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ただ君の星だけを見ていた  作者: 早海和里
ただ君の星だけを見ていた
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第12話 示された未来図

「で、何でしょうか……」

「あの子、結構問題児ね。劉飛様の弟分ってことはあるわ。あなたも大変でしょう」

「退屈凌ぎにはなりますよ。管財人なんてお館様の留守番役ですから、屋敷に釘付けの生活ですし……」

「純粋で、一途で、恐いくらい……どうか、あの子から目を離さないで……」

「……どういう?」


「あの子、何も知らないの。あの日、自分が優慶様に会ったのも、天海様のご養子になったのも、全て偶然だと思ってる。自分が運命に選ばれたんだという事を、まだ分かっていないのよ」

「運命に……選ばれた?それは、あなたお得意の予言ですか?星見姫」

 華梨の仰々しいもの言いに、梗琳が思わず苦笑する。

「茶化さないで。今に見てらっしゃい、星海は、この帝国の台風の目になるわ。あなた、寿命は長そうだから、せいぜいしっかり見守ってておあげなさい、宰相閣下のご子息付参謀長殿」

「……参ったな。君と話していると、いつも最後は喧嘩ごしになってしまうんだな」

「あなたの認識不足なんだわ。私をその辺にいるお姫様と、同じだと思ってる。昔のままね。変わってないわ」

 華梨がふと笑った。


――あなたのその笑顔も昔のままだ。変わっていない。残酷なぐらいに……


 その笑顔に、梗琳の口から思わず本音が零れ落ちる。

「……あなたは今を時めく宰相閣下のご息女。私には眩しすぎて、結局、高嶺の花でしたからね」

「それももう……昔の話ね」

 少女の瞳が小さく揺らめく。先刻とは違う、どこか儚さを宿した瞳に、やめようと思いながらも、彼はつい訊いていた。

「星見の宮に引き籠もるのは……周翼様のせいですか?」

「……分からないわ。ただしばらく一人でいたいだけ」

「……私じゃ、お役に立てないのかな」

 梗琳が不意に見せた真面目な表情に、華梨は戸惑った顔をした。


 その言葉の意味に――


 華梨は、梗琳が自分に対して持っていた感情に、初めて気がついたのだ。


「……あなたを一番に好きになれたら、多分、もっと平穏な人生が送れるのかも知れないわね。こういうの、損な性分って言うのね、きっと」

 華梨が切なそうに微笑んだ。


――思う人には思われず、か。お互い恋愛運はあまり良くないらしい。


 梗琳は自嘲ぎみにそんな事を思った。


――損な性分か……全くだ……


 自分を置いて河南へ去ってしまった周翼を、華梨はこの先ずっと想い続けるのだろうか。そう考えて梗琳は、自分もまた今まで彼女の事を心のどこかで、ずっと想い続けていたことに気付いた。


――人の思いなど、そんなものだ。



「星海様の事はご心配なく。もとより、たとえ火の中水の中、地獄の果てまでもお供するつもりでいますから」

「あなたが付いていれば、きっと大丈夫ね」

「星見の宮からの、一日も早いお帰り、お待ちしていますよ。俗世と縁をお切りになるのは、もっと年を取ってからになさい。人生大いに楽しんでからで十分」

「……なんだか、変わられましたね。そういう楽観的な所、以前にはなかった気がする……」

「星海様といると必然的に、そうならざるを得ないと言いましょうか。あまり生真面目神経質では、あの方の教育係など務まらないと、こう悟ったんです。なにせ、台風の目相手ですからね」

 冗談めかして笑う梗琳に、華梨は重かった気分が少し軽くなったような気がした。





 宰相の執務室に来た星海を自分の前に座らせると、天海はしばらく黙ったまま、息子の顔を眺めていた。何か思案する様に、手にしている筆の尻をトントンと机に規則的に落しながら、ややあって、おもむろに口を開いた。


「明日から、城下の剣術道場へ通え」

「……はい」

「いずれ近いうちに、近衛隊を再編しなくてはならない。蒼炎そうえんの謀反騒動で、解散してしまったのでな。現在、この燎宛宮の守備は半減してしまっておるのだ。河南の大公軍は秋白湖しゅうはくこの敗北で、今のところ動く気配はないが、そうのんびり構えている訳にも行かぬ」

「はい」


「その近衛にお前を入れようと思うが、近衛は皇帝直属なのでな。審査が厳しいのだ。剣術のみならず、身分や人柄、容姿に至るまで、慎重に検討される。お前はわしの息子だから、無理に入れようと思えば、出来ぬこともない。だがな、実力を持たぬ者に兵は従わぬものだ。彼らは指揮官が有能か無能かを、よく見分ける。自分の命を預けるのだ、当然のことだな」

「……俺を近衛の指揮官に?」

 星海が確認するように尋ねた。近衛になれば、優慶を最も近いところで守れるのだ。星海には願ってもない事である。


「まだ先の話だが、いずれはな。勉強にも身を入れねばならぬぞ。剣術だけでは兵は付いて来ぬ。人は運と実力を持って、階級という階段を登るが、お前はすでに、大きな運を持っているのだ。それに見合うだけの実力を一日も早く身に付ける事だ」

「はい」

「実力の裏付けのない運は、人を堕落させる物でしかない。お前が宰相の息子だというだけで、媚びへつらうものもおる。だが自分の力を過信してはならぬぞ。自身の力量を確かめながら、焦らずに、一歩ずつ歩く事だ。よいな」

「はい。お言葉、しかと心に留め置きます」

 近衛入隊という具体的な目標が見えた事で、星海にやる気が出てきた様子を見て取って、天海は満足げに頷いた。


「うむ。時に、劉飛の様子は、どうじゃ?」

 天海が唐突に劉飛の事を切り出してので、昨日の事がばれたのかと、星海は一瞬言葉に詰まった。

「はい……大分、落ち着かれたようにお見受けいたしましたが……」

 星海は言葉を選びながら答える。

「そうか。明日、わしが公務で訪ねると伝えてくれぬか」

「……じゃあ、謹慎を?」

「帝国の逸材を、この忙しい折に、そういつまでも遊ばせておけぬわ」

「では、早速知らせに行って参ります」

 星海はあまり劉飛の事を聞かれぬうちにと、天海の前から下がった。廊下に出たところで梗琳と落ち合うと、星海はその足で劉飛の屋敷に向かった。




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