うちの助手がウザすぎる‼︎
ちょうど昼の一時の鐘がなった時、私の助手が、バタン! と部屋の扉を開け「博士、博士〜!」と、なんだか嬉しそうに私の所へ駆け寄ってきた。彼の手には、掌サイズの四角い装置が収まっていた。
「ついに完成したんですよ、博士!」
彼はここ何ヶ月間か、博士である私に内緒でひとり何やら訳の分からぬ装置の開発をしていたようだった。
「何かな、これは」
「これは安眠装置です!」
彼はその装置について説明し始めた。
「これは素早く眠れる為に造られた装置で、コンセプトはズバリ『10秒でぐっすり!』です。簡単に仕組み説明しますと、激しい運動した後は疲労から眠くなるという事実を応用してるんです。名付けて『10秒で寝られるよ君』です!」
やれやれ、助手にはもう少しネーミングセンスを磨いて欲しいものだ。
「それでですね。ちょっと博士に試してもらいたいんです」
「ほ、本気⁈」
その提案に、背筋がぶるっとふるえた。
いやいや待ってくれよ。こやつの発明品は何度か見てきたが、全てろくなものではなかったぞ。
助手を見ると、ニタニタと笑っていた。歯茎が浮き出てキモかった。
「え〜なんか怖いなー。君の発明品すぐに爆発するもん」
「大丈夫ですよ〜。今回は百回くらい実験してますから」
なんだかその"くらい"というところに一抹の不安を感じるが、ん〜まあ仕方ない。可愛い助手と科学の発展のためだ、一肌脱いでやろうじゃないか。(本当はやりたくない)
「ありがとうございます! では早速」
助手は装置の上の蓋をあけると、中からいくつかの赤や緑の導線を取り出した。その先端には吸盤の様なものが取り付けられていた。もしかしたら”発明”とか言って、上司であるこの私を爆殺しようとしているのではないかとほんの少しだけ脳裏をよぎってしまったが、ここは助手を信じることにした。
助手は中身を出し終えると、それについて説明した。
「このパッドを体に貼り付けます。それでここですね。ここのスイッチを押すと微弱な電流が流れて筋肉を収縮させるんです。つまり、これで強制的に筋肉を動かすことで効果が得られるというわけなんです」
「なるへそね」
原理は何となくはわかったが、やはり不安が拭えない。本当にこんなんで大丈夫なのだろうか。
助手は不安げな私の顔を見ると、”大丈夫大丈夫死にやしませんよ”という意味であろうウインクを飛ばしてきた。キモかった。
「博士。パッドつけるんで、ちょっと裾をあげてください。あと、このパッドを腕につけてもらえますか」
私が言われるがままに裾を捲り上げると、助手はその場にしゃがみこみ私の脚にパッドを張り付けた。そのとき助手が小さな声で「うわ、毛深」と言ったのを私は聞き逃さなかった。その何気ない一言が私の心に決して癒えることのない傷を作ってしまったことを、のちに助手は後悔することになるが、それはまた別のお話。
そのあとは胸や腹にもペタペタとそのパッドを貼り付けた。体に直に貼り付けているので気持ちが悪い。
「出来ました? 出来ましたら次はこれを被ってください」
そう言って助手がこれまた装置から取り出したのは、コンパクトに折りたたまれたネットのような帽子だった。
「これも言ってしまえばさっきのパッドと同じ様なものです。頭なんで帽子型にしてみました」
「いやいや、そういう風にするんだったらさっきのも服型とかにしろよ。と博士は心の中で思った」
「博士、声に出てます」
おっと失礼。(テヘペロ)
それにしても、ちょくちょく段取りが悪い。まだここは改良の余地があるが……
「じゃあ博士、隣の部屋に布団が用意してあるんでそっち行きましょう」
そう言われ隣の部屋に入ると、床に敷かれていた布団からコードが伸びている事に私は気づいた。
「それは何だね」
そのコードを指差し、助手に訊く。
「これは布団温め機です」
助手が掛け布団をめくると、薄い銀色のシートが敷布団の上に敷かれてあった。
「いざ眠ろうそした時に『布団が冷たい!』ってなったら、目が覚めてしまうと思うんですよ。なので事前にセットしておきました」
なるほど一理ある。やるじゃないか助手。
ん? いや待てよ。しかしでもこれは……
「じゃあ、博士。早速ですが電気を流します。いきますよカウントダウン。3、2、1——ぶりッ‼︎」
「おおおおおおッ!」
電流が身体中を駆け巡る。
その凄さに、思わず叫んでしまう。
そして、助手の気持ち悪い効果音の使い方はさておくとして、電流は10秒間流れ続け、微弱な刺激が全身に疲労感を与えた。流れ終わった直後、今までなかった眠気が全身に襲ってきた。
「どうですか? 博士」
「うん、効果は確かにあるようだ。だけど……」
そう、確かに効果は絶大だ。これをうまく商品化できれば我が研究所も資金に余裕を持たせることができそうだ。なかなかやるではないか。だがひとつ、助手は重大なことを忘れている。
さっきからずっと思ってたことなんだが、時計を見ればもう一時半だ。
「これセットに時間かかりすぎじゃね?」