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夏風の策略  作者: 貴神
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夏風の策略(前編)

ずっと翡翠の貴公子に片想いをしていた蘭の貴婦人が、遂に発動の御話です☆


蘭の貴婦人の想いは、どうなるのか、楽しんで戴けると嬉しいです☆

翡翠ひすいの貴公子の棲む翡翠ひすいの館では、居候が三人に増加していた。


其の顔ぶれはナンパ好きなきんの貴公子と、


長身と云うには余りに巨体な赤毛の男・・・・あかの貴公子、


目の大きな愛らしい少女の様な、だが、


れっきとした成人女性の赤毛の少女・・・・あかの貴婦人。


赤毛の兄妹が来てからと云うもの、翡翠の館は実に賑やかであった。


いや、実際、喋りくさっているのは、赤の貴婦人と金の貴公子なのだが。


だがあかの兄妹も、そう長く此の屋敷に居る訳ではなかった。


此の兄妹には此の兄妹で別の屋敷が用意されており、次の夜会の日から、


二人は自分たちの館に移る事になっていた。


そして其の夜会の少し前の時間に、異種たちは控え室で赤の兄妹と顔合わせをする予定だった。


夜会を間近に、赤の貴婦人は一人興奮していた。


何故なら、多くの同族と出逢うのも夜会に出席するのも、


何もかもが初めての事だったからである。


「夜会ってさぁ!! こう!! 踊ったりするんだよね!!」


翡翠の貴公子の執務室には、三人が溜まって御喋りをしていた。


はっきり言って・・・・五月蝿いのだが。


だが翡翠の貴公子は、あくまで黙々とデスクワークをしている。


金の貴公子はシャンパンの入ったグラスを片手に、長椅子で寛ぎ乍ら言った。


「そそ。貴族って奴は、踊るのが好きなんだよ」


赤の貴婦人は、おお!! と拳を握り締める。


「踊るって、あれだよね。こう、男女が向かい合って、ずんちゃ、ずんちゃ、ってやつ!!」


「そそ。そんな感じ」


赤の貴婦人は、よろりと身体を崩した。


「どうしよう・・・・あたし、そんなの出来ないよ~~!!」


すると金の貴公子が前髪を掻き上げ乍ら言った。


「心配する事ないよ。俺が教えてあげるからさ」


「本当っ?!」


「うんうん」


金の貴公子の気前の良い言葉に、赤の貴婦人は目を輝かせる。


そして赤の貴公子を振り返ると、


「御兄ちゃん!! やったね!!」


大きな兄の手を掴む。


其の様子を見た金の貴公子は思わず首を振った。


「悪いが其処の兄さんは、執事にでも相手をして貰ってくれ・・・・」


何が悲しくて自分より背の大きな男に、ダンスを教えねばならないのか。


だが赤の貴公子も、


「誰も御前などに何かを教わりたいとは思っていない」


冷ややかにそう言うと、翡翠の貴公子に向き直り、


あるじ、暇な時でいいから・・・・」


そう言おうとした赤の貴公子の前に金の貴公子が立ちはだかる。


「判った!! 俺が教えるっ!! 教えてやるっ!! だから其れ以上、言うなあぁっ!!」


「だから御前などには教わりたくないと言っている」


「五月蝿いっ!! 嫌でも俺から習え!!」


そんな金の貴公子と赤の貴公子の遣り取りを聞いているのかいないのか、


漸く翡翠の貴公子が口を開いた。


「言っておくが、俺は今回の夜会には出ない。御前たちが好きに出ればいい」


そう、抑揚の無い声で言う。


今回の夜会は小規模なものであり、しかも仮面舞踏会であった。


異種たちも自由参加になっているのだが、金の貴公子や赤の兄妹はともかく、


翡翠の貴公子などの目立つ髪色の異種は容姿を隠す為、


仮面どころか鬘まで被らねばならなかった。


よもや、そんなものに、翡翠の貴公子が出る筈がないのだ。


「え~~!! 翡翠のにい、出ないのぉ??」


赤の貴婦人が詰まらなそうに唇を尖らせていると、窓辺に一羽の鳥が舞い込んで来た。


橙の・・・・美しい隼だ。


「夏風のねえだ!!」


赤の貴婦人が駆け寄ると、鳥の足の銀のホールから紙を取り出す。


其の途端、すう・・・と鳥が消える。


赤の貴婦人は紙を開くと、内容を読み始めた。


「ええと・・・・今回の夜会に出るのは、しろの貴公子、しろの貴婦人、


春風はるかぜの貴婦人、らんの貴婦人、あと自分・・・・ああ、夏風の姉ね。


だってさ」


そうなると、白銀はくぎんの貴公子と漆黒しっこくの貴公子、


蒼花あおはなの貴婦人は出ない事になる。


だが紙面の下の方に目を走らせると、赤の貴婦人は、にぃ、と笑った。


にやけた顔で翡翠の貴公子の下へ紙を持って行く。


そして「此処、此処」と指を差す。


其の赤の貴婦人が指差す先には、


<翡翠の貴公子、必ず出るべし!!>


と書かれて在った。









当日、夜会の会場で行われた異種同士の挨拶は、実に簡単なものだった。


用意された控え室で赤の兄妹が軽く挨拶をすると、


直ぐに男女は別々にそれぞれの控え室へ戻った。


実に顔の確認をする程度のものであった。


だが異種の貴婦人たちは休憩室に戻るや否や、赤の貴婦人の下へ集まる。


「まあぁ!! 可愛いわっ!! こんな可愛い女の子が同族に加わるだなんて・・・・!!」


春風の貴婦人が手を絡ませていると、白の貴婦人も両手で赤の貴婦人の髪を撫でる。


「本当。凄く嬉しいわ。それに、とても可愛いわね。これから宜しくね」


そんな同族の女たちに、赤の貴婦人は何か言いたそうに黙っている。


更に、のっぽな蘭の貴婦人が前へ出て来ると、


「何か困った事が在ったら、いつでも御姉さんに言いなさいね!!」


そう言って、桃色の瞳でウィンクする。


そうやって三人の貴婦人たちが赤の貴婦人をあやす様にしていると、


「あ。赤の貴婦人、私と変わらない歳だから」


ぼそりと夏風の貴婦人が言った。


暫しの沈黙・・・・。


そして、


「ええぇぇっ!!」


一同は驚愕の声を上げて仰け反った。


「そ・・・そう云えば・・・・夏風の貴婦人と幼馴染みだって・・・・」


失礼だと判りつつも、まじまじと赤の貴婦人を見る女たち。


ううむ・・・・。


どう見ても十四歳程度の少女にしか見えない。


夏風の貴婦人と同じくらいと云う事は、既に百歳は越えているのだ。


信じられない・・・・。


異種と云うのは、高齢者を敬う思考が強い。


其の年齢の分だけ、より豊富な経験を積んでいるとするのである。


故に千年以上も生きているしろの母ことかいの貴婦人には、


一族の皆が頭を下げていた。


因みに快の貴婦人の次に長寿なのは、八百年以上生きている金の貴公子なのだが、


あの男はあの性格のせいか、誰も敬う気がなかった。


しかし何にしろ五十年ばかり生きてきた白の貴婦人と春風の貴婦人、


蘭の貴婦人に至っては、まだ三十年弱で在り、


そんな彼女たちにとって赤の貴婦人が百年以上生きている夏風の貴婦人と幼馴染みとなると、


少々態度を改めないといけないと云うものであった。


白の貴婦人は、ほほほほほ!! と扇子で口許を隠すと、椅子に腰掛ける。


春風の貴婦人は申し訳なさそうに笑顔を作ると、赤の貴婦人を席へと案内する。


しかし蘭の貴婦人は、


「きゃああぁっ!! 凄いわっ!! そう感じさせない、其の雰囲気が凄いっ!!」


一人感心した様にはしゃぐ。


更に蘭の貴婦人は赤の貴婦人のドレスから大きく出た胸元や腕を見ると、


「むむっ!! 此れは・・・・!! 鍛えてあるわねっ!! かなりっ!!」


赤の貴婦人の腕をがしりと掴んだ。


其れに対し赤の貴婦人は嬉しそうに目を輝かせると、


「ええっ!! 判るっ??」


同じく、はしゃいだ顔で蘭の貴婦人を見上げる。


蘭の貴婦人は、うんうんと頷く。


「判る判るっ!! あああっ!! いいなぁ・・・・私も其のくらいになりたいのよね。


やっぱり女はガッツがなきゃ!!」


「そう!! そうだよねっ!! うわああっ!! 後で手合わせして!!」


「私・・・・まだ全然だけど・・・・是非!!」


すっかり意気投合した蘭の貴婦人と赤の貴婦人は其の年齢差は何処へやら、


まるでもう親友にでもなったかの如く、しっかと互いに手を握り合っていた。


確かに二人は夏風の貴婦人を目標に目指す同志で在った。


そんな二人の、ぎゃははは!! と云う品のない笑い声が貴婦人たちの休憩室に響き渡る。


其の様子を紅茶を飲み乍ら眺めて、白の貴婦人は春風の貴婦人にぼそぼそと囁いた。


「あの二人・・・・絶対、御笑いコンビになるわよ」


「ええっ・・・?? まさか!! ・・・・でも・・・・確かに」


今迄、貴婦人の中の御騒がせで、おとぼけ娘は蘭の貴婦人だけであり、


其の威力も小さな台風程度だったのだが、此れは、どうやら、


大型台風二個上陸と云った感じである。


会話は一時、女コンビを中心に広がっていたが、好い加減、


白の貴婦人が普段のペースで話し始めた。


「ところで訊いておきたいのだけど・・・・」


白の貴婦人に見詰められて、赤の貴婦人は紅茶を飲み干すと、何?? と問うた。


「貴女の御兄様、随分と背が御高いのね。どのくらいなのかしら??」


「ええっとねぇ・・・・」


赤の貴婦人はスプーンを咥えて、記憶を手繰り寄せる様に言う。


「確か・・・・最後に測った時から変わってないと思うから、218センチかな??」


「218っ?!」


流石に夏風の貴婦人も目を丸くする。


「其れは高いですわ・・・・」


呟き乍ら口を覆う春風の貴婦人。


「むむむ。道理で主が小さく見える筈だわ」


何処か皆とは違う部分で拳を握り締める蘭の貴婦人。


180センチ代の翡翠の貴公子も決して背が低い訳ではないのだが、


赤の貴公子と比べては小さく見えるのも致し方ないと云うものであった。


「あのね。貴女の御兄様を誘惑してもいいかしら?? 凛々しくて素敵なのですもの」


白の貴婦人はにっこり笑うと、いつものプレイガール振りを覗かせる。


赤の貴婦人は自分のカップに、もう一杯紅茶を注ぐと、


「うん、うん!! いいよん。好きなだけ口説いちゃってね」


げらげらと笑った。


兄想いなのか何なのか、今一判らない妹である。


すると、


「私も口説きたい!!」


蘭の貴婦人が、バン!! とテーブルを叩いた。


「別にいいよ~~」


赤の貴婦人がきょとんとした顔で答えると、蘭の貴婦人は大きく首を横に振った。


「違うわ!! 私が口説きたいのは、主よっ!!」


此の女は・・・・また言うか。


と内心、赤の貴婦人以外の皆が思う。


皆が面倒臭そうに白けていると、


「いいわよ」


なんと事もあろうか、夏風の貴婦人が言った。


「あいつ、どうせ夜会来ても接待はすっぽかすだろうから、強力しちゃる。頑張れっ!!」


にぃ、と悪魔げに夏風の貴婦人が笑った。









夜会、当日。


夏風の貴婦人の命令に会場までは来たものの、


翡翠の貴公子はやはり出席せずに用意された控え室で過ごすつもりでいた。


何が悲しくて鬘と仮面をつけて踊らねばならないのか・・・・。


しかも異種の男子の中で鬘を被らないといけないのは、翡翠の貴公子だけであった。


彼以外の異種の男子は、黒髪、金髪、白髪、赤毛なので、まぁ、


人間にも在る色ゆえに鬘の必要はないのだ。


とにかく翡翠の貴公子は、こう云う御遊戯が嫌いだった。


性格的に。


すると。


夜風を入れるべく開けられた窓から、神々しい橙の鳥が舞い込んで来た。


夏風の貴婦人の羽根の隼である。


足の銀のホールには手紙が入っていた。


手紙を開いてみると、其処には夏風の貴婦人の文字で走り書きされていた。


今から来て欲しいとの事だ。


其の文字の後に、彼女の控え室の番号が書いて在った。


夏風の貴婦人の呼び立てを、翡翠の貴公子が無視する事は出来なかった。


翡翠の貴公子は控え室を出ると、指定された部屋へと向かった。


回廊には夜会参加者の声が響いている。


皆、酒が入り、上機嫌だ。


中には今宵出来たばかりの男女が一緒に個室に入って行く姿も見られた。


翡翠の貴公子は目的の部屋の前まで来ると、ノックをした。


「どうぞ」


其の返事を聞いて、翡翠の貴公子は内心、首を傾げ乍ら部屋へ入った。


今のは夏風の貴婦人の声だったか??


いや、そもそも、あんな言い方を彼女はしない。


翡翠の貴公子が不信な眼差しで部屋を見渡すと、部屋には誰の姿も無かった。


「こっち。こっちよ」


奥の部屋から声がする。


だが、やはり、夏風の貴婦人の声ではない。


夏風の貴婦人の他に誰か居るのだろうか??


翡翠の貴公子が声のする方へ行くと・・・・其処に居たのは夏風の貴婦人ではなく・・・・


夏風の貴婦人では決してなく、


「ああっ!! 主っ!! 逢いたかったわっ!!」


蘭の貴婦人であった。


しかも、どう云う訳なのか、彼女は透け透けのネグリジェを着ていた。


翡翠の貴公子は何も言わずにくるりと踵を返すと、扉の方へと早足で戻る。


「ま、待って!! 待ってぇぇっ!!」


がしりと蘭の貴婦人が翡翠の貴公子の腕を掴んだ。


「・・・・離せ。部屋を間違えた」


翡翠の貴公子は唸る様に言い乍ら、決して蘭の貴婦人を見ようとはしない。


蘭の貴婦人は必死にしがみついた儘、上ずる声で言った。


「間違えてないわ!! 二○五号室でしょう?? 此処よ、此処っ!! 此処が二○五号室っ!!」


「・・・・・」


翡翠の貴公子は暫し黙って考えると、誰の差し金なのか漸く理解した。


そして、


「なら尚の事、帰る」


やはり蘭の貴婦人を見ようとはせず、部屋を出ようとする。


其れを何とか阻止せんと、蘭の貴婦人が扉の前に立ちはだかった。


「矢駄矢駄、行っちゃ矢駄っ!!」


「・・・・退いてくれ」


翡翠の貴公子は静かに唸る。


だが、そんな事に負ける様な蘭の貴婦人ではない。


「ねぇ?? 何で?? 私の事、嫌い??」


「・・・・・」


「嫌いな所は、ちゃんと直すから!! ねっ!! ねぇっ!! 主っ!!」


しいて言えば、こう云う事をする辺りが翡翠の貴公子としては、すこぶる嫌なのだが、


どうやら彼女は、まるで判っていない様である。


「とにかく退いてくれ」


「嫌よ、退かないわっ!!」


蘭の貴婦人は悲劇のヒロインの様に己の両指を絡め、叫んだ。


「私、自分で言うのも何だけど、結構イイ女だと思うの!!」


何を思ったのかネグリジェのリボンを解くと、脱ぎ始める蘭の貴婦人。


翡翠の貴公子は一瞬目を疑ったが、


もう嫌だと言う様に裸の蘭の貴婦人を退かして扉をこじ開ける。


だが蘭の貴婦人は持ち前の根性で翡翠の貴公子の腕にしがみつく。


開け放った扉先で翡翠の貴公子が蘭の貴婦人の手を振り解こうとしていると・・・・


何と云う事か、夜会の客であろう貴婦人たちが廊下を歩いて来たではないか。

御話は、まだ続きます。


あられもない姿で蘭の貴婦人に迫られた翡翠の貴公子は、どうするのか、


続編を御楽しみに☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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