毒ガスをゆっくり味わうなら
毒ガスをゆっくり味わうなら一度死んでみるといい わたしは新品の椅子に腰かけ
て黒い兵士たちが行進する姿を見る若くうつくしい顔は死に欲情して紅潮している
彼らはわたしを見る銃口を向ける安全装置を外す弾を射出する わたしはバラバ
ラになってしぬその弾は言葉と呼ばれている存在と呼ばれているときどきわたしと
よばれていてわたしは笑いだす 捻じれた腸からヤシの実を排泄する猿は木々の間
で踊りながら太陽をわらうその猿はわたしだ 草をたべていたら屠畜場に連れられ
ていく牛が鳴くその調べはわたしだ 量子力学の夢を見ながら宇宙をとぼとぼ歩い
ているとお母さんの夕ご飯を思い出しておセンチになるねあの星々に向かってひと
みを差しだすと未来は過去と一つになって両手が一本の手になるね その手で神様
が産卵する屠畜場の牛の頭をうけとめて空に投げ返そういつか骨になった頭部を風
が鳴らしてこう言う 「わたしたちは存在しません わたしたちは存在しません」
それから兵士たちは泣き出してお母さんの胸に飛び込むまるで3歳児のように震え
あがって鼻水を柔らかい匂いの服でぬぐうお母さんも震えていて太陽を見上げてい
るあの太陽はわたしたちを海からすくいあげたのだから憎まれるべきだとお母さん
は言う わたしは腐っていくことに新しい名前をつけたくてバナナの皮を部屋に
放置する