金の雨が降る傘
帰りの電車に乗ってボーッと景色を眺めてると雨が降り出した。
すぐに土砂降りになった。
朝晴れてたし、傘持ってねぇよ…
29歳・派遣社員の兄ちゃんは心の中で嘆いた。
家の最寄り駅で降りた。少し雨宿りしてこうと駅で待機した。
この駅はあまり人が降りない。
ウロウロしてると自動販売機の横に傘が立ってた。紺色の65cm。
周りに人はいない。
手に取った。持つ所に『金』と書かれてる。
韓国の人のかな?
明日もこの駅に来るから今日だけ金さんに借りよう。拝借した。
おかげで雨に濡れなかった。帰り道パチンコ屋が見えた。眺めながら
1万くらい勝ちたいな…
と思ってると上からヒラヒラと1万円が落ちてきた。
えっ!
驚いた。どこからだ?
上を見ながら
『1000円で晩飯食いたい』
と願うと傘から1000円湧いてきた。
金さんじゃない。お金の事だ!
人生で一番喜んだ。
風呂なしアパートの2Fに帰り、部屋の中に傘を入れた。
1万! 1万!
2万出てきた。
1000万!
本当に出てきた。金で一杯になり、部屋が雑誌の怪しげなページみたいになった。
2億がサラリーマンの生涯賃金だと聞く。
2億❗️
これで俺はサラリーマンを超えた事になる。
バコンッ❗️
床が抜けた。
下の階の大家さんとこに落ちた。
金も落ちた。
「あんた、なんね、この金!」
「金が湧く傘を手に入れたんだ。あれっ!無い!」
「何訳わからん事言ってるんや!」
面倒くさいので大家さんに1000万あげた。
パチンコ負けても競馬負けてもいい。働かんでもいい。
キャバクラも風俗も行った。
楽しいのは最初だけやった。
ギャンブル負けてもいい。女は金目当て。
何かが虚しくなった。
うつ病診断された。
楽しい物が楽しくなくなった。
貧乏が長過ぎて金の使い方が分からなかった。
ほどほどが一番。