやくざである。

 体格が良く、運動神経にも自信があった。


 そして、これまでも何人もの女を躊躇なく殴ってきた。


 だが、その女はレオンの拳を受け止めると、脚を払って転倒させた。

 女の細腕とは思えない、強い力で馬乗りになった。


 その体勢は、いつもレオンがやっている事だった。

 だが、レオンが下、彼女が上。上下が逆になっている。


「なんなんだお前は!」

 レオンは、手足が拘束され、まったく動かすことができなくなった。

 泣き喚くことしかできない。


 これまで、無慈悲に組み敷いてきた女たちのように。


「あなたは気付いていないの?あなたの背中には、無数の女の情念がまるで船底の藤壺のようにびっしりと貼り付いている」


「だ、誰かに頼まれたのか!?」

 レオンには、誰かに恨まれるような心当たりがあり過ぎた。


「いいえ」

「俺に、なんのうらみがある?お前、俺に会ったことがあるのか!?」

「いいえ。強いて言うならば、今夜の月が美しすぎたことかしら」


 夜空を覆っていた雲が風に流され、それまで隠されていた満月が現れた。

 月光に照らされ、周囲が明るくなり馬乗りになっていた女の姿が露わになった。


 全身が黒い艶のある獣毛で覆われている。

 ピンと立った耳。金色の瞳。

 長い鼻面と強く頑丈そうな顎。

 鋭利な牙が並んだ、真っ赤な大きな口。


 それは、人と狼めいた獣が混じり合った、美しくも恐ろしい大型肉食獣の姿だった。


「わたし、おなかが空いたわ」

 なぜか、その声だけは全く変わっていなかった。


「や、やめろ、助けてくれ」

 そのようなセリフを、レオンはどこかで聞いたことがあった。


『や、やめてください。酷いことをしないで。助けて……おかあさん』

 レオンは、女たちの声を幻聴した。


 そして、そのとき自分がどのように答えたのかを思い出して絶望した。


「ふふふっ、もう逃がさないわ。骨の髄までしゃぶってあげる」


「たっ、助けて、おがあさn――」



 翌日。

 電機店の街頭に展示されたテレビでは、ある事件が報道されていた。


「――殺人事件が発生しました。被害者は成人男性。『野犬に齧られたような痕跡が複数認められ、遺体の損傷が非常に激しい』という特徴から、先日から話題の連続殺人事件として現在警察では身元の特定を急いでいます。次のニュースです――」

美味い肉が食べたい

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