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転生攻略対象は、転生ヒロインを認めない

作者: 岡島 光穂

※一部性的指向としてバイだったという表現や、女同士で付き合っていた表現があります。性描写は全く有りませんが、不快に思われる方はブラウザバックお願いします。


 俺の名前はアレックス。ジニア侯爵家の次男で14歳。俗に言う前世持ちの転生者だ。もっとぶっちゃけて言えば、前世は女だった。


 性別違いで生まれ、違和感とか諸々心配だったけど、特に何の問題も無くすくすく育った。


 前世の性的指向で言えば、バイだったからかもしれない。男になりたいと思っていた事もあるし、一時期俺っ子だったしね。


 この世界の女の子は大体可愛くて綺麗だし、男の子達の美形率も高い。これは貴族だからなのだろうか? だったら最高だ。


 そして、貴族生活の中で思ったのは、男で本当に良かったという事だ。


 ドレスとかコルセットとかヒールでダンスとか無理すぎる。

 興味はある。勿論ある。だが、動き辛いのや苦しいのは嫌いだ。体を動かしている方が良い。剣術、体術、馬術と前世では出来なかった事が出来るのが嬉しい。魔法が無いのが残念な位かな。


 女の子に優しくするのも、当たり前だから何の苦も無い。むしろ一部で王子様扱いされる。……『女なのに』 とか、『女のくせに』 とか言われていた前世を考えれば本当、天国だよ。


 侯爵家だけれど、スペアの次男というのも良い。兄は優秀で何の問題も無いし、適当に王宮勤めを目指すつもりだ。


 有難い事に、第二王子と同い年に生まれ、幼い頃から側近候補にも挙がっているが、そこは王子に選ばれるかどうかだし。俺的には王子との関係も良い方だと思ってるけど、仮に選ばれなくても問題無い。


 今学園では、第二王子のクレメンスと大臣子息のデリック、近衛団長子息のブレア、王子の従兄弟で公爵家次男のダニエルと俺の5人で居る事が多いかな。


 そうそう、今は貴族の子女が13歳で入学し、15歳までの2年間通わないといけない王立学園の2年生。

 そして、2年になって3か月経った頃、ある女生徒が編入してきた。


 その子の名前はカレン・フロックス。……平民上がりの男爵令嬢で、乙女ゲームのヒロインだ。





 俺がゲームの記憶を思い出したのは、側近候補として第二王子と引き合わされた7歳の頃。


 その時に他三人も同席してて、名前を聞いた時にアレ? と思った。


 屋敷に戻り、どうにか思い出したら、前世で付き合っていた子が一生懸命やっていた乙女ゲームのキャラと同じ名前だと思い出した。部屋にポスターも貼ってあったな、そういえば。

 そして、自分もその中の攻略対象の一人であり、且つコスプレさせられたキャラだった事も思い出した。


 あー……すっかり忘れてたよー…。


 自分ではプレイしてなかったし、その子が語るのを面白く聞いていただけだから、詳しい内容はほとんど覚えてないけれど。この世界はきっとそのゲームに近い世界なのだろう。


 確か俺の元となるキャラは、女性不信のチャラ男。


 女性不信では無いし、チャラ男ではない……つもりです!


 まぁ、それは置いておいて。


 符合する部分が多くあるし、乙女ゲームっぽい世界って事は間違いないのだろう。

 だけど、俺という異物が居るから、全く同じにはなるとは思えない。


 こういう展開…漫画や小説だと、大体悪役令嬢かヒロインが転生者だよな。悪役令嬢は大体回避方向に動くから問題無いけれど、もしヒロインが転生者で痛い子だと困るな。普通に一途で可愛い子だといいな。第二王子以外の単推しなら応援しても良い。王族との身分差恋愛なんて、面倒臭い事この上ないし。





 そんな事を思いながら、王子達との交流は続いた。

 皆美形揃いで目が幸せだ。眼福眼福。流石攻略対象達。


 悪役令嬢といえば、第二王子の婚約者の可能性が高いかも? と思った俺は、9歳の頃にクレメンスの婚約者に決まったバーバラ・ディセントラとも積極的に話すようにした。


 前世の情報を不自然にならない程度に散りばめて、転生者かどうかも含めて探ってみたけれど、どうやら普通のツンデレさんらしい。一安心。

 ただ、このままツンデレ拗らせると、クレメンスとの仲が悪くなってしまいそうだ。


 基本、普通の男の子にツンデレは通用しない。


 特に貴族のツンデレは、我儘・傲慢に見られかねない。

 せっかく可愛いし、性格も別に悪くない。クレメンスを慕っているのに、ちょっと素直になれないだけだ。


 王宮で一緒になった時や、茶会の時にツン部分を少し抑えて貰う方向に誘導していった。


 最初は警戒されていたみたいだけれど、徐々に笑顔が出てくるようになった。周りの子女に嘗められない様に気を張っていたみたいだ。


 そうだよね、貴族のそういう所嫌い。


 公の場と、私的な場所を分けて、クレメンスの前では素直でいて欲しい。そして、クレメンスの素顔も見つけて、寄り添ってあげて欲しい。




 学園に入ってからは、俺とバーバラが楽し気に話していると、クレメンスが邪魔しに来る様になった。……いい傾向なんじゃない? 俺はいつもの様にそそくさと距離を取る。


 少し離れた場所で他三人がお茶をしていたから、俺もそっちに混ざる。


 クレメンスに近寄られ、頬を染めながら話をするバーバラ。

 恋する乙女は可愛くて良いね~。眼福眼福。


 ニヤニヤしていると、周りからツッコミが入る。


「おい、アレク。あんまりバーバラ嬢に構っていると、クレメンスが怒るぞ?」

「えぇ? 恋愛相談受けてんのに?」


 ダニエルが笑いながら忠告をしてきた。解せぬ。


「楽しそうに笑うバーバラ嬢を見て、複雑な顔してたぞ」

「『私には控えめにしか笑わない…』ってね」

「クレメンスの話なのにー! 見てよ、あの幸せそうな顔! 超恋する乙女じゃん! 俺多分、異性枠に入ってないよ?!」


 それにブレアとデリックも続き、俺を責めてくる。何でだ!!

 ふくれっ面をする俺に、苦笑いでダニエルが背中をポンポンと叩いてくる。


「分かってはいるんだろうがな。面白くないんだろう」

「理不尽ーー」


 あまりの理不尽さに机に突っ伏した俺の頭をブレアがぐしゃぐしゃと撫でながら、提案をしてくる。


「お前も婚約者作って、そっちに掛かりきりになれば落ち着くんじゃないか?」

「うーん、まだ考えてないんだよねー。王宮勤めが出来ればいいな~位だから。卒業して、仕事始めて少し慣れたら考えるかな? 爵位狙いの婚約とか嫌だし…それに婚約しちゃうと、他の女の子に優しくできないじゃん?」


 顎を机に乗せる形に変えながら、婚約についての自分の思いを述べるも、皆からの冷たい視線を受ける。


「お前は…」

「えへへ。とりあえず、学生の内は無いかな。どの子も可愛いし綺麗だから」


 特にデリックからの冷たい目と溜息が心に痛いが、へらりと笑ってその話題を終わらせようとする。


「……遊び人が…」

「酷い! 俺遊んでないもん!」


 デリックに吐き捨てられ、泣き真似で応戦する。


「大体の女生徒の名前を覚えてる奴がか?」

「関係ないじゃん! 女の子には優しくすべきでしょ?!」


 溜息を吐きながら非難されるが、力いっぱい否定させて貰う!

 女の子の名前を憶えている事と、遊び人は関係ないもん!!


「皆に優しすぎるのもどうなんだ? 一部男子生徒から、婚約者を誘惑するなと苦情が来てるぞ」

「嘘でしょう?! 俺程度の優しさで誘惑とか何言ってんの?! 自分の婚約者への態度を改めろって話だよ」


 個人的には普通の対応しかしてないのに。名前で呼んで、褒めて、笑って話をしているだけ。二人きりになんかならないし、不用意に触ったりもしない。


「それが出来ない奴だっているだろう。全員お前の様に出来ると思うなよ」

「恥ずかしいとか、そんなちっぽけなプライドなんて要らないよ。冷たい態度で婚約者を哀しませる奴は万死に値する」 


 女の子達の話を聞いていると、婚約者が冷たいとか、嫌われてるかもとかそんな話が多い。

 思春期の男の子には辛いのかもだけど、出来てる奴だって居るんだから甘えんなって感じ。それでいて婚約者には優しくしてほしい、甘えて欲しいとかマジふざけんなよ、と。


「さらりと出来る奴は良いよなぁ…」


 ブレアがぼそりと漏らす。うん、剣にしか興味のないお前には女心は難しいだろうね。誘われて断って泣かれてが1セットだと、たまに可哀想になるよ…。


「何なら、そいつら集めて講義でもする? 婚約者の扱いについて!」

「プライドに障るんじゃないか?」


 ダニエルが馬鹿どものプライドの話を持ち出してきたけど、そんなプライド捨ててしまえ。……自分が捨てられる前にね。


「ほーんと、小さい小さい。『政略なのだから必要無い』とか言っちゃうんでしょ? 政略だからこそ、分かり合う為に歩み寄るべきでしょうが!」


 ぷりぷり怒りながら演説する俺を、ダニエルが宥めてくる。


「はいはい、熱くならない」

「一緒に暮らすのに、お互い興味無しとか会話すらないとか、すれ違いとか悲しいよ…」

「貴族だから……ってのは詭弁なんだろうな」


 しょぼんとした俺に、デリックが哀しそうな顔で笑う。

 そんな空気を変えるように、俺は少し明るめの声を出し、ブレアとダニエルを指さす。


「ていうかさ、デリック以外も婚約者居ないじゃん! 俺だけ作れって言われんの可笑しくない?」


 すいっと視線を逸らしつつ、ブレアが口を開く。


「俺は、剣もまだ不足しているのに、婚約者の事など考える余裕は無い。それこそアレクの言う様に、相手を悲しませる可能性もあるしな」

「ブレアはストイックだよね~。そういう所、嫌いじゃないよ」

「うるさい」


 少し顔を赤らめたブレアには、完全にそっぽを向かれてしまった。


「ダニエルは? 血筋も見た目も良いし、引く手数多でしょう?」

「まあね。でも、それだけかと思っちゃうよね。少し見極めてから決めたいかなと思う」


 標的をダニエルに変えて話を振ると、苦笑で答えられた。『引く手数多』を否定はしないんだな。


「『俺自身を見てくれる人』的な? 中々ロマンチストなんだね」

「ニヤニヤするな。少し位良いだろう」

「うん、嫌いじゃない。むしろ好き」

「馬鹿が」


 ダニエルの返しにニヤニヤしていたら、デコピンを食らった。地味に痛い。


「デリックは? 婚約者とうまくいってる?」

「うーん……よく分からない、が本音かな」

「? そうなの?」


 涙目で額をさすりつつ、デリックにも話を振る。

 眉間に皺を寄せ、首を傾げながらデリックは話し始めた。


「屋敷の定期訪問時に、お茶を一緒にしている時も少し挙動不審だし、目もあまり合わせてくれない。プレゼントや手紙のやり取りは普通だと思うし、嫌われてはいないと思うが……」

「ふーん……デリックの婚約者って、今年入学してたよね?」


「ああ。今はまだ同級生との交流を優先しているから、学園では殆ど会わないな」

「なるほど~。じゃあお兄さんが色々聞いてあげないとな~」


 バーバラと同じく素直になれない子発見かな? お兄さんの相談コーナーが必要かな~とニヤニヤしていると、眉間の皺を深くしたデリックが睨んでくる。


「おい、何をするつもりだ」

「いや~? デリックに悪い事は何もしないよ~」


「お前のそのニヤニヤ顔がむかつくな……」

「うぷぷぷぷ。じゃあ、もうちょっと頑張って距離詰めなよ。きっと大丈夫だから」


 きっと挙動不審なのは、デリックにどう見られてるのか緊張しているだけだろうしね。デリックから優しく声をかけてあげて、緊張がほぐれればいい感じになるんじゃないかな~という予想。


「全てを悟った様な事を言いやがって…。でも、さっきのアレクじゃないが、お互いに興味を持つ事は大事かもな」

「そうそう。デリックだって婚約者と仲良い方が良いでしょ? 可愛い子泣かせちゃだめよ~」

「ああ、分かったよ」


 少し嬉しそうに笑うデリックに、仲が良くなるといいなって本気で思う。




 ふと、カレンについて皆からも情報収集をしてみようかな、と思いついたので話に出してみる。


「そういえばこの間さ、女の子の落とし物拾って渡してあげたんだけどね。初めて会ったにもかかわらず『アレク様』って呼ばれて驚いちゃったよ」

「は? 初対面で略称? 前に会った事があるとかではなく?」


 ぽかんとした顔で、デリックが聞いてくる。

 そうだよね、貴族としてあるまじき行為だよね。今世に慣れ切った俺としてはだいぶビックリした。


「俺、関わった事のある女の子は忘れないもん。それに、異性に略称呼ばせるのは、奥さんになる人だけって決めてるの!」

「お前こそロマンチストじゃないか」


 ダニエルが茶々を入れてくる。さっきの仕返しだな。


「いいでしょ! だから、呼ばないでねってお願いしたのに、『えっ、ダメですかぁ?』って猫撫で声出されてちょっと引いちゃった」


 上目遣いで、顎のあたりに軽く握った手を当て、鼻にかかった猫なで声を出された時は、ちょっとゾッとした。明らかに演技してるし、今世では居ないんだよ、そんな子。


「アレクが女の子に対して引くって……随分と珍しい」

「確かに…」

「ちなみに誰なんだ? その女生徒は」


 ダニエル、ブレア、デリックの順に珍しい物を見る顔で聞いてくる。

 そんな珍しい事言ってないよ!!


「ほら、1ヶ月前位に編入してきた子。薄いピンクっぽい髪色の、カレン・フロックス」


「ああ、あの子か」

「…………」

「あー……」


 三人とも微妙な表情で目線を泳がせる。


「何? その微妙な反応」


「俺もその子に話しかけられた事がある」

「ブレアも? ちなみにどんな?」


 意を決した様に、ブレアが話し始める。


「朝稽古をしている時に現れてな。俺の時も初対面でブレア様、と話しかけてきた。父や兄の事など引き合いに出して色々話し始めてな。貴方の努力は無駄じゃないとか、私は分かってるとか言い出して、少し気持ち悪かった」

「おぅ…」


 ブレアは確かに家族の事でモヤモヤしてた事もあるけど、それはもう吹っ切ってるし。初対面でそんな事言い出したら引かれるに決まってんじゃん。


「警戒していたが、やはり高位貴族狙いか」

「デリック?」


 眉間に皺を寄せ、少し考え込む様にしながらデリックが話し出す。


「図書室に居る時に話しかけてきてな。婚約者と上手くいってないのだろうとか、年下では貴方に釣り合わないとか色々な。私の婚約者の事はまだ公表されていないし、周りと仲良くなるまで暫くは話さないと彼女からも言われていて……どこから情報を得たのかと警戒していたんだ」

「おわぁ…怖い……」


 公表されていない個人情報どこから手に入れて来るのさ…って、ゲーム情報だろうね…。


「薄々はそうかと思ったけどね」

「……まさかダニエルも…?」


 溜息と共に話し出すダニエルをおそるおそる窺う。


「ああ。中庭で一人になった時に現れてね。少し話をしただけなのに、『私なら本当の貴方を見つけてあげられる』って言われた時は鳥肌が立った」

「ひぇ…」


 ちょっとしたホラーだよ! ヒロインとして言うべき言葉なんだろうけど、初対面で言う言葉では絶対無い。知らない方からしたら思い込みの激しい子にしか見えないよ!! ヤンデレかよ! ってなるよ!


「余りにも怖すぎてその後直ぐ去ったけれど、それ以降も一人になるのを狙われている気がして……」

「うん。それ怖い。よく悲鳴上げなかったね」


 普通に自分に置き換えて考えて鳥肌立った。腕をさすりながら、普通の顔で対応しただろうダニエルは流石と思う。


「しかもベタベタ触ってくるんだ。腕に胸を押し付ける様に組んでくるなど、淑女としてあるまじき行為だろう」

「あ、俺も胸筋と上腕二頭筋を触られた。筋肉を褒められるのは嬉しいが、慎みを持てと思ったな」

「確かに、腕とか背中とか触られました。服の裾を軽くつままれた時は、何をしているんだろうと思いましたね」

「ぶふぅっ」


 ダニエル、ブレア、デリックの順に被害報告をしてくる。

 前世のボディタッチは、今世では単なる痴女に近い。年頃の男女はエスコートやダンス以外で、特に女性から触れるなど、はしたないとしか思われない。きっとモテテクとして使っていたんだろうな…。

 服の裾つまんで上目遣いとか、俺からしたら可愛いと思える仕草だけど、皆からしたら『何をしている?』なのがツボる。笑い過ぎてお腹痛い。


「アレク、笑い過ぎでは?」

「うん、ゴメン……。まさか、クレメンスの所には行ってないよね?」


 皆の話を聞いていて、メインターゲットの所に行ってないとは思えないけど…と思っていたら丁度帰って来た。


「……何の話だ?」

「あ、お帰り~。バーバラ嬢は?」


「次の授業の準備があるそうでな、先に戻った。それで? 私がどうした?」

「いや、この間編入してきたカレン嬢の話をしていて……」


 クレメンスに話を振ると、微妙な空気を醸し出してきた。


「………ああ」

「眉間の皺、凄い事になってるよ?」


 クレメンスは腕を組み、眉間に皺を寄せて低い声で話し出す。


「この間、廊下で転んでいるのを見てな。立ち上がる為に手を貸した時に少し話をして……初対面で『クレメンス様』と呼ばれた時は耳を疑ったが……バーバラの事を貶める発言があったのと、私が兄上に劣等感を抱いている前提で話をしてきたのが苛ついた」

「うわぁ…。ちなみに、バーバラ嬢の事を何て…?」


 クレメンスの事もゲーム情報で攻めに行ってたのか…。王太子への劣等感も昔は少しあったけどね。バーバラや俺達との交流で、比べるべき所や目指すべき所が違うと理解したから、もう大丈夫なんだよね。


「プライドが高すぎるとか、平民上がりと見下されるとか、付き纏われて迷惑しているんだろうとかな」

「えぇ…? 実際のバーバラ嬢にかすりもしてないじゃん」


 バーバラに関しては典型的な悪役令嬢として扱うつもりみたいだね。

 でも、そんな事しないしさせない。表立って王子妃となる人へ悪評立てるとか、貴族として死にたいのかな? 物理的に死にたいのかな?


「本当にな。婚約者になったばかりの頃は周りに嘗められない様、少し傲慢に振る舞っていた部分もあったが……学園に入ってからは特に、身分の上下関係なく積極的に話をしているし、周りからの評判も良い。私に付き纏うというより、私の方から寄って行っているだけなのにな」


 優しい顔でバーバラを語るクレメンスに、自然に嬉しさがこみ上がる。

 良く見てんじゃん。俺とバーバラの努力が実ったみたいで、非常に嬉しい!!


「んふっ」

「……なんだアレク、その腹の立つ顔は」


 噛み殺しきれなかった笑いが漏れる俺に、クレメンスのジト目が突き刺さる。


「いやぁ、婚約者同士の仲が良いのは、いい事だなぁと」

「お前は人の婚約者に近付き過ぎだがな」


「えぇ? そう? ちょっと相談に乗ったりしてるだけだよ」

「私に相談すれば良い事だろう?」


「いやいや、女心を考えてあげなよ。俺は、女の子が可愛くなる事に協力を惜しまないだけだし。クレメンスの事を心から慕っているバーバラ嬢に、下心を持つ事は無いよ」

「バーバラが可愛いのは認めるが。女性に対するお前を、全面的に信用は出来ない」


「ひどいっ! こんなに尽くしてるのに! 俺を信じられないの?!」

「気持ちの悪い事を言うな!」


 ちょっとしたコントの様なやり取りに、クレメンスの声が大きくなる。


「あはは、女の子を理不尽に泣かせなければ、俺は敵にはならないから大丈夫だよ~」


「そういう所だぞ、アレク」

「お前の良い所と言っていいのか悩むところだ」

「まあ、害にならなければ良いのでは?」


 笑いながら言う俺に、ダニエル、ブレア、デリックの順に落としていく。


「皆も中々ひどいよね…」


 四人の呆れた目線にしょぼんとしていると、後ろから女性の声がかかる。


「あっ、皆様楽しそうですね~。私もお話に混ぜて貰っても良いですか~?」


 うわぁ、空気読まずにカレンが来たよ…。ここに来たのがバーバラかデリックの婚約者だったら喜んで迎えるけど、こいつは無理だ。

 異性のみの高位貴族の集まるテーブルに男爵令嬢が参加しようとするなんて、普通ならまずありえない。


「ん? ごめんね、カレン嬢。俺達もう行くから。……それに、俺達から誘わない限り一緒にお茶とか出来ないから、その辺りのルールはクラスの子達にでも聞いて確認してね」


「失礼する」

「ごめんね」

「では」

「……」


 皆が口を開く前に俺からやんわりと断りを入れ、立ち去る為に席を立つ。

 そして皆も続いて席を立つ。クレメンスに至っては目線も合わさないし、無言じゃん!!


「そうなんですか~? 残念ですぅ。じゃあ、今度誘って下さいね~」


「………じゃあね」


 皆の空気を感じないのか、無視してるのか、普通に次誘えと言ってくる。どんだけ自分に自信があるんだろう。心臓に毛が生えてんのか鋼なのか。どちらにしても凄いな…。


 四人を先に行かせ、少し遅れて殿を務める。まあ、付いて来ないとは思うけど、一応ね。

 

「アレの野放しは危険だなぁ……」


 ―――俺の呟きは、前の四人には聞こえない。



 



「アレク様、こんにちは~」


 一人で廊下を移動中、カレンがパタパタと走って近付いてきた。


「カレン嬢…その呼び方止めてって言ったよね?」

「え? そうでしたっけ~? 二人だけの時なら、良くないですか? 皆には内緒で…」


 分かりやすくとぼけてくる。そして俺の腕に手を伸ばしてくる所をすっと避ける。


「ううん、俺が嫌なの。君には呼んでほしくない」

「えぇ~ひどいですぅ~」


 腕を取れなかった事にもめげずに寄ってこようとするカレンを目線で制すも、あまり効果が無いようだ。


「クラスの子に色々確認してって言ったよね?」

「それがぁ、私、女の子たちから嫌われてるみたいでぇ、お話してくれる子いないんですぅ」


 あまり感情を込めない様に言ってるのに、演技バリバリの猫撫で声作ってくるのは本当凄いな。


「そっか。じゃあ、自分の何が嫌がられるのかとか、ちゃんと考えたら?」

「それがぁ、わからないんですぅ。カレン、悪い事してない筈なのにぃ」


 瞳を潤ませて上目遣いで見てくる。けど、自分を名前で呼ぶって…前なら分かりやすいぶりっ子だけど、ここでは更に異質だよなぁ…。


「そういう所だと思うよ。じゃ、君と長く話すつもりは無いから、行くね」

「あっ、アレク様ぁ」


 前回今回話して思ったけど、アレ間違いなく前世の記憶持ちだな。普通の貴族でアレは本当に無い。ギャル系では無いし、サークルクラッシャーとも何か違うか。………オタサーの姫?


 あー…可能性的にはだいぶ高い。


 二人でとか、内緒とか言ってたし。それに自分の事名前で呼んでたし、乙女ゲーに嵌まり込む夢女子だった可能性は高いだろう。


 ボディタッチを多めに、対象の心の弱い部分を突いて、自分だけが理解者の顔をして、秘密をエサにして、皆と関係を持つ。個人的な偏見が入りまくりだけど……逆ハー狙いだな、これ。


 誰か一人だけを狙うならまだしも、この間の話では皆を狙ってる。そしてバーバラを悪役令嬢に仕立て上げようとしてるんだろうな。


 女の子に優しくが信条の俺だけど、あのタイプは地雷なんだよね。


 まず、話が通じない。そして、被害者ぶるのが得意。自分が悪くても、相手を加害者みたいに見せるのが上手いんだよね。


 ……そんな奴に、クレメンス達を渡せる訳が無いよね。




 カレンと同じクラスの子や口の軽い子や噂好きの子をメインに、カレンの動向をそれとなく探ってみた。

 話しかけた時の反応や、返し。休み時間や放課後の動き。

 目立つ動きが出来なかったから時間がかかってしまったが、1ヶ月で欲しかった情報はだいぶ揃った。


 クレメンス達には出来るだけ一人にならない様に気を付けてもらって、カレンとの接触は最小限に抑えた。

 バーバラにも誰かと一緒に行動してもらい、カレンの近くに寄らない事を徹底してもらった。理由をはっきりと説明出来なかった事がつらかったけど、俺の言う事を守ってくれていた。思ったより信頼されてるみたいで、ちょっと嬉しい。


 囮として俺だけ一人で行動していると、たまにカレンが突撃してくる。一部の女の子達に『カレン嬢が少し苦手』とこぼしたら、誰かしらが来てくれる様になって、二人きりになるのを阻止してくれる。本当有難い。


 ゲーム内容とは違う行動を取る俺達に、流石のカレンもイライラし始めて来ているようだ。

 女の子達から色々情報収集をしていると、最近不穏な行動をしている事が分かった。





 放課後、人気のない教室――

 

 きょろきょろと辺りを見回した人影は、おもむろに一つの机の中身をぶちまけ、ハサミを手に持つ。

 自分の制服にハサミを当て、一気に―――




「何してるの?」


 突然かけられた声に、ハサミを持つ手が止まる。


「あらら、どうしたの? こんなに散らかして。それに、ハサミを自分に向けるのは危ないよ?……カレン嬢」


 普通に話し始める俺に、驚いた表情を見せるカレン。


「……アレク様…」


 何回言っても変えないよね。確かにゲーム内ではヒロインはその呼び方だったみたいだけど、俺はヒロインだと認めない。


「だから、その名で呼ばないでって、何回言えば分かる?」

「だって……」


 少し強く言えば拗ねた表情で口を尖らせてみせる。


「それに、これはどういう事?」

「これはっ…その…っ、わ、私、虐められてて……」


 そんな事よりも、現状に言及すれば少し慌て始め、持っていたハサミを俺から見えない位置の机へと置く。


「……ふーん」

「きっと、バーバラ様からの指示なんだわ」


「………」

「私が、クレメンス様に近付くから目障りって…」


 やっぱり、バーバラに冤罪かける為に色々やってたんだね…。許せないなぁ……。


「自分でやったの、全部見てたよ?」

「は?」


 ニッコリ笑って見ていた事を告げれば、カレンはぽかんとした顔となる。


「君が最近、自作自演しながら虐め偽装してるのも知ってる。でもね、バーバラ嬢のせいにするには無理があるよ。こんな嫌がらせ、平民ではあるのかもだけど、高位貴族はしないから。もし本気で目障りなら、君は既にこの学校には居ない」

「え?」


 続けてバーバラのせいにするには無理がある事を説明すると、怪訝そうな顔に変わる。


「もう、こういう事止めなよ」


 最後の優しさとして、改心する可能性にもかけてみたいから。

 もし、今教えた事で自分の行動が間違っていると気付いたのなら。乙女ゲームは現実には起こらないと気付いてくれるのなら……出来るだけ穏便に事を収めたい。


「…………なんで?」

「はい?」


 俯いていたカレンから絞り出す様な低い声が出た。


「何で、皆違う事するの?! 私を愛してくれるはずじゃない!!」

「君、何言ってるの?」


 ああ、分かってくれなかった。ゲームに固執している。

 でも、自分が前世の記憶持ちという事はバラしたくはないから、ゲームに関係する言葉は使えない。あくまで貴族としておかしい事なんだと、教えてやるしかない。


「おかしいのよ、皆! 何で私を避けるの? 何でイベントが起こらないの?!」

「何を言ってるのかよく分からないけれど。君の態度は馴れ馴れし過ぎるし、貴族としてのマナーも勉強も足りてない。そんなルールを無視しすぎる子を王族の側に寄らせる訳ないでしょう?」


 イベントとか言い出した。ゲームの通りに動く訳が無いのに。プログラムされた人格じゃないんだ。皆、自分の意志で動く人間なんだと気付いて欲しい。何よりも、本来の自分とヒロインが全く同じじゃないと何故気付かない?

 

「アレクだってそうよ! 女性不信なんじゃないの?! 私にだけ心を開いてくれるはずじゃない!」

「女性不信? そんなの知らないよ。それに、俺は君だけには心を開かないと思うよ。君と関わる事が女性不信に繋がりそうだ」


 どうしてそこまで思い込めるのかが分からない。ゲームに固執して何になると言うんだろう。そんなに、決められたルートを歩きたいのか?………決められたルートじゃないと、歩けないのか…?


「ひどい! どうしてそんな事言うの?!」

「ひどくないね。バーバラ嬢に虐めの冤罪をかけようとした君に言われたくない」


 取り乱したままのカレンに追撃をしていると、ふとカレンが、今までの猫を被った笑いでは無い、黒い嗤いを浮かべた。


「………じゃあ、冤罪をかけるのは貴方にしてあげる。貴族にとってもスキャンダルは問題よね?」

「は?」


 そう言うと、机に置いたハサミを掴み、自分の制服のスカートを切り裂き、大声を上げる。


「きゃあぁあぁ!! やめて、アレク様!!」

「なっ…」


 ハサミを俺の足元に投げ、両手でスカートを押さえ後ずさる。


「これで、貴方は責任を持って私を娶らないといけないわよね?」

「……はっ、とんだ性悪だね」


 前世でこの状態なら、悪く見られて責任を取らされるのは間違いなく俺だろう。

 でも、ねぇ……俺は侯爵家でカレンは男爵家。火を見るよりも明らかなんだけど……。


「いいのよ、逆ハーは無理っぽいし、貴方で手を打ってあげる」

「随分上からの物言いだね。それに、『逆ハー』って何だい?」


 貴方で手を打つって。俺ってどんだけ下に見られてんのさ。

 さっきまで頭の片隅にほんの少しだけあった、可哀想な子なのかもしれない、追い詰めすぎない方が良いのかも、という殊勝な考えはどっかに飛んで行ってしまった。


「こちらの話よ。さあ、誰かが来たわ。言い訳でも考えたら?」

「本当に貴族の事、何も理解していないんだね。瑕疵がつくのは君だけで、俺の立場は何も変わらないんだけど…」

「……え?」


 勝ち誇っているカレンに、溜息交じりに教えてあげる。……どの位理解しているかは分からないけど。

 そんな事を言っているとブレア、ダニエル、デリックが教室に飛び込んでくる。


「大丈夫か? アレク!」

「今の声だが、無関係の者には聞かれていない」

「先生方も、もうすぐ来るだろう」


 カレンと対峙してすさんだ心が、皆の美しい顔で浄化されていく。ありがとう、美形の攻略対象者達。


「ありがとう、皆。クレメンス達は?」


 素直に感謝が口をつき、この場に居ない二人の確認をする。


「隣の部屋でずっと聞いているぞ。バーバラ嬢が少し顔色を悪くしていたが、大丈夫と言っていた」

「そう。良かった」


 この教室で話している内容は、隣にも聞こえる様に少し窓を開けておいたから大体聞こえていただろう。自分が知らなかった所から向けられていた悪意に、気付かせてしまったバーバラには申し訳ない事をした。……けれど、聞いていてもらった方が良い事だったから……。クレメンス、ちゃんと支えろよ!


「何…? 何なの?!」


 普通なら自分が優先されるべきシチュエーションで、誰も自分を見ない事なんて経験したことが無いのだろう。茫然としたカレンが叫ぶ。


「君が教室に入った後に、人払いは済んでいる。それに、教室の外にはブレアが、廊下の端にはダニエルとデリックが立ってくれていたんだ。君がどんな状況で今の行動を起こしたのかは、ブレアと隣の部屋に居たクレメンス、バーバラ嬢が証言してくれる」

「そんな……」


 俺の言葉に、カレンは顔色を無くす。

 一対一と思っていたのに、それが覆されたのだから仕方ないだろう。


「俺を嵌めようとした女として、君は有名人になるんだろうね」

「いや…」


 わざと優し気に微笑み、自分の犯した罪を認識させる。

 自分より上の貴族に冤罪をかけるという事を、これからじっくり理解していく事だろう。


「うち…ジニア侯爵家とバーバラ嬢のディセントラ公爵家からは、フロックス男爵家へ正式に抗議させて貰うから」

「何で……」


 カレンは信じられないものを見る目で、俺を見てくる。

 そんな大ごとになるなんて考えもしなかったのだろう。


「王家としてか、私個人としてか…どちらになるかはまだ分からないが、私からも正式に抗議を入れる。私の婚約者と側近候補、二人を貶める様な者が貴族にいるとは……私も馬鹿にされたものだな」

「クレメンス様…」


 そんな中、一人で入って来たクレメンスが追加での抗議を申し出る。

 何も考えられなくなっているのか、カレンがクレメンスの名を呼ぶと、途端、クレメンスの全身に怒りが漲る。


「我が名を呼ぶな。お前にその許しを出した覚えはない!」

「ひっ…」


 クレメンスの怒りを真正面から受けたカレンはその場にへたり込む。

 流石王族、オーラが違う。まあ、バーバラを巻き込もうとした事が一番の怒りポイントなんだろうな。


「殿下! 一体何が?!」

「ああ、先生。この女生徒が錯乱してな。救護室で傷が無いか確認の後、自宅で療養するように手続きをして頂きたい」


 ダニエル達が呼んだ先生方が数名、教室に転がり込んできた。直前のクレメンスが怒る声を聞いたら、そりゃ慌てるよね。

 座り込んだカレンを見て、先生は疲れた表情で嘆息する。きっと色々あるのだろう。


「……カレン・フロックス、ですね。畏まりました。では、学園長へ…」

「ああ、学園長には私達から説明をしに行く。時間の都合がつけば、今からでも」


 自分達から詳しい報告を、とのクレメンスの提案に先生は一つ頷き指示を出す。


「畏まりました。じゃあ君、学園長の予定を確認してきてくれ。その後、フロックス男爵家に使いを出すように。私はフロックス嬢を救護室に連れていく」

「はい!」


「では殿下、失礼します」

「ああ、宜しく頼む」


 その後、学園長に時間を貰った俺達は、カレンの素行などについてと、これから俺達の家から抗議が行く事も含めて報告。

 先生方からも、カレンの行動について生徒から色々苦情が挙がってきている、と報告があった。それも踏まえて暫くの自宅謹慎となる。その後は退学処分となるか、転校になるかは、抗議に対するフロックス男爵の対応次第となる。


 ……これから先、彼女と会う事はきっと無いだろう。





「それにしても、アレクがこんな方法を選ぶとはな」


 ふと、クレメンスが口を開く。


 今は、学園長への報告も終わり、皆一緒に王家の馬車で王宮に向かっている途中だ。バーバラは少し疲れたと、謝りながら帰ってしまった。


 何故王宮に向かっているかというと、一つの懸案事項が片付いたからと、クレメンスが晩餐に招待してくれたのだ! 美味しいご飯がいっぱい食べれる!!

 ご飯に思いを馳せていた俺は気の抜けた返事を返す。


「何が?」


「彼女を嵌めるみたいな状況だったからな」

「ああ、でも俺達以外が居ない状況は作ったし、他の貴族から無駄に攻撃される事はないんじゃない?」


 カレンへの対応ね。でも一応は気を使ったつもりなんだけどね、これでも。カレンの言動のせいで色々噂は出るだろうけど、直接男爵家にどうこうする人は居ないだろうし……それが分かった時には攻撃する所が無いだろうけど…。


「いつもは女の子に優しく、って徹底しているのにな」

「彼女には最初から厳しい対応だった気がする」

「確かに。他の子にはしない言い方とかあったな」


 三人が次々に述べてくる内容はあながち間違いでは無く、そんな事無いと言い切れないのが辛い所だ。


「うーん、何て言うのかな…。普通にね、誰かに恋をするとか、憧れでキャーキャー言うとか、そういう子なら可愛いね、で良いんだけどさ。彼女って、男を侍らせるのが目的と言うか…男を自分のアクセサリーとしか見ていないと言うか…自分の思い通りに操れると思っている節があるのが見えて、俺的に苦手なタイプだったんだよね」


 素直な気持ちを吐露したのに、皆一様に驚いた顔でこっちを見てくる。


「お前にも苦手なタイプとか居るんだな」

「居るよ! 決まってんじゃん! ただ、今まで近くに居なかったってだけだよ」


 しみじみと言うダニエルの言葉に、逆に驚かされる。

 無償の愛(アガペー)とか無いから。どんな女の子も好きとか、そっちの方が怖いじゃん。


「基本どんな子でも平等に対応してる様に見えたから、皆同じなのかと思ってた」

「ちゃんと考えてたんだな」


「何かヒドい……。それにね、そんな子に皆やバーバラ嬢が振り回されたりしたら嫌だなって……」


 泣き真似をしながら、少し茶化して本音を込める。


「アレク……」

「……そうか」

「ありがとうな、アレク」

「……バーバラの事も気にしてくれたんだな」


 本音部分に気付いてくれたのか、皆優しい雰囲気で笑う。


「当たり前だよ。せっかく二人いい雰囲気なのにさ、勘違いとか嫌だし、変な溝とか入れられたくないじゃん」


「そうだな……。だから、あんまり近付くなよ」

「えぇ~? またそれ~? もういい加減、信用してよ~」


 前の話を蒸し返してきたクレメンスの言葉に皆で笑い合いながら、馬車は王宮へと進んでいく…。




◆簡単なその後◆

フロックス男爵家は見事に没落し、カレンは退学処分。どこかに売られて行きました。

王族、公爵、侯爵に睨まれたらそうなりますよね。

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アレクがいちいち何度も反論しないと女性へのスタンスを信じない周囲になんだかもんやりしました。 一度だけでなくそんなに何度も貶す必要あるか? 自分達がきちんと女性に優しく出来ないからアレクのあり方を否定…
[良い点] 好きな話なので久しぶりに読み返しに来ました。 何度読んでもワクワク楽しいです。
[良い点] まとも系チャラ男がかわいい。 よくある「邪魔すると思ったら、あんたも転生者だったのね!」パターンではなく、ヒロインに微塵も気づかせない&あくまで貴族の常識で撃退するのが良い。 このチャラ男…
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